第177回「安売りスーツの未来」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第176回「2022年大胆予測」

 第177回「安売りスーツの未来」 


安田

スーツ不振が凄いですね。

石塚

はるやま、コナカ、AOKI、青山。もう壊滅状態です。

安田

大手4社のスーツ会社がことごとく赤字らしくて。リモートワークの影響が大きいそうで。

石塚

もうずっと前からです。

安田

そうですよね。労働人口は減ってるし、スーツにこだわる会社も減ってるし。とは言えコロナが落ち着けば少しは持ち直すんでしょうか。

石塚

いや、もっと減ると思います。

安田

まだ減りますか。でもスーツがなくなることはないでしょう?

石塚

高級スーツを着る人は一定数残るでしょうね。マニュアル車に乗りたい人みたいな。

安田

もはや趣味の領域ですね。

石塚

スーツにお金をかける人はそうでしょう。

安田

仕事のために買うスーツならできるだけ安いのがいいですもんね。

石塚

おっしゃる通り。ただそのゾーンも今はユニクロにやられてます。

安田

ユニクロってスーツまで売ってるんですか!

石塚

はい。ユニクロはスーツ売ってます。またこれが超よくできてるんですよ。

安田

へぇ~。

石塚

もうユニクロで十分です。

安田

売れてるんですか?

石塚

売れてます。僕はスーツ着ないけど、息子の卒業式の時に妻が「ユニクロでしょ」って。

安田

へぇ~。

石塚

それで一緒にユニクロを見にいって。「ユニクロのスーツってどうなの」って正直思ってたんですけど。もうびっくり。すごくいい。上はブレザー、下はパンツ買って「はい終わり」ですよ。

安田

私も子どもの服を買いによくユニクロに行きます。やっぱよくできてますよね。

石塚

できてますよねえ。

安田

使いやすいようによく考えられてるし。

石塚

そして適度におしゃれだし。

安田

そうですね。決して「安かろう悪かろう」って感じでもない。

石塚

生活シーンのいろんな場面でユニクロ1店あれば事足りるんですよ。ジルサンダーのコレクションまで出てるし。

安田

すごい。

石塚

買い物のついでにユニクロ寄ればハイ終わり。わざわざはるやまとかAOKIとかコナカに行く理由がない。

安田

大手4社のメイン顧客ってやっぱりおじさんですか。

石塚

いちばん使ってるユーザーはたぶん新卒の学生だと思います。

安田

リクルートスーツですか。

石塚

就活の学生が業績を支えてるんじゃないんですか。ただ最終的にはスーツ全般に関して着物と同じ運命をたどると思う。

安田

スーツを着なくなるってことですか。

石塚

着なくなるけどなくなりはしない。行事ごとには必ず使うから一定の数は残る。

安田

大手4社は銀行みたいに合併しちゃうんでしょうか。

石塚

正直4社もいらないですよね。2社で十分って感じじゃないですか。

安田

みなさん一等地に店舗をもってますし、社員もそこそこ抱えてますけど。

石塚

店舗を減らして人も減らして……っていうお決まりの話でしょうね。統合が発表されて2社ぐらいに収斂されるか、どこかの総合グループに入ってしまうか。

安田

リモートに限界を感じて出社に戻す会社もあるらしいですけど。スーツのニーズは増えていかないですか。

石塚

コロナもあるけど、温暖化のクールビズがいちばん業界に打撃を与えてるから。

安田

クールビズですか。

石塚

いまから十数年前に小池百合子さんが環境大臣だったとき、「夏もスーツにネクタイはやめてノーネクタイで」って。

安田

はい覚えてます。あれでネクタイを外した会社は多いですよね。

石塚

ドレスコードを緩めて、半袖シャツにチノパンはいてもOKにしようと。要するに「スーツで上下“ビシッ”というのはやめましょう」と。

安田

あれはスーツ業界に大打撃でしたね。

石塚

時の流れですよ。冷房をものすごくかけなきゃいけないし、地球にやさしくないから。あのクールビズで劇的にドレスコードが変わった。

安田

確かに。ネクタイ以外のファッションも根底から変わりましたね。あそこがきっかけでどんどん緩くなって。

石塚

おじさんがネクタイ外すって、昔は失業者みたいな雰囲気だったじゃないですか。

安田

そういうイメージでした。

石塚

今は逆ですよね。

安田

確かに。上下スーツにちゃんとネクタイ締めてくる営業って、だいたい飛び込みの営業マン。ヨレヨレのスーツを着てます(笑)

石塚

ちょっと社名は控えますけど、オフィスサプライ系の、コピー機とか複合機とか、あれ系の方がだいたいヨレヨレの安いスーツ着てる。

安田

そういう方々ってこの先も安いスーツを着つづけるんですかね。

石塚

会社の命令があるから。

安田

そういう会社っていずれ滅んでいくでしょう?

石塚

オフィスサプライは会社自体に体力があるから、意外に残るかもしれません。

安田

へぇ~。

石塚

「O商会」とか「Rコー」とか。あのへんは結構残ると思う。そしてそこの社員である以上は着つづけなきゃいけない。

安田

いわゆるエリートのホワイトカラーみたいな人はどうですか。

石塚

スーツ着る人は激減しました。

安田

今どきの知的労働者って、ラフでクリエイティブな服装してますよね。スーツにネクタイの人は肉体労働に見えてしまいます。

石塚

おっしゃる通り。現代のブルーカラー・ファッションですよ。

安田

スーツ大手が今から手を打つとしたらどんな手がありますか。

石塚

僕が社長だったらもう一抜けする。売却します。

安田

売却して別の仕事やると。

石塚

「はい、ここまで」みたいな。だって、もう無理ですもん、スーツなんて。

安田

やっぱ無理ですよね。

石塚

ただ最後まで残ったところはずっとやると思います。

安田

食っていけますか。

石塚

はい。みんなそこを狙ってるんですよ。残存者利益を取るチキンレース。「おまえが降りるか、俺が降りるか」って。

安田

今はその真っ最中だと。

石塚

あと10年ぐらいはこれが続くでしょうね。

安田

10年後には2社になってる?

石塚

もしくはどこかの事業部になってるか。どちらかでしょうね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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