さよなら採用ビジネス 第77回「下積みは本当に必要なのか」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第76回『利益に貢献する意味』

 第77回「下積みは本当に必要なのか」 


石塚

この間Facebookで上げた「大手商社に入った1年目社員の話」って読まれました?

安田

いや、読んでないです。どういう話ですか?

石塚

総合商社へ半年間勤務した所感っていうやつですね。今ちょっと話題になってるんですけど。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。Facebook上でかなり拡散してますよ。

安田

どんなことが書いてあるんですか?

石塚

就職活動してた時に「会社が大きいことのデメリットに目が向いてなかった」というような話。

安田

ほぉ。どんなデメリットなんですか?

石塚

「会社が大きすぎると、意思決定スピードがびっくりするぐらい遅い」って。

安田

そんなの入る前から分かりそうなもんですけど。

石塚

いや分かんないですよ。学生さんでは。

安田

大企業に入るくらいだから結構優秀なんでしょうね。

石塚

この人はすごく優秀です。コンマ1パーセントに入るような、非常に優秀な人材。

安田

どうしてそう思うんですか?

石塚

入社半年でこんなに自省的な文章を書けるっていうのは、素晴らしいです。

安田

ちなみに入社半年って、総合商社ではどんなことやるんですか?

石塚

まあ正直「見習い」と「雑用」でしょうね。

安田

具体的にはどんな?

石塚

「こういうこと手配してくれ」とか「こういう資料つくってくれ」とか。

安田

要するにアシスタント業務ですか?先輩の。

石塚

そう。アシスタント庶務全般。

安田

これって社内告発として書いてるんですか?

石塚

社内告発というよりエッセイと言ったほうがいいですね。決して否定してるわけじゃなくて「こう感じるが、こういうふうに自分は考えて、もう少し頑張ろう」っていう。

安田

なんと呑気な。

石塚

でもたぶん、あと半年か持って1年で、こういう優秀な人はスタートアップ企業に移る。あるいは自分で起業する。

安田

今ちょっと覗いたら「時給8,000円のてにをは」って書いてますけど。これはどういう意味ですか?

石塚

社内決裁のためのプレゼン資料などをつくると、必ず部長クラスに「てにをは」を直されると。この仕事に全力を注ぐ部門長クラスの人がいると。

安田

また極端なネタですね。

石塚

これはネタじゃなくて事実。彼らの給料は少なく見積もっても年収1,500万ですから。

安田

部下の「てにをは」を直してるだけの時給8,000円の人がいるってことですか?

石塚

そのとおり。それが大手総合商社。

安田

そんなことあり得るんですか?

石塚

大規模企業の部長って軍隊に例えると師団長クラスでしょ?

安田

まあ、そんなイメージですね。

石塚

一個師団ってものすごい数の兵隊がいて、本来なら状況判断と次の戦略を練るために必死で考えなきゃいけない。

安田

そりゃあそうでしょう。

石塚

ところが「第一大隊は何人そろった?第二大隊の装備はどうだ?」って、チェックリストを確認してる。

安田

大企業って、これほど厳しいリストラの嵐が吹き荒れても、まだこんな余裕があるんですか?

石塚

そのとおり。商社ってまだまだ利益が出てますから。

安田

なんでこんな体制で利益が出るんですか?

石塚

過去の遺産もあるし、売上規模が大きいから利益も出るんですよ。

安田
でも大きい会社には、大きい会社同士の戦いがあるじゃないですか。
石塚

ありますけど、ポジショニング的にまだまだ収益が出るんですよ。彼らは元請けだから。

安田

まあ、そうですね。でかい仕事を取ってきて下に振るだけで、利益は出ますもんね。

石塚

はい。ピラミッドの頂点にいるので。

安田

ちなみに、この入社半年の人は、これ実名でやってるんですか?

石塚

いや、匿名です。

安田

社内で特定されないんですかね。

石塚

そこはやっぱり賢い子で固有名詞とか一切出さない。で、批判してるわけじゃないから。

安田

批判じゃない?じゃあ皮肉ですか。

石塚

この人は誠実に「今の状況を観察して、正確な記録を残しておきたい」って感じ。どちらかというと自分の成長のため。

安田

自分の成長のためだったら発表する必要はないと思いますけど。下の世代に役立ててほしいってことですかね。

石塚

メッセージとしてはたぶん、これから就活しようとしている人たち、かつての1年前の自分に向けて書いてる。

安田

ほぉ。じゃあ「今の自分が1年前に戻ったら、この会社には入らないぞ」ってことですね。

石塚

「ちょっと、よく考えたほうがいいよ」っていう。批判ばかりじゃなくて、非常に前向きな姿勢がうかがえる。決して読んで不快になる文章ではない。

安田

そういう人って優秀なんですかね。

石塚

こういう人はたぶんどこに行っても通用するし、これからも成長するだろうと思います。

安田

でも上司としたら「使いにくい部下」なんじゃないですか。特に大手では。

石塚

まさにそれが今、日本の大手が抱える最大の問題なんですよ。

安田

優秀な人材を使いこなせないってことですか?

石塚

だって大谷翔平に球拾いさせるようなもんでしょ?

安田

まあ、そうですね。

石塚

メジャーリーグで大谷翔平に「おまえ1年目だから、まずボール磨け」とか「バットを手入れしろ」って言います?

安田

言わないですね。

石塚

言わないですよね。でも日本の大企業って、どんなに優秀な人材を採っても雑用から始める。

安田

どんなに優秀でも、いきなりマネジメントを任されるなんてことはあり得ないと。

石塚

不可能ですね。

安田

下積みはどれぐらい続くんですか?

石塚

あと2〜3年は雑用係が続くかな。

安田

そんなのに耐えられるんですか?こういう人って。

石塚

だから辞めるんですよ。辞めてスタートアップに行くか、起業するか。

安田

スタートアップには“球拾い”はないんですか?

石塚

優秀であれば。いきなり経営陣の一角を任されることもありますから。

安田

へぇ。

石塚

そのかわり「明日はどうなるかわからない」っていうリスクは抱えますけどね。

安田

手厚い研修の仕組みとかって、もう必要ないってことですか?いまの時代には。

石塚

人によるんじゃないですか。こういうレベルの高い人には必要ない。言われた通りに仕事する兵隊を育てるなら、研修は必須ですね。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから