2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第209回「無人化へのハードル」
第210回「太陽のリストラ政策」
ステルスリストラ?
ダイヤモンドの記事。あれ、面白いですよね。
ああ、そこら中の会社がリストラやってるっていう。あれホントですか?
はい。やってます。
「あの会社も、この会社も、実はここも」みたいな感じで載ってましたね。
そうそう。
ステルスリストラって具体的にどうやるんですか?
人事評価制度を切り替えるタイミングで、管理職を排除してくのがステルスリストラです。
日本では排除なんてできないじゃないですか。
管理職から排除するんです。
解雇はしないけど「管理職からは外す」ってことですか。
そう。解雇はしないけれど給料は下がる。
なるほど。
法律に違反しないように最大のパーセンテージまで下げる。それが3年つづくとグレードそのものが下がる。
それは合法的な方法なんですか。
もちろん。頭いいですよ。新人事制度を導入することによって、ちゃんと合法的に下げましょうと。
バブルが崩壊したときに、実力主義を導入する日本企業が増えましたよね。
はい。
でもやっぱり「年功序列・終身雇用が正しかったんじゃないか」みたいに言われて。どうなんですか。
業績がいいときはそういうことも言えるんですけど。今って、いつ何が飛んでくるかわからないじゃないですか。
わからないですね。
いきなり変化しなきゃいけなかったり、いきなり「この事業ダメ」ってことになるかもしれない。
そうですね。
たとえば新聞業界なんて黒字のところがほとんどない。
でしょうね。
本業では食えないから、たくさん持っている不動産でなんとか帳尻を合わせて儲けてる。その構図でいうと、「新聞記者はいらない」って話になるわけですよ。
もう終身雇用なんて言える状態じゃないと。
そんな余裕がない。終身なんて絶対に成り立ちえないですよ。だって会社が30年持ったら「すごいね」って時代じゃないですか。
確かに。
それ以上に働くんですから、そもそも無理なんですよ。もう何度も言ってますけど、日本はすべて有期雇用。最大10年。これに早く切り替えたほうがいい。
そのとおりだとは思うんですけど。現実的に法改正はハードルが高いですよ。
高いですね。
企業としては法改正を待ってる余裕もないし。何とかして上げちゃったものを下げたいわけですね。
そうです。一見そんなふうには思えないけど、「なんだこれ、よく見ると3年連続評価が上がらなかったらグレード下がるじゃないか」と。
そういう仕組みなんですね。
あとは某新聞社みたいに、高級な追い出し部屋をつくるとか。
それはどんな追い出し部屋なんですか。
要するに「業務支援センター」という名の、なにも仕事のないところですよ。部下もいなければ上司もいない。
つまり高級ではなく、「高給の人たちの追い出し部屋」ってことですね。
けっこう高級でもあるんですよ。追い出し部屋だけど給料は高いままだし。「北風と太陽」でいう太陽政策ですね。
ゆったりしたソファぐらいあるんでしょうか。
当然でしょう。
へぇ~。だけど、やることはないと。
やることはない。
そんないい環境だったら、辞めないんじゃないんですか。
それは安田さんだけでしょ(笑)
えっ!そうですか。
まあ僕もそうかも。でも大企業のエリートには「これはちょうどいいや。会社もなにも言わないんだったら」って思える人は少ない。
私だったら喜んで毎日マンガ読んでそうですけど。
マンガ読んで楽しいのは最初だけですよ。
たしかに(笑)人に必要とされないって、辛いものがありますもんね。
そうですよ。だって打ち合わせもなければ声もかからない。「ストレスがない状態」ってストレスなんですよ。
そこまで考えられてる追い出し部屋なんですね。
もちろん。だって、ある種の緊張状態があるからこそ、仕事って面白いわけじゃないですか。
確かに。
「ゆっくりお茶でも飲んで、資料でも読んでいてください」って話じゃないですか。
外には出られないんですか?
「べつに外出してもいいですよ」と。どこで何やってても構わないけど、新聞記者としての仕事はないわけですよ。
その人たちは給料は下がっていかないんですか?
下がらないんです。
へぇ~。下げないのにリストラの一環なんですね。
そう。だんだん耐えられなくなっていくから。
つまり「ちょっとずつ下げていく」というリストラと、下げないんだけど「やる気をなくして辞めていく」というリストラ。
自尊心と現状の待遇を天秤にかけるやり方。エグいなあと思います。
解雇できないから、なんとかしてマイナスを減らす方法を編み出しているわけですね。
そのとおりです。
いびつですね。
今の法律だったら仕方がないです。「うつになりました」とか、「精神のバランス崩しました」とかって言うけど、個人的には「全部会社に甘えるのもいい加減にしろ」って言いたい。
厳しい(笑)
むしろそれをチャンスとして、培ってきたことを次にどう生かすのか。真剣に考えたほうがいいと思う。
いままで想定していなかったんでしょうね。そういう危機的な状態を。
でもね、新聞記者としていろんな取材をしてるわけですよ。いろんなものを目の当たりにして、自分に対してはそんなに甘いのか?って。
自分は別なんでしょうね。
だからダメなんですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。