泉一也の『日本人の取扱説明書』第20回「同調の国」

日本人の同調性を大事にしながら、「いい空気」を作る側になる教材が身近にある。それは、落語である。ほとんど身一つで(持ち物は扇子ぐらい)多くの人の前に座り、作り話をするだけなのに、始まって5、6分も経てば、いい空気が会場に生まれる。皆がリラックスしていながらも話に集中し、周りの目が気にならなくなりながらも、バラバラではなくて一つになって笑う。落語の中に「いい空気」をつくる極意が隠されているのだ。その極意を抽出し、教材としてトレーニングすればいい。

秘伝のタレが門外不出のように、残念ながら落語から抽出した極意はここではお教えできない。しかし、せっかくなので一つのヒントをお伝えしておきたい。ヒントなので、ピンと来ないかもしれないが、センスがある人ならピンとくるはず。ヒントとは残り一つのピースなので、普段からピースを集めている人がセンスのある人といえるわけだ。ピース集めをあなたは普段からしているだろうか。ピース集めをしているセンスのある人であれば、極意のヒントが薄々わかってきただろう。センスがない人は、何のことか全くわからない。早くヒントを教えろよ、とイライラしてきているはずだ。これである。もうわかっただろう。えっ!わからん?ここまで言ってわからないのであれば、落語を10本程度見てからもう一度読んでほしい。

では、そろそろヒントをいおう。それは、何かというと「じらし」である。すぐに結論を言わない。じらすのである。結論を際立たせるために、余談をはさみ、伏線をはり、早くどうなるのか、どうなったのか知りたいと相手に思わせる。結論から言え!これが効率的だとかいっている管理職がいるが、ここ日本では効率が悪い。それよりも、じらすことで早く知りたいという欲求がたかまり、伝えたいこともぐっと伝わる。つまりお互いにとって「いい空気」ができるのだ。

「結論を際立たせるためのじらし」これが「いい空気」を作る極意であるが、そんなことを教えている講師はいないし、意識的に大切にしている会社も見当たらない。しかし、自分から「いい空気」を作っている人を観察してほしい。無意識なのか意識的なのか聞いてみないとわからないが、「じらし」をしているはずである。

空気を自ら作るには、空気をつかむ必要がある。お笑いでは「つかみ」というが、まさにこれである。空気をつかむには、周りの人が知りたいという欲求を高めるための仕掛けが必要なのだ。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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