第144回「10年雇用を基本とせよ」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第143回「百貨店は何屋さんになる?」

 第144回「10年雇用を基本とせよ」 


安田

疲れない経営ですか?

石塚

終身雇用を前提とした組織づくりは「もうしんどい」ってことです。

安田

今後は有期雇用を前提とした採用になると。

石塚

そのほうが経営者は疲れない。いま法律では有期雇用って基本3年なんですよ。一部職種の例外はありますけど。

安田

そういえばタニタさんも業務委託契約を3年縛りにしてますね。

石塚

そこは意識してると思います。

安田

3年過ぎたら「正社員にしないといけない」ってことですよね。

石塚

おっしゃる通り。少なくとも登用の機会を設けないといけない。僕はこれを10年にしたほうがいいと思う。

安田

その理由は?

石塚

お互いゴールがあったほうが健全だし、疲れないから。

安田

働く側には「10年で職を失う」というのはリスクですけど。

石塚

ずっといるリスクの方が大きいです。

安田

そうかもしれませんけど。社員がそれを望むとは思えません。

石塚

労働法で有名な向井弁護士がおっしゃってるじゃないですか。「70歳までの雇用を義務づけた瞬間に、反対側からドミノが起こる」って。

安田

反対側からドミノ?

石塚

70歳雇用が法的義務となった瞬間に「そんなの無理だよ」ってなる。

安田

雇わなくなるってことですか?

石塚

お金に余裕がある会社ではリストラが始まります。

安田

じっさい始まってますもんね。

石塚

「旬の材料でいいものをつくりたい」というのが料理人。ビジネスも同じですよ。旬を過ぎたらおいしくない。

安田

人材にも旬があると。

石塚

もちろん。

安田

もし10年の有期雇用をするとしたら、その間は正社員ですよね。

石塚

何をもって正社員かってのはありますけど。待遇は社員と同じですね。

安田

ということは社会保険にも入れる。

石塚

はい。

安田

副業は会社の許可がないとできない?

石塚

副業に関してはすでに広く解釈を認められてるので。基本OKですね。

安田

なるほど。

石塚

何でも1回「締め」があったほうがいいと思う。お互い「10年で卒業する」と決まっていれば「その10年をどう過ごそうか」ってなるじゃないですか。

安田

「10年で自立する」ことを前提に働いた方がいいと。

石塚

70歳まで仕事をさせたいんだったら、ひとつの会社に押し付けるのは無理。みんなでグルグル回したほうが「結果的にメリットが大きい」ってことです。

安田

なぜ10年なんですか。

石塚

3年だと中途半端なんですよ。だけど今の法律では3年でリリースせざるを得ない。

安田

3年を過ぎたらいきなり終身ですもんね。

石塚

「20代はどこで過ごそう」「30代はどこで過ごそう」「40代はどこで過ごそう」って、2・3・4・5・6の5つのレイヤーでみんなが真剣に考えるべき。

安田

なるほど。だから10年が理想だと。

石塚

はい。働く人も、会社も、お互いが10年単位で考えるべきだと思う。

安田

たとえば「同じ会社で、あと10年」というのもありですか?

石塚

もちろんです。お互いが納得すれば延長すればいい。

安田

メジャーリーグみたいですね。複数年契約で。活躍すれば延長もありで。

石塚

そうです。お互い条件を変えて。

安田

メジャーリーグでは10年契約って、ほとんど見ませんけど。

石塚

メジャーは体が資本ですから。でもビジネスマンだったら10年はありだと思う。

安田

「ケガでパフォーマンスが落ちる」ってことがありませんからね。

石塚

45歳でリストラされて「何もできなくて身動きがとれない」という現象は、“締め日”がないことが原因です。

安田

最初から締め日が決まってたらこうはならないと。

石塚

みんなバカじゃないんだから。「1回中締めして検証するよ」となったら、みんなそれに向けて考えますよ。

安田

副業の奨励だけでは効果はないですか?

石塚

終わりを決めない限り、副業だとか言っても「雲をつかむような話」だと思う。

安田

確かにそうですね。いきなり副業ってできませんし。

石塚

準備期間が必要なんですよ。

安田

10年で終わりとわかってたら、5年目ぐらいから準備すればいいですもんね。

石塚

最初から決まってれば、企業だって急にリストラしなくていいわけです。

安田

終わりが計算できますもんね。

石塚

おっしゃる通り。「石塚はもう賞味期限が過ぎてるけど、あと1年半で卒業だから」ってことになる。

安田

いいですね。ただ、ひとつだけ引っかかるところがあります。

石塚

どこですか。

安田

雇用契約だと働く側は保証されますけど、雇ってる側は保証されない。途中で辞めるのは自由なわけで。

石塚

そうなりますね。

安田

それは不公平だと思うんです。業務委託契約ならどちらも途中でやめられない。

石塚

そうですね。

安田

有期雇用じゃなく10年の業務委託契約にすれば、お互い公平だと思うんですけど。

石塚

安田さんの言うとおりですけど、いきなりは難しいです。中間をつくったほうが現実的だし健全じゃないかなっていうのが僕の意見です。

安田

なるほど。企業はリスクを負うけど終身雇用からは解放される。働く側も業務委託ほどのリスクはない。中間ぐらいの位置づけってことですね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

お互いがチョイスできるなら、それはありですね。企業側も働く側も「そっちのほうがいい」ってケースはあるでしょうから。

石塚

企業側はこれしか対抗手段がないと思います。だって、都合のいいときは転職して、転職が厳しくなったら「70まで雇うのが法的義務だ」って。このほうがあまりに不公平。

安田

確かにそうですね。

石塚

「有期雇用は10年だけど、転職の自由というオプションを認めます」と。終身なんていうものがお互いを不幸にしてる。

安田

孔子も人生を10年で区切ってますもんね。40にして惑わずとか。

石塚

そのほうが転職も楽ですよ。「あそこで40代を過ごした50代が欲しい」と思ったら、オファーするじゃないですか。

安田

「次の10年、もし私が欲しいなら、こういう金額になります」って交渉できますね。

石塚

会社側も同じです。「40代ですごく苦労された、あなたみたいな人をうちは50代で欲しい」とオファーできる。

安田

それ専門のエージェントとか生まれてきそう。

石塚

間違いなく出てくるでしょうね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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