第137回「皮肉な結末」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第136回「ほくそ笑むのは誰?」

 第137回「皮肉な結末」 


安田

近畿日本ツーリストが大赤字になりました。

石塚

まあこのコロナだから。旅行業界は全滅ですよ。

安田

近ツーに限らずみんな赤字だと。

石塚

鉄道と一緒。人が動けないので。経営戦略の失敗というよりは災害に近いと思います。

安田

石塚さんのコメントがなかなか興味深かったです。

石塚

どのコメントですか。

安田

近ツーは優秀な人材が多いから大丈夫だって。

石塚

ああ。あれですか。

安田

じっさい優秀な人が多いんですか?

石塚

はい。旅行代理店業界にはJTBという巨大なガリバーがいまして。敵わないんですよ。

安田

価格では勝てないってことですか。

石塚

規模、企画力、組織力、あと一番は宿泊施設等に対しての影響力ですね。

安田

へえ。

石塚

「宿の仕入れ」といわれるんですけど。ホテルは旅行代理店に対して「どれぐらい提供するか」ってことを決めるんですよ。

安田

JTBへの供給量が多いってことですか。

石塚

圧倒的に。どう転んでもJTBには敵わない。

安田

近ツーだって上場企業でしょ?

石塚

近ツーの親会社がホールディングスになってて、そこは上場してますね。

安田

だったら大きな仕入れをすることも、ぜんぜん可能じゃないですか。

石塚

これはどの業界も同じなんですけど。たとえばアサツーDKが電通を抜けるかって話。

安田

不可能ですか。

石塚

だってダブルスコアどころかトリプルスコア以上離されてるから。もう構造的に無理なんですよ。それと一緒でJTBって圧倒的な首位なので。

安田

なるほど。事業規模では敵わないと。

石塚

敵わない。

安田

だけど人材的にはJTBに劣らない人がいるってことですか。

石塚

そうなんですよ。構造的に敵わないから人間力で勝負するしかない。結果的に優秀な人材に育っていく。

安田

どうやって人間力で勝負するんですか。

石塚

たとえば安田ホテルに対してJTBが200で近ツーが50だとする。「いや、もうちょっといただけませんか」「しょうがないなあ、石塚ちゃんだから、じゃあ90ぐらい」「ありがとうございます!」みたいな。

安田

かなりベタですね(笑)

石塚

そうやって、あらゆるところで頑張ってるわけです。まともにやったら敵わないから。

安田

なるほど。

石塚

JTBにはできない小回りとか。JTBではできない融通を利かせるとか。無理を聞くとか。だから現場ですごく鍛えられる。当たり前にぶつかったら勝てないから。

安田

近ツーって、もっと巨大企業なのかと思ってました。

石塚

もちろん業界の中では大手ですよ。だけどJTBには敵わない。

安田

もっと小さな旅行代理店もあるじゃないですか。そういうところと比べるとどうなんですか?人間力は。

石塚

そういうところってかなり特化型なんですよ。

安田

そもそもフィールドが違うと。

石塚

おっしゃる通り。さらには長く続くところが少ない。小型の旅行代理店って数多く倒産・廃業しちゃうから。

安田

ちなみに近ツーは採用力も高いんですか。つまり元々の人材レベルも高い?

石塚

そもそも旅行業界は新卒人気が高いじゃないですか。

安田

確かに。JTBは人気企業ランキングの常連ですからね。

石塚

はい。大手志向が強いとJTB。海外志向が強いとHISなんです。

安田

近ツーは?

石塚

「どっちでもないけど優秀な人」を採る。そのために相当採用もがんばらないといけないわけです。

安田

採用時のレベルはJTBのほうが高そうですけど。

石塚

黙ってても有名大学が来ますからねぇ。結果的にJTBはいい人材が揃ってます。

安田

近ツーの場合は「入ってから磨かれる」という感じですか?

石塚

採用のときも「エッジが立った人」をとる傾向が強い。

安田

エッジが立った人?

石塚

上位校はみんなJTBに行くから。帰国子女や英語が得意な人だとHIS。だから「かなり面白い変わってる人」を採る。

安田

ターゲットをズラしているわけですね。

石塚

そういうことです。

安田

今はJTBもHISも大変でしょうね。

石塚

もうどこも大変ですよ。

安田

これからリストラが始まるんでしょうね。

石塚

かなりの規模で。

安田

そうなった場合、石塚さん的には近ツーにいた人のほうが有利だと。

石塚

僕はそう思います。とにかくバイタリティーがあって面白い人が多い。

安田

JTBはどうですか?

石塚

JTBはエリート集団なので。よくも悪くも整ってますよ。

安田

組織から出るとあんまり使えない?

石塚

20代ぐらいなら、もともとの地頭の良さとか素材の良さで通用すると思う。

安田

上は厳しいですか。

石塚

仕組みと会社の看板で仕事をやってるから。

安田

近ツー出身の人を紹介するとしたら、石塚さんならどういう会社を勧めますか。

石塚

自分で考えて自分で動けるバイタリティーのある方が多い。だから営業部門はだいたいどこでも通用しますね。

安田

へえ。

石塚

直接お客様と接点を持っている営業職とか。人間力を求められる仕事であればなおいいですね。

安田

中小企業の営業現場はまさにそんな感じですよ。

石塚

はい。だから向いてる。

安田

でも給料は下がっちゃうでしょうね。

石塚

これはあんまり言っちゃいけないんだけど。元の給与水準が低いから、これまた合わせやすいんですよ。

安田

そんなに?

石塚

はい。きつい仕事の割に安い。

安田

じゃあ現場で鍛えられていて、しかも割安。

石塚

だからマーケットに出てもぜんぜん困らないんですよ。

安田

なるほど。皮肉なことですけど結果的にはよかったですね。

石塚

おっしゃる通り。仕組みと看板で仕事できるって気分がいいんだけど。それに慣れちゃうと状況が変わったときに何もできない。悲惨です。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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