第143回「百貨店は何屋さんになる?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第142回「採用ビジネスで食える人数」

 第143回「百貨店は何屋さんになる?」 


安田

石塚さんのコラムで、ちょっと興味深い記事を拝見しまして。

石塚

どれですか?

安田

伊勢丹で高級品が売れてるという話。

石塚

ああ。

安田

ちょっとご説明いただけないでしょうか。

石塚

新宿伊勢丹本館の4階って、奥が宝飾品売り場になってるんですよ。名だたるブランド物があるわけです。指輪、ネックレス、時計。

安田

その昔、カルティエの時計を買ったことがあります。

石塚

さすが(笑)その手前に時計の修理コーナーがあって。電池の交換ぐらいしか僕は行ったことないんですけど。知り合いがそこにいまして。

安田

今は大変でしょうね。観光客も来ないし。

石塚

「こんにちは」って挨拶したら、まあ閑古鳥なんですよ。フロアが。

安田

そういうイメージです。

石塚

「あら~伊勢丹大変だな」って思って知り合いに聞いたら、「いや、とんでもない。昨対30パーぐらいだ」って言うんですよ。

安田

30%?

石塚

はい。ダウンじゃなくアップ。「えーっ!」って。

安田

ちょっと信じられないです。

石塚

事情を教えてもらったんですけど。「とにかく貴金属は高いほうから売れている」と。

安田

なんと。

石塚

300万の腕時計とかですよ。

安田

誰が買うんですか。

石塚

いや、普通に売れていくらしいです。他に使うものがないんですって。

安田

なるほど。コロナで。

石塚

海外旅行にも行けなくなったし、歌舞伎、オペラ、コンサート、散財する場所がない。だから手元にお金があるんですって。

安田

会社員はいいですよね。休んでいても給料は出るし。

石塚

巣ごもり生活だからお金が残る。でも気持ちは上がらない。なので貴金属を身にまとって気持ちを上げたくなる。

安田

なんと贅沢な。でも、お店は閑古鳥なんですよね。

石塚

サイトに来るそうです。伊勢丹のオンラインサイトって、かなり充実してまして。

安田

それって外商のお客さんでしょうか。

石塚

外商も活動してると思うんですけど。いま言ってるのは普通のお客さんです。

安田

へえ〜。

石塚

普通のお客が伊勢丹のオンラインサイトを見て、めぼしいものがあると問い合わせてくる。

安田

普通の人がそんな高いものを買うんですか。

石塚

巣ごもり生活が終われば旅行やグルメに流れるでしょうけど。

安田

しばらくは続きそうだと。

石塚

少なくとも巣ごもり生活の間は続くでしょうね。

安田

高級な化粧品や服は売れなくなってるのに。高級腕時計も人に見せなきゃ自慢できませんけど。

石塚

自己満足ですよ。

安田

人に見せての自己満足じゃないですか。

石塚

つけ心地からくる体感を楽しんでる感じ。

安田

じゃあ家でも腕時計をつけてる?

石塚

そう。変な話、ジャージを履いて300万の腕時計をしてたり。

安田

すごい構図ですね。

石塚

「一点豪華主義でバランスを保ってる」というのが僕の仮説です。

安田

ネットなのに、わざわざ百貨店で買う必要があるんですか。

石塚

百貨店って、オンラインサイトをめちゃくちゃ充実させてまして。わざわざ店舗へ行かなくても、いろんなメーカーのいろんな商品が見れる。

安田

そんなに充実してるんですか。

石塚

すごくよくできてます。

安田

それは伊勢丹に限らず?

石塚

いえ、正確にいうと「新宿伊勢丹のオンラインサイト」が非常によくできてる。

安田

なるほど。でもネットで売れるなら、一等地にあんなビルを構える必要ないですね。

石塚

お店は「物を選ぶ場」じゃなく、電話やネットでやり取りしている担当との「出会いの場」、あるいは実物を見てみたい人の「体感の場」でしかなくなる。

安田

そうなると百貨店業界への参入障壁が下がりますね。駅前のゴージャスなビルが必要なくなるので。

石塚

おっしゃる通り。

安田

サイトに移行すれば後発企業に抜かれる可能性が高まりませんか?

石塚

じっさいZOZOTOWNは簡単に抜いちゃったから。

安田

そうですよね。

石塚

じつは伊勢丹も、洋服はそんなに業績がよくないんです。

安田

宝飾版のZOZOTOWNも出てきそうですよね。

石塚

どうでしょう。何十万、何百万する時計や貴金属って、仕入れがむずかしいので。

安田

資金力も要りますよね。でもビルを建てるほどの参入障壁ではないです。

石塚

顧客からの信頼感も大切じゃないですか。ブランドって偽物も多いし。

安田

確かに。そこが優位性になると。

石塚

そこはまだ百貨店の優位性がある。

安田

なるほど。「高くて信用が必要な商品」なら百貨店はネットで生き残れると。

石塚

そう思います。

安田

仮にそういうビジネスに移行していった場合、リアルな店舗って必要なくなるんですか。

石塚

1店舗だけあればいいんじゃないですか。

安田

旗艦店として?

石塚

はい。ほんとうの旗艦店として。「伊勢丹の信用とブランドじゃないと仕入れられないものしか置いてません」みたいな。

安田

なるほど。

石塚

そうなったら、そこに向かう価値はありますよ。

安田

新宿伊勢丹まで来たら「すごい時計や宝石が見れますよ」と。

石塚

行くと気持ちが上がったり、ウキウキしたり。幸せな気持ちを感じられるような空間であれば行きますよね。

安田

とはいえ全員は行かないでしょう。ネットで買い物が完結しちゃう人はウキウキ感がなくなります。伊勢丹で買う必要があるのかどうか。

石塚

今って、あらゆるものが中古市場化してるでしょう。

安田

はい。

石塚

売るときに「伊勢丹で買った証明がある」ということ自体が価値になります。

安田

なるほど。「本物だという証明」みたいな。

石塚

まさに。中古市場が膨らめば膨らむほど「正規品をきちっとここで買った」というクレジットに価値が出てくるんですよ。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから