7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第66回「やりすぎない経営」
「大手は外資化する」「合併する」って、何回もこの対談でやってるんですけど。
そういう方向でしょうね。たぶん各分野で2社か3社じゃないですか。生き残れるのは。
でも日本企業の場合は1社の問題じゃなくて、系列の子会社・関連会社ってものすごい数ありますよ。
おっしゃる通り。
親会社や関連会社から100パーセント仕事をもらってる下請けって、今後どうなっていくんですか。
独自路線に舵を切るしかないですね。
たとえばトヨタの仕事だけを受けてたのが、いろんな会社の仕事を受け入れるようになるってことですか。
デンソーとかアイシンって、まさにそういう歴史ですよね。
そうなんですか?
はい。「べつにトヨタからもらわなくてもいいよ。世界中から注文来るから」って。
すごいですね。
圧倒的な技術力がそこにあることが条件ですけど。「おたくの部品じゃないとだめなんです」「おたくの技術じゃないとだめなんです」っていう。
でもそういう企業は、ほとんど大手資本の傘下って気がするんですけど。
いや必ずしもそうじゃないですね。
そうなんですか。
もちろん友好関係を保つために、お互いが少し株を持ってたりはしますけど。でも必ずしも傘下じゃなくて、株式を公開してない中堅企業もあります。
ちょっと前にエアバッグのタカタが、アメリカで事故を起こして訴訟になりましたよね。
はい。
すごい技術を持ってたと思うんですけど。独立資本では結局立て直せなかった。あれって大手系列だったとしても同じですか?
1995年にミノルタが自動焦点レンズに関しての特許で、アメリカの裁判で負けて、確か二千数百億の賠償金払ってるはずなんですよ。
すごい金額ですね。中堅どころだったら潰れてますよね。
当時はアメリカと日本で特許権の法体系が違ってたし、そもそもアメリカでの法廷闘争に関してあまりにも無知だった。
甘く見ていたと。
はい。製造物責任法が脚光を浴びた時なんですけど。あれも日本封じ込めプログラムの1つ。
そうなんですか!
「日本メーカーの競争力をそいでやれ」ってことで、徹底的に訴訟をぶつけられて負けた歴史があるんですよ。
じゃあタカタも同じような感じですか。
いや、日本はそこで学んだので、相当パテントとか特許に関しては防衛策をしたはずなんですよ。
それでも負けたと。
たぶん「事故が起こるような欠陥があった」というその一点で突破されて、いいようにやられてしまったということなんでしょうね。
じゃあタカタにも問題があったと。
タカタレベルであれば相当な法的対策はしたでしょうし、アメリカの特許とか技術に詳しい弁護士を当然顧問してるはず。それだけ深刻な欠陥だったということでしょうね。
でもエアバッグ自体は、どこかがつくり続けるわけじゃないですか。
おっしゃるとおり。
タカタが賠償金を払えなくなって身売りするのか、技術を売るのか。結局はどこかの資本が事業を引き継いでいくことになりますよね。
なるでしょうね。
「御社の部品じゃなきゃだめなんです」って言われるぐらいの技術力があっても、結局はタカタみたい外資に食われちゃうんじゃないですか。
小さくとも技術力があれば対抗はできます。いいように植民地支配されて、まったく自由がなくなるってことはないと思いますよ。
そうでしょうか。なんか外資って怖いですけど。なんでもありな感じで。
かつてのような「下請け」対「元請け」みたいなイメージはもう古いですよ。もっと友好的で前向きなアライアンスもたくさんありますから。
そうですかね。元請けのほうが圧倒的に儲かってるイメージですけど。
もちろん儲かるような構造にはなってますけどね。
でも現場レベルで求人やってると、元請けは下請け孫請けをすごく大切にしますよ。
それは人手不足だから?
そうです。楽天が携帯電話事業を延期するじゃないですか。あれも結局人手不足なんですよ、原因は。
そうなんですか?
「無線基地局をつくれませんでした」って。あれ結局、受けてくれる会社がないんですよ。
いくらなんでも、ないってことはないでしょ。
大きな設備工事会社が受けたとしても、実際に人を動かして現場をやる会社がないんですよ。小さなアンテナ工事なので粗利が低いからやりたがらない。
なるほど。
結局、人を集められなかった。だから遅々として進まず、とうとう延期してしまったというのが真相のようですね。
ということは、現場の人間を抱えている会社が、この先主導権を握っていくってことですか。
そういうことです。
でも日本企業ってなんか駆け引きが弱そうなんですよね。あっという間に世界で足元すくわれて、いいところだけ持っていかれそう。
まあ確かに、右手で握手しながら左手でボディーブローを入れ合うような関係って、日本人は苦手ですよね。
そういう「したたかさ」では中国やアメリカの会社に勝てないですよ。
堅実にいけばいいんじゃないですか。0対100じゃなく49対51みたいな関係で。勝ったのか負けたのかよくわからないようなところで、たゆまざる技術革新をしていく。
地味ですね。
地味でもそういう立ち位置をつくって、暴利をむさぼることもせず、適正利益でキチっとやっていけばいいんですよ。
日本人はそういう真面目な企業体質が合ってるんですかね。
規模を追わずに身の丈に合った売上を維持すれば、お客さんだって選べるし。
確かに。
で、その余力を研究開発に回していけば独自の価値が生み出せる。そういうのが得意だと思いますよ。日本人は。
そういう真面目な企業風土みたいなのは、まだまだ日本企業に残ってますか?
中堅・中小企業には、そういう良い会社がいっぱいありますよ。
これから守っていくべきは大手じゃなく、中堅と優良中小ってことですかね。
べつにマッキンゼーの言うことなんて取り合わなくてもいいんですよ。「ぜんぜん競争するつもりもないよ」と。
欲張らず、拡大しすぎず、儲けすぎず、みたいな。
そうです。3億売り上げて1億近い粗利とか。
そういう会社がいっぱいできるといいですよね。
10億目指すから挫折をしていくわけじゃないですか。
1,000億いっちゃうから世界に狙われちゃうと。
その通りです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。