新商品とは、これまでに無かった新しい商品、
という意味である。
では、どこからが「これまでに無かった」
と言える境界線なのだろうか。
たとえば、デザインが新しくなったチョコレートはどうだろう。
中身が同じ場合、これは新商品と言えるのか。
新色のボールペンはどうだろう。
今までの青よりも、もう少しだけ明るい青色。
それは新商品と言えるのか。
あるいは、商品は全く同じなのに、名前だけが変わった場合。
目の前を流れる水に「南アルプスの天然水」と名付けたら、
それは新商品になるのだろうか。
新商品だと言われれば、確かに新商品ではある。
だが、「ちょっとだけ変更を加えた既存の商品である」
と言われれば、それはその通りでもある。
電球やiPhoneのような新商品は、
一部の天才にしかつくり出すことが出来ない。
だが名前を変えるだけなら、誰にでも出来る。
新商品とは、かくも「あやふやなもの」なのである。
新商品をつくりたい。
新商品を売り出したい。
経営者なら誰もが、そう考えるだろう。
だが、新商品とは何なのか、
それを真剣に考察している経営者は少ない。
新商品とは何なのか。
あなたなら、この質問にどう答えるだろう。
前述したように、新商品には明確な境界線がない。
つくった人が新商品だと言えば、それは新商品であるし、
顧客が新商品だと認めれば、それは新商品なのである。
つまり大事なのは、新商品かどうかではない、ということ。
何をもって新商品としているのか。
その定義にこそ、本質的な価値があるのだ。
企業が新商品をつくる理由は、大きく分けてふたつしかない。
マーケットのシェアを奪うためと、
マーケットそのものを創り出すため。
このふたつの目的のために、新商品は存在する。
そして、どちらの目的を選ぶのかによって、
新商品の定義も、その販売戦略も、根本から変わるのである。
名前やデザインを変えただけの新商品では、
シェアは奪えても、マーケットは創り出せない。
マーケットを創り出せるのは、
iPhoneのような画期的な新商品だけである。
おそらく、そう考えている経営者が多いのではないだろうか。
だがそれは、根本的な勘違いである。
既存のマーケットに属する商品なのか。
それとも、全く新しいマーケットに属する商品なのか。
それを決めるのは販売者である。
ボールペンのシェアを奪うのなら、
ボールペンとして売り出すことが必須である。
新しいマーケットを創るなら、
ボールペンではない見せ方と商品名が必須である。
既存のマーケットには既存の顧客がおり、
売りやすいが、値崩れしやすい。
新しいマーケットには既存の顧客がおらず、
売りにくいが、値崩れしにくい。
どちらを選ぶのかは自由。
ただし、どちらを選ぶかによって、売り方は全く違う。
マーケットを創り出すのは、テクノロジーだけではない。
新しいコンセプトと、新しいネーミング。
それさえあれば、マーケットを創り出すことは可能だ。
ただし、コンセプトに求心力がなければ、
マーケットに顧客はやって来ない。
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