2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第136回「ほくそ笑むのは誰?」
第137回「皮肉な結末」
近畿日本ツーリストが大赤字になりました。
まあこのコロナだから。旅行業界は全滅ですよ。
近ツーに限らずみんな赤字だと。
鉄道と一緒。人が動けないので。経営戦略の失敗というよりは災害に近いと思います。
石塚さんのコメントがなかなか興味深かったです。
どのコメントですか。
近ツーは優秀な人材が多いから大丈夫だって。
ああ。あれですか。
じっさい優秀な人が多いんですか?
はい。旅行代理店業界にはJTBという巨大なガリバーがいまして。敵わないんですよ。
価格では勝てないってことですか。
規模、企画力、組織力、あと一番は宿泊施設等に対しての影響力ですね。
へえ。
「宿の仕入れ」といわれるんですけど。ホテルは旅行代理店に対して「どれぐらい提供するか」ってことを決めるんですよ。
JTBへの供給量が多いってことですか。
圧倒的に。どう転んでもJTBには敵わない。
近ツーだって上場企業でしょ?
近ツーの親会社がホールディングスになってて、そこは上場してますね。
だったら大きな仕入れをすることも、ぜんぜん可能じゃないですか。
これはどの業界も同じなんですけど。たとえばアサツーDKが電通を抜けるかって話。
不可能ですか。
だってダブルスコアどころかトリプルスコア以上離されてるから。もう構造的に無理なんですよ。それと一緒でJTBって圧倒的な首位なので。
なるほど。事業規模では敵わないと。
敵わない。
だけど人材的にはJTBに劣らない人がいるってことですか。
そうなんですよ。構造的に敵わないから人間力で勝負するしかない。結果的に優秀な人材に育っていく。
どうやって人間力で勝負するんですか。
たとえば安田ホテルに対してJTBが200で近ツーが50だとする。「いや、もうちょっといただけませんか」「しょうがないなあ、石塚ちゃんだから、じゃあ90ぐらい」「ありがとうございます!」みたいな。
かなりベタですね(笑)
そうやって、あらゆるところで頑張ってるわけです。まともにやったら敵わないから。
なるほど。
JTBにはできない小回りとか。JTBではできない融通を利かせるとか。無理を聞くとか。だから現場ですごく鍛えられる。当たり前にぶつかったら勝てないから。
近ツーって、もっと巨大企業なのかと思ってました。
もちろん業界の中では大手ですよ。だけどJTBには敵わない。
もっと小さな旅行代理店もあるじゃないですか。そういうところと比べるとどうなんですか?人間力は。
そういうところってかなり特化型なんですよ。
そもそもフィールドが違うと。
おっしゃる通り。さらには長く続くところが少ない。小型の旅行代理店って数多く倒産・廃業しちゃうから。
ちなみに近ツーは採用力も高いんですか。つまり元々の人材レベルも高い?
そもそも旅行業界は新卒人気が高いじゃないですか。
確かに。JTBは人気企業ランキングの常連ですからね。
はい。大手志向が強いとJTB。海外志向が強いとHISなんです。
近ツーは?
「どっちでもないけど優秀な人」を採る。そのために相当採用もがんばらないといけないわけです。
採用時のレベルはJTBのほうが高そうですけど。
黙ってても有名大学が来ますからねぇ。結果的にJTBはいい人材が揃ってます。
近ツーの場合は「入ってから磨かれる」という感じですか?
採用のときも「エッジが立った人」をとる傾向が強い。
エッジが立った人?
上位校はみんなJTBに行くから。帰国子女や英語が得意な人だとHIS。だから「かなり面白い変わってる人」を採る。
ターゲットをズラしているわけですね。
そういうことです。
今はJTBもHISも大変でしょうね。
もうどこも大変ですよ。
これからリストラが始まるんでしょうね。
かなりの規模で。
そうなった場合、石塚さん的には近ツーにいた人のほうが有利だと。
僕はそう思います。とにかくバイタリティーがあって面白い人が多い。
JTBはどうですか?
JTBはエリート集団なので。よくも悪くも整ってますよ。
組織から出るとあんまり使えない?
20代ぐらいなら、もともとの地頭の良さとか素材の良さで通用すると思う。
上は厳しいですか。
仕組みと会社の看板で仕事をやってるから。
近ツー出身の人を紹介するとしたら、石塚さんならどういう会社を勧めますか。
自分で考えて自分で動けるバイタリティーのある方が多い。だから営業部門はだいたいどこでも通用しますね。
へえ。
直接お客様と接点を持っている営業職とか。人間力を求められる仕事であればなおいいですね。
中小企業の営業現場はまさにそんな感じですよ。
はい。だから向いてる。
でも給料は下がっちゃうでしょうね。
これはあんまり言っちゃいけないんだけど。元の給与水準が低いから、これまた合わせやすいんですよ。
そんなに?
はい。きつい仕事の割に安い。
じゃあ現場で鍛えられていて、しかも割安。
だからマーケットに出てもぜんぜん困らないんですよ。
なるほど。皮肉なことですけど結果的にはよかったですね。
おっしゃる通り。仕組みと看板で仕事できるって気分がいいんだけど。それに慣れちゃうと状況が変わったときに何もできない。悲惨です。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。