残業代がまた高くなるってことですか。
今の残業代って1.25じゃないですか。
1.25?
時給1000円の人なら、8時間超えたら1250円になるんです。
なるほど。
そこに上限ができて、月60時間を超えると、そこからは1250円が1500円になるんです。
1.5倍ってことですか。
はい。1.5倍になる。大企業はもうそのルールでやってます。
60時間ってことは、20日で割ると1日3時間ってことですか。
そうですね。
毎日3時間残業して仕事が終わらないって、あんまりない気がするんですけど。
いくらでもありますよ。安田さん。
そうなんですか。私は会社員時代からほとんど残業というものをしたことがなくて。
それはかなり特殊なケースです(笑)
残業する人って基本的に仕事が遅いじゃないですか。要領が悪かったり。
いま残業してる人はその真逆ですね。
真逆?
だって、そういう人たちは残業させてもしょうがないので。
確かに。経費の無駄ですね。
残業代がキッチリ支払われるようになって、できる人がどんどん仕事を抱えてます。
なるほど。できる人は早く帰れたのに、今はできない人の分も押し付けられると。
残念ながら、そういうケースが多いです。
コスパを考えたら、どうしてもそうなりますよね。
会社からすれば、なるべくできる人にやらせたい。だから仕事ができる人にどんどん寄っていく。
できる人って元々の基本給も高いはずで、残業代もかなり高くなりませんか。
そうなんです。だから残業させてまでやらせるのかって問題が出てくる。
月60時間以上残業してる人って中小企業には多いんですか。
多いと思います。
やはり仕事ができる人が残業してる?
そういう傾向はありますね。とはいえ現場が人不足なので。中小企業って余計な人材を抱えられないじゃないですか。
すぐ赤字になっちゃいますからね。
中小企業は製造のコントロールがほとんどできないんです。コロナでいきなりなくなったり、いきなりどっと仕事が来たり。
そんな感じですね。
そうすると現場はもう残業せざるを得ない。
でも60時間といったら、1日の労働時間は10時間を超えますよね。
そういうことになります。
労基署とかは大丈夫なんですか?
36協定には上限がありまして。違反すると労基署にやられちゃうわけですけど、お金のペナルティはなかったんです。それが60時間を超えると出てくる。
この先、中小企業はどうなっちゃうんでしょう。
たぶん中小企業には1.5倍払ってまで受けたい仕事は、来ないはずなんです。
そんなに儲かってないですもんね。
だからさらに生産性を高めないといけない。
残業代のかからない人がやるとか。「課長以上は年俸制」って会社がよくあるじゃないですか。
駄目ですね。労働基準法には「管理監督者」の定義があるんです。課長だから管理監督者なわけじゃない。
へえ〜。
管理監督者は原則、休日とか時間外っていう概念がなくなる。だから働かせ放題という部分は確かにあるんです。
だから会社は管理監督者にしたいわけですよね。
そうなんですけど。ただ「労働基準法の管理監督者」と「中小企業の管理監督者」って全然違うんです。
どう違うんですか。
労働基準法上の管理監督者というのは、極めて経営に近い。人事権があるとか、経営権があるとか。何時に来てもいいよとか。
普通の中小企業で言えば社長ぐらいですね。そんな待遇は。
そうなんです。
じゃあ出社時間が決まってるとか、現場の仕事をさせてるうちは駄目ですか。
給与も500、600万円じゃ、とてもじゃないけど管理監督者とは言えない。
プレイングマネージャーもダメ?
プレイングマネージャーは法律上の管理監督者とは言えない。間違いなく残業精算させられると思います。
もし払うとなったら莫大な金額になりそうですね。
マクドナルド事件という有名な判例がありまして。マクドナルドの店長って、昔は管理監督者になってたんです。で残業させ放題だったんですけど、店長が訴えて。
会社が負けたんでしたっけ。
どう見ても管理監督者じゃないでしょって。最終的には和解したんですけど、「もうほぼ負け戦だったって」のが、世間一般の考えなので。
マクドナルドの店長はダメでしょう。どうみても店員の延長ですよ。
でもマクドナルドの店長って給与いいですからね。
いくらぐらいなんですか。
600万は超えてました。安田さんの感覚だと少なく感じるかもしれませんけど。中小企業の課長で600万超えてない人ってたくさんいますから。
600万でも働かせ放題はダメだと。
そういうことです。
いつから適用されるんですか。60時間超えたら1.5倍。
2023年の4月です。
来年4月ですね。これはもう周知されてるんですか。
4年前ぐらい前にもうオープンになってます。
でも知らない経営者さんがたくさんいそう。
そうなんですよ。いつも言ってるんですけど。やっぱり迫ってこないとみんな気付かないみたいで。
できる人に残業させたら辞めちゃう可能性もあるし。お金より時間がほしい人はどんどん転職しちゃいそう。
もともと働き方改革って、「時間を絞って生産性を高める」という改革なんです。ただお金のペナルティがなかっただけで。
ついにそのペナルティーができちゃうと。
いよいよ本格的にキツくなっていきます。
つまり国による兵糧攻めですよね。言うこと聞かないと締め上げるぞっていう。
はい。本気で生産性を高めないともう生き残っていけないです。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。