第233回「デフレ脱却はもう手遅れ?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第232回「イーロン・マスクの勝算」

 第233回「デフレ脱却はもう手遅れ?」 


安田

日本の労働人口が実は増えてる?

石塚

そうなんです。

安田

少子高齢化で「若者がどんどん減ってる」と言われてますけど。

石塚

若者は減ってますよ。ただ労働人口は増えてる。

安田

それはつまり主婦であったり、高齢者であったり、「働かざるをえない人」が増えてるってことですか。

石塚

「女性が働くようになった」というのが一番ですね。

安田

「働かざるをえない」というわけじゃなく?

石塚

うーん、働かざるをえない人もいるんでしょうけど。「昔よりも格段に働きやすくなった」というのもあると思います。

安田

働きやすくなってるんですか。

石塚

ひと昔前までは、専業主婦というのが当たり前だったじゃないですか。

安田

「結婚したら子育てと主婦業に専念しなさいよ」みたいな。

石塚

そう。昔は選択肢が1個しかなかった。今は子供がいて仕事もしてる人っていっぱいいますから。

安田

今はむしろ「えっ、専業主婦なの!?」みたいな感じですよね。

石塚

東京都心の富裕層の多いエリアは、いまでも「働いていらっしゃるんですか?」みたいな雰囲気があります。

安田

そんなの白金のマダムぐらいでしょ。

石塚

いえいえ。港区や世田谷あたりって、「働いていらっしゃるんですか!?」というのはまだあるそうです。

安田

そうなんですね。

石塚

だけど全国的に見たら、安田さんのおっしゃる通り「共働きで、子育ても家事も夫婦でやる」というのがもはや当たり前。

安田

そうなってきてますよね。

石塚

そうなってます。ライフスタイルと男女の役割の変化が、結果的には労働力人口を増やしているんです。

安田

なるほど。

石塚

じつは日本って人口もちょっとだけ増えてるんですよ。

安田

え!そうなんですか。

石塚

意外でしょ。

安田

意外ですね。

石塚

少子高齢化とか人口減少社会ってメディアは言うんですけど。1990年の人口が1億2,361、1.2361で、令和2年が1.2614なんです。

安田

減り続けてるイメージですけどね。

石塚

メディアも「人口減少社会」って煽るから。だけど30年前とくらべて人口がちょっと増えているんですよ。

安田

なぜ増えたのか不思議ですけど。

石塚

あのね、高齢社会って、なかなか亡くならないんですよ。

安田

つまり長生きになったということですか。

石塚

そのとおりです。だから国民全体の人口は、ちょっとではあるけど増えているし、労働人口も増えている。

安田

なるほど。

石塚

そうすると、普段メディアが印象づけているものとは、ちょっと違う景色が見えてきませんか。

安田

「ここ数十年、労働人口が減って、それによって日本の生産性が落ちた」と言われてるけど、それは間違っていたということですね。

石塚

人口ではないということです。

安田

労働人口は増えているんだけど、1人あたりの生産性がとんでもなく減ってるということですか。

石塚

そうなんです。

安田

それはどうして?

石塚

いろんな考え方があると思うんですけど。不良債権処理に乗じて、日本のいいものをみんな外資に売っ払っちゃった部分は大きいと思います。

安田

へえ〜。

石塚

GDPも、かつて世界シェア18%だったのが、いまは6%弱じゃないですか。

安田

3分の1ですね。

石塚

そうです。世界シェアが3分の1に落ちた。もしこの30年、世界並みの成長をつづけていたら、われわれの所得は3倍になっているということですよ。

安田

でも売った事業があるとはいえ、残っている事業もたくさんあるわけじゃないですか。買われたというよりシェアを奪われた気がするんですけど。

石塚

もちろんそれもありますよ。新しい産業での競争力が弱かったり。

安田

世界的に見ると日本より弱い国はいっぱいありそうなのに。なぜ日本だけが、こんなに極端に1人あたりの生産性を落としてるんですか。

石塚

「デフレからいつまでも脱却できない」というのが一番じゃないですか。

安田

やっぱりそうですよね。みんな安いものばかり求めるので。

石塚

そうなんですよ。消費が増えないのでマーケットは縮小する。外で売れても、国内マーケットはどんどん儲からなくなっていく。

安田

だから給料も増やせないし、さらにマーケットはシュリンクしていくと。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

だけどこうなったのは「労働人口が減ったこと」が原因じゃなく、「減って貧乏になるぞ」という“脅し”によって、不安でこうなっちゃったということですか。

石塚

その通りです。さすがですね。安田教授の解説のとおりだと思います。

安田

じゃあ不安を煽ったマスコミの責任じゃないですか。

石塚

マスコミは視聴率がとれるニュースを流すので。

安田

不安なニュースを国民が求めてきた結果だと。

石塚

求めてきたかどうかは分かりません。だけど国民性は大いに関係してると思います。

安田

やっぱり国民性ですか。

石塚

はい。だからデフレ脱却を先にやるべきだったんですよ。不良債権処理は先回しでもよかったと僕は思う。「大手30社問題」って覚えてます?

安田

覚えてません。

石塚

小売業を中心にダイエーが筆頭でしたけど「この大手30社をすぐ不良債権処理しないと、銀行も含めてとんでもないことになる」とか言って。

安田

誰が言ったんですか?

石塚

竹中平蔵さんや木村剛さん。それで大手30社はみんな外資に売っちゃったわけです。でも、あのとき経常利益は黒字だったわけで。

安田

黒字だったんですか。

石塚

名だたるターミナル駅前に優良不動産をいっぱい持っていたわけです。それをみんな解体して、みんな外資が持っていっちゃった。

安田

へえ〜。

石塚

あんなことにエネルギーを使って、雇用も減らしていろんなものを奪うより、デフレ脱却を先にすればよかったのにって。いまだからこそ思いますね。

安田

ここからデフレを脱却するのはもう無理ですか。

石塚

もう日本人はお金を使わないでしょうね。

安田

それは収入が低いからですよね。

石塚

もちろんそれが大きいんですけど。意外にデフレ生活って、やってみると楽しかったりするじゃないですか。

安田

慣れちゃうと快適かもしれません。質素倹約が身についてます。

石塚

「身の丈」とか「質素」というのは、日本人の気質に合ってるんでしょうね。不景気になると必ず上杉鷹山が出てくる。日本人はそういうのが好きなんですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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