2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第188回「恫喝で、もう人は動かない」
いきなり!ステーキの一瀬社長がまた叩かれてます。「作業するだけで給料をもらえると思うな」みたいに言っちゃって。
あの人は経営者に向いてないです。
言ってることは理にかなってるんですけど。今の時代はそれを言っちゃいけない?
あれは元々社内メッセージで。表に出てくること自体が問題なんですよ。
「前向きじゃない社員は許せません」みたいな。「社員のせいにしてたらだめだろう」ってネットで叩かれてました。
社長の感覚がズレてるんですよ。いまの時代には合ってない。
昔の経営者さんは、みんなこういうこと言ってましたよね。
昔は余裕がありましたから。飲食店にも気の利く人がそれなりの人数いたし。
今はそんなこと言ったら辞めちゃいますもんね。
そもそも、いきなり!ステーキって、社員教育にそんなに力入れてないですから。
「ぜんぜん教育できていないじゃん」って意見が多いですね。だからこそ教育しようとして、厳しく言ってるんでしょうけど。
上から活を入れるっていうのは、だいぶ時代がズレてる感じがします。
そんなのは社員教育とは言わない?
社長がただ不満を言っているだけって感じ。
「言われた作業をしているだけで、給料もらえると思ってるのはおかしい」って、賛同する経営者は多いと思うんですけど。
そもそも自分で仕事を生み出す人の待遇ではないんですよ。
「安い給料しか払ってないのに、それ以上求めるな」ってことですか。
いきなり!ステーキという業態は、そんなにホスピタリティの高いサービスを、そもそもお客さんが求めてない。
確かに。
お店がそこそこきれいで、マニュアルにしたがってスムーズにステーキが出れば、僕はそれでいいと思う。
お客さんもそれ以上を求めるな、ってことですね。
たとえばサイゼリヤでレベルの高いサービスなんて見たことない。けどべつに不満もないわけですよ。お客さんは期待していないから。
いきなり!ステーキの社長さんは、「お客さんをファンに変える努力をしろ」って言っているみたいです。
ちょっと役割がちがうと思いますけどね。
ファンにするのは誰の役割なんですか。
まず業務を切り分けしないと。チェーンストアオペレーションが成立しないです。
なるほど。
言われたとおりのことを、ちゃんとやってくれる人が確保できてる。まずこのこと自体を社員に感謝しなきゃいけない。
お客さんをファンにしなくてもいいと。
仮に「店長はファンをつくる仕事だ」って言うんだったら、かなり高いレベルを社員に求めないといけない。だったら採用や報酬を根本的に変えないとだめです。
今の待遇では無理ってことですね。
おっしゃる通り。今の給料じゃ無理。
採用やってた頃よく言われました。「この条件で、このレベルの人材さえ採れれば、うちは儲かるんだ」って。だけど「それ無理でしょ」っていう。
そうなんですよ。
その給料で能力の高い人が来てくれたら、それは儲かる。でもそれができないから、みんな苦労しているわけで。さすがにいまの時代そんな人いないでしょうけど。
いや多いですよ。この間もある中小企業さんで、「事務の社員が、社長の俺が言ったこと以上のことをしない。そんな社員ばっかりなんだ」って。
へえ〜。
「社長の言うことを、きちっとやってくれる社員さんに囲まれて、幸せじゃないですか」って言ったら、すごくムッとしてました(笑)
納得いかないんでしょうね。こっちが金を払ってるのにって。
要するに、非言語コミュニケーションの高さを求めすぎなんです。
非言語コミュニケーション?
つまり、「俺が言わなくても察しろ」って言うけど、そんなの無理でしょと。奥さんでさえ無理でしょうって。
家で揉めてそう(笑)
それって雇っている人の能力によるじゃないですか。
そんな能力の高い人は「今の時給じゃ無理」ってことですね。
無理無理(笑)言語コミュニケーションをきちっとやってくれる社員が、これだけいたらもう感謝しないと。言われたことを、言われたとおりやってくれるんだから。
コンビニでも「店員の態度が悪い!」「土下座しろ!」みたいな客がいますけど。コンビニでそれを求めてやるなよって思います。
一流ホテルに泊まってるわけじゃないので。
サービスを提供する側も、ある程度割り切っていると思うんですよね。「コンビニエンス」が売りなので。
おっしゃる通り。
いきなり!ステーキは安さと早さが売り。それ相応の時給しか払っていないのに、なぜ社長はこういうことを言っちゃうのか。
社長をいさめる人がいないんだと思う。要するに「裸の王様」なんですよ。人事の人がそんなことを言おうものなら、すぐクビになっちゃうじゃないですか。
そんなのでクビにしていたら誰もいなくなっちゃいますよ。また高いお金をかけて採用しないといけなくなる。
そうなんですよ。
それをくり返しても、なんの解決にもならないと思うんですけど。
テーブルサービスを極めたいんだったら、そもそも業態も人も変えないといけない。
そこが売りじゃないですもんね。
「この肉をこの値段で食えるのか」ってところがいちばんの売りで。業態そのものの問題だから、これは社長の役割だと思います。従業員はよくやってると思いますよ。
変わらなきゃいけないのは「社長」ってことですか。
そういうことになりますよね。
ある程度の報酬を払う気があれば、この社長が求める人は採れますか?
いや、報酬だけじゃ無理だと思います。
業態的にそもそも無理ですよね。
だって感動させるようなことを、べつにお客さんは求めていないので。それを自発的にやるっていうのは超能力みたいな話ですよ。
もっと安く、もっとおいしい肉を出せる体制を、経営陣が考えろと。
おっしゃる通り。社長がブレすぎなんです。
お客さんに向けて貼ったポスターもズレてましたよね。こういう方は、いまの時代には社長に向いていないってことですか。
もちろん力はお有りなんだと思う。だけどこの時代とか、人とのズレっていうのが、大きすぎるような気がします。
最もズレているのはどういう部分ですか?
一瀬社長にかぎった話じゃないんですけど。けっこう多いんですよ。新年早々「おまえら、こんなんでやれると思うなよ」みたいな社長。恫喝系の居酒屋チェーンとか。
恫喝系の居酒屋!
でもそんなこと言われて、社員さんは誰ひとり楽しくない。もっと楽しく、社員満足度を上げるような施策を打たないと。恫喝で人が動く時代なんてもうとっくに終わってるんです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。