第178回 イーロン・マスクの怒り

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第178回「イーロン・マスクの怒り」


安田

あのイーロン・マスクさんが「リモートワークしたいなら会社を辞めろ」って通達したみたいです。

久野

凄いですよね。言えちゃうところが。

安田

久野さんはこの発言に違和感はないですか。

久野

やっぱり経営者の人は、本音ではこうやって言いたいんじゃないですか。

安田

イーロン・マスクって世代の中でも最先端の経営者じゃないですか。月に行こうかって人なのに「出社しろ」なんて言うんですね。

久野

やっぱり成果が上がってないんじゃないですか。

安田

成果が上がってなきゃ給料を払わなければいいだけで。アメリカなら解雇だってできますし。

久野

だから最後通告なんじゃないですか。

安田

なるほど。解雇前の最後通告だと。

久野

最低40時間はオフィスに出勤しろって話でしたね。

安田

工場で働いている人たちに対する「気兼ね」があるとか。

久野

いや、そういう感じじゃないと思う。

安田

単純にパフォーマンスが落ちていると。

久野

一旦リモートワークをやり始めると、できるかも分からないのに「完全フルリモートでいいですか」って人が増えるんです。

安田

リモートが当たり前になっちゃうってことですか。

久野

こっちは仕事ができる前提で雇ってるわけじゃないですか。

安田

そりゃそうでしょうね。

久野

だけど仕事ができなくても「オフィスには行けません」みたいな話になってくる。「来い」って言われたら来ないとまずいと思うんですよ。

安田

「来い」って言ったら来るでしょう。

久野

「来い」って言っても来なかったり、家でダラダラしてるのが目に付いてるんじゃないですか。だからイーロン・マスクもこんなこと言うわけで。

安田

在宅ワークで効率がアップした会社は47%もあるそうですよ。

久野

ちょっと怪し過ぎる数字ですね。

安田

久野さんの感覚としては、リモートを取り入れて生産性が下がってる会社の方が多いですか。

久野

いろんな会社を見ててそう思います。人によるっていうのが正しい答えじゃないですか。

安田

まあ人によりますよね。

久野

こういう数字って誰に聞いたのかも大きくて。リモートワーク賛成派の人に聞くと「リモートワークで効率上がりました」って言いますから。

安田

この手の記事って情報源がめっちゃ曖昧ですよね。

久野

データをどこで切るかですよ。メディアもPVを稼がなきゃいけないので、どうしてもこういう極端な記事になるんです。

安田

聞き方によっても変わりますよね。

久野

結局のところ「どういうデータがほしいか」ってことですよ。

安田

「人によって違う」というのが正しい表現だと。

久野

職種によっても違います。たとえば1人で業務をこなすクリエイティブのような仕事だったら、家にいた方が効率いいじゃないですか。

安田

確かに。

久野

だけどマネジメントが絡むような仕事はきつい。

安田

マネジメントできないってことですか。

久野

たとえば成果が出ない時にどういう対応をするのか。

安田

ちくちく嫌味を言うとか。

久野

そういう人はオンラインではマネジメントできないです。

安田

音声を下げられちゃいそうですよね(笑)

久野

よほどのスキルがないと難しいですよ。

安田

イーロン・マスクも「ムリだ」という結論を出したってことですか。

久野

そう思います。

安田

イーロン・マスクが言うと影響が大きそう。

久野

大きいと思いますよ。

安田

大企業のマネージャーは「それみたことか」って感じでしょうね。あのマスクでさえこう言ってるじゃないかみたいな。

久野

そういうところが一番ダメなんですけど。

安田

ダメですか。

久野

イーロン・マスクが凄いのはこうやってハッキリ言っちゃうこと。日本の場合は世論を見てはっきり言わないわけじゃないですか。そこが大きな違いですよ。

安田

確かに。こんなこと日本の経営者が言ったら叩かれますもんね。

久野

2、3人の反対が出たら「全員が反対してます」ぐらい言われて。「ちーん」みたいな感じになっちゃう。

安田

マスクさんがここまで言うと、日本企業にも影響が出ますか。

久野

もう会社によっては戻りつつありますよ。

安田

やっぱりリモートは無理だと。

久野

完全には戻らないんですけど。「やっぱりこの業種は難しい」とか「この職種はムリだ」とか。企業ベースでいろいろ考えて戻していくと思います。

安田

人によって違うという話でしたけど、どういう人がリモートに向いてるんですか。

久野

自分で仕事が完結できない人は厳しいです。何でもかんでも聞いてくるような人。

安田

そんな人が、そもそもリモートを希望するんですか。

久野

いや、結局そういう人のほうが、リモートを希望しますね。

安田

だって近くに上司がいないと仕事できないんでしょ。

久野

ぐちゃぐちゃ言われたくないんですよ。

安田

ぐちゃぐちゃ言われたくないけど、必要なときには教えてほしいと。

久野

そう。で、あたかも色々考えてるかのように家でダラダラ過ごしてる。会社だったら詰められるんですけど。

安田

リモートは詰めにくいですよね。

久野

オフィスだったら「ちょっと時間かかり過ぎだよ」ぐらい言うじゃないですか。

安田

意外と優しい言い方ですね。

久野

詰める定義もどんどん下がってきてますから。昔はOKだったのが今だと完全にアウトになってて。だからこれぐらいの言い方しかできない。

安田

それでも来させて管理した方がやりやすいってことですか。

久野

数字で判断できる営業とかなら、リモートでもいいと思うんですけど。間接部門は目の前で見ていないと何やっているか分からないので。

安田

考える仕事はどうですか。本当に考えてるかどうかなんて分からないですけど。

久野

自分で完結できるかどうかじゃないですか。会社にいても考えない人はいますし、家でも主体的に考える人は考えるし。

安田

新人でもない限り、自分では「完結してる」と思ってるんじゃないですか。

久野

そこが問題なんですよね。

安田

何か基準を設けるとか。

久野

スキルによってリモートを許可制にするしかないです。

安田

それで納得しますかね。

久野

いや、しないでしょう。言われて気がつく人は既にやってるので。

安田

確かに。

久野

結局できない人がリモートを希望してくるんですよ。だからイーロン・マスクも怒ってるわけで。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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