第230回「替え玉受験の本質」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第229回「イノベーションが起きない国」

 第230回「替え玉受験の本質」 


安田

就活テストの替え玉受験が問題になってます。

石塚

オンラインでの入社試験が増えてますから。

安田

入社試験って単なる建前な気がしますけど。学歴だけで落とすわけにもいかないので、「一応試験もやっておこう」ぐらいな。

石塚

おっしゃる通りです。

安田

ですよね。オンライン試験でいい点を取っても、内定につながるわけでもない。

石塚

Webテストは、まあ学歴フィルターのいい口実ですよ。SPIと同じで。

安田

それで採用になるわけじゃない。

石塚

なるわけないですよ。

安田

そんなものにお金まで払って替え玉受験してもらうなんて。

石塚

適性検査の替え玉だったみたいですね。

安田

「適性検査を不正してどうするんだ?」って感じ。

石塚

適性試験って参考資料程度なので。検査結果をちゃんと読み解いたうえで現実に当てはめられる人って、ほとんどいないんですよ。

安田

でしょうね。

石塚

SPIの性格診断なんて、どうとでも取れるようにしか書いてないし。診断として役に立つかというと、まあ半々だなという感じですね。運用のレベルを求められる。

安田

言ったら怒られそうですけど、「こんなことぐらいで逮捕されるんだ」って感じ。

石塚

しかも安いんですよ。ギャラが。

安田

1件2,000円とかですよね。リスクを考えたらめっちゃ安い。

石塚

微罪ですよ。万引きレベルですね。

安田

でも京大出身のエリートがやってたみたいですよ。

石塚

たぶん性格診断ではなく、いわゆる国語・算数のような、「あなたの知能レベル・学力レベルを測ります」という試験なんですよ。

安田

なるほど。

石塚

僕がいちばんショックなのは、学生がいまだに学力を気にしているところ。「就職活動ってそこじゃないだろ」って思うんですよ。

安田

そうですよね。

石塚

大学の入学試験と同じように就活を考えている人間がこんなに多いのかと。がくぜんとします。

安田

この不正で誰が損をするのか分からなくて。被害者は誰なんでしょう。企業も正直いって、こんなので被害なんて受けないと思う。

石塚

本当ですよね。

安田

替え玉をやった人も、「喜ばれて、やりがいがあった」と言ってまして。「そもそも本業の給料が安すぎて、やっていけなかった」とか。

石塚

京都大学出てね、そんなことをやっていること自体が頭悪いですよ。どうせならちゃんとやればいいのに。

安田

ちゃんとやる?

石塚

そう。「受験対策講座」のビジネスとして、副業で堂々とやればいい。

安田

確かにそうですね。

石塚

つかまった人間をもし責めるとしたら、「なんて君は想像力がないんだろうか」ってことを僕は言いたい。

安田

そこですか(笑)

石塚

「自分の強みをどうやったら生かせたか」ってことを、もっと視野広く考えないと。ビジネスとして動けるはずなのに、こんなことしか想像つかないのかって。

安田

しかも 1科目2,000円ですからね。その頭脳をもってして、これだけリスクを負って、こんな安い仕事してどうするんだって感じです。

石塚

幼稚園・小学生のお子さんをお持ちの父母に言いたい。結局、大学入試で京大まで行ったって、こんなレベルですよって。

安田

いや、本当に。「400万荒稼ぎ」ってメディアは書いてましたけど。なにが「荒稼ぎ」なんだって(笑)

石塚

ぜんぜん(笑)これが4億とかだったらね。

安田

2,000件もコツコツ働いて400万って。稼ぎ方としてちょっと頭悪すぎる。

石塚

しかも働く側でしょ。「替え玉の子を200人も300人も動かしていたのが、実はこの京大出の27歳なんです」っていったら、ある意味「やるなあ」って思うけど。

安田

集客のためにTwitterもコツコツやってたそうです。それで1教科2,000円。

石塚

もうちょっと儲かる仕事をちゃんと考えろよって感じですね。

安田

ブランドファーマーズ・スクールに入学してほしいです。

石塚

安田さんにマンツーマンでちゃんと教えてもらえばいいのに。まあ、でも、これが現実なんでしょうね。

安田

これは氷山の一角ですか?

石塚

結局、「自分の力を生かして世の中で食っていく」ってことの想像力が、こんなもんだということ。学校の勉強と社会での仕事ってぜんぜん別ものなんですよ。

安田

「コネ入社とどこが違うんだ」って犯人が言ってました。まあコネ入社は、違法行為ではないのかもしれないですけど。でもどっちがズルいかっていうと微妙ですよ。

石塚

コネも実力のうちなので。

安田

コネが会社の収益に結びつくから採用するんでしょうね。

石塚

誤解を恐れずにいうと、電通なんてみんなコネ入社じゃないですか。人脈を背負ってる人材が資産なんですよ。

安田

そうなんですね。

石塚

「ああ、だったらうちの父に話します」「頼むよ。そのほうが話が早いから」っていう人がいれば、そりゃビジネスは進みますよ。

安田

オンラインでの就職試験って増えていくんですか。

石塚

でしょうね。いまだに選考方法にSPIとかを入れてくる企業も多いので。

安田

どういう選考方法がおすすめですか?

石塚

選考の前に、まずダイレクト・リクルーティングです。ありとあらゆるルートを使って優秀な学生にたどり着いて、直接口説くのがいちばん。

安田

「こいつは優秀だ」って人を一本釣りしていくってことですか。

石塚

おっしゃる通り。

安田

面接や試験で見抜くこと自体に、無理があるってことですね。

石塚

無理ですね。本当に優秀な人材が欲しいんだったら、大学の2年生ぐらいから超青田買いを始めないと。お金もかかるし時間もかかるけど、それはしょうがない。

安田

これからは量じゃなくて質ってことですか。

石塚

質と、それをやれるだけの資金力ですよ。シェアを独占すると、独占禁止法っていう法律があるじゃないですか。

安田

はい。

石塚

独占禁止法の唯一適用外が「人」なんですよ。人だけは独占してもいいんです。

安田

なるほど。

石塚

人材を独占する企業がもうすでに現れ始めてます。

安田

どうやったら独占できるんですか。

石塚

給料が高くて、育成能力が高くて、社員満足度が高くて、エンゲージメントが高い会社になること。そういう会社が人材を独占するでしょうね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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