第210回「太陽のリストラ政策」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第209回「無人化へのハードル」

 第210回「太陽のリストラ政策」 


安田

ステルスリストラ?

石塚

ダイヤモンドの記事。あれ、面白いですよね。

安田

ああ、そこら中の会社がリストラやってるっていう。あれホントですか?

石塚

はい。やってます。

安田

「あの会社も、この会社も、実はここも」みたいな感じで載ってましたね。

石塚

そうそう。

安田

ステルスリストラって具体的にどうやるんですか?

石塚

人事評価制度を切り替えるタイミングで、管理職を排除してくのがステルスリストラです。

安田

日本では排除なんてできないじゃないですか。

石塚

管理職から排除するんです。

安田

解雇はしないけど「管理職からは外す」ってことですか。

石塚

そう。解雇はしないけれど給料は下がる。

安田

なるほど。

石塚

法律に違反しないように最大のパーセンテージまで下げる。それが3年つづくとグレードそのものが下がる。

安田

それは合法的な方法なんですか。

石塚

もちろん。頭いいですよ。新人事制度を導入することによって、ちゃんと合法的に下げましょうと。

安田

バブルが崩壊したときに、実力主義を導入する日本企業が増えましたよね。

石塚

はい。

安田

でもやっぱり「年功序列・終身雇用が正しかったんじゃないか」みたいに言われて。どうなんですか。

石塚

業績がいいときはそういうことも言えるんですけど。今って、いつ何が飛んでくるかわからないじゃないですか。

安田

わからないですね。

石塚

いきなり変化しなきゃいけなかったり、いきなり「この事業ダメ」ってことになるかもしれない。

安田

そうですね。

石塚

たとえば新聞業界なんて黒字のところがほとんどない。

安田

でしょうね。

石塚

本業では食えないから、たくさん持っている不動産でなんとか帳尻を合わせて儲けてる。その構図でいうと、「新聞記者はいらない」って話になるわけですよ。

安田

もう終身雇用なんて言える状態じゃないと。

石塚

そんな余裕がない。終身なんて絶対に成り立ちえないですよ。だって会社が30年持ったら「すごいね」って時代じゃないですか。

安田

確かに。

石塚

それ以上に働くんですから、そもそも無理なんですよ。もう何度も言ってますけど、日本はすべて有期雇用。最大10年。これに早く切り替えたほうがいい。

安田

そのとおりだとは思うんですけど。現実的に法改正はハードルが高いですよ。

石塚

高いですね。

安田

企業としては法改正を待ってる余裕もないし。何とかして上げちゃったものを下げたいわけですね。

石塚

そうです。一見そんなふうには思えないけど、「なんだこれ、よく見ると3年連続評価が上がらなかったらグレード下がるじゃないか」と。

安田

そういう仕組みなんですね。

石塚

あとは某新聞社みたいに、高級な追い出し部屋をつくるとか。

安田

それはどんな追い出し部屋なんですか。

石塚

要するに「業務支援センター」という名の、なにも仕事のないところですよ。部下もいなければ上司もいない。

安田

つまり高級ではなく、「高給の人たちの追い出し部屋」ってことですね。

石塚

けっこう高級でもあるんですよ。追い出し部屋だけど給料は高いままだし。「北風と太陽」でいう太陽政策ですね。

安田

ゆったりしたソファぐらいあるんでしょうか。

石塚

当然でしょう。

安田

へぇ~。だけど、やることはないと。

石塚

やることはない。

安田

そんないい環境だったら、辞めないんじゃないんですか。

石塚

それは安田さんだけでしょ(笑)

安田

えっ!そうですか。

石塚

まあ僕もそうかも。でも大企業のエリートには「これはちょうどいいや。会社もなにも言わないんだったら」って思える人は少ない。

安田

私だったら喜んで毎日マンガ読んでそうですけど。

石塚

マンガ読んで楽しいのは最初だけですよ。

安田

たしかに(笑)人に必要とされないって、辛いものがありますもんね。

石塚

そうですよ。だって打ち合わせもなければ声もかからない。「ストレスがない状態」ってストレスなんですよ。

安田

そこまで考えられてる追い出し部屋なんですね。

石塚

もちろん。だって、ある種の緊張状態があるからこそ、仕事って面白いわけじゃないですか。

安田

確かに。

石塚

「ゆっくりお茶でも飲んで、資料でも読んでいてください」って話じゃないですか。

安田

外には出られないんですか?

石塚

「べつに外出してもいいですよ」と。どこで何やってても構わないけど、新聞記者としての仕事はないわけですよ。

安田

その人たちは給料は下がっていかないんですか?

石塚

下がらないんです。

安田

へぇ~。下げないのにリストラの一環なんですね。

石塚

そう。だんだん耐えられなくなっていくから。

安田

つまり「ちょっとずつ下げていく」というリストラと、下げないんだけど「やる気をなくして辞めていく」というリストラ。

石塚

自尊心と現状の待遇を天秤にかけるやり方。エグいなあと思います。

安田

解雇できないから、なんとかしてマイナスを減らす方法を編み出しているわけですね。

石塚

そのとおりです。

安田

いびつですね。

石塚

今の法律だったら仕方がないです。「うつになりました」とか、「精神のバランス崩しました」とかって言うけど、個人的には「全部会社に甘えるのもいい加減にしろ」って言いたい。

安田

厳しい(笑)

石塚

むしろそれをチャンスとして、培ってきたことを次にどう生かすのか。真剣に考えたほうがいいと思う。

安田

いままで想定していなかったんでしょうね。そういう危機的な状態を。

石塚

でもね、新聞記者としていろんな取材をしてるわけですよ。いろんなものを目の当たりにして、自分に対してはそんなに甘いのか?って。

安田

自分は別なんでしょうね。

石塚

だからダメなんですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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