ルールに隠された意図を読め!
第10回「退職の境目」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第10回「退職の境目」


久野

今、退職代行サービスっていうのがありまして。

安田

1回いくらなんですか。

久野

3〜5万円らしいです。

安田

社員の側が払うんですよね?

久野

そうです。社員やパートさんが、自分で払うんです。

安田

パートさんもですか!

久野

はい。

安田

パートさんにとって3万って大きいですよね。それでも、人に頼むんですか?

久野

そうです。月300件ぐらいの依頼がくるそうです。

安田

ひとつの会社に依頼が月300件ってことですか?

久野

そうです。

安田

結構すごい数ですね。

久野

じつはこの前、うちのお客さんの所にも、代行会社から連絡ありまして。

安田

突然連絡がくるんですか?

久野

はい。突然きます。

安田

なぜ、わざわざ高い料金を払って、代行を頼むんですかね?

久野

ひとつは、引き止められるのが嫌だから。

安田

それだけで、そんなに高い金払いますかね。退職願をポンと渡して「それじゃ」ぐらいの感じですけど。

久野

そんなに軽くないですよ。やっぱり言い出しにくい。

安田

でも、絶対辞めさせてくれない会社なんてあるんですか?たまにニュースで見ますけど。

久野

いや、実際にはないですね。私の知る限りないです。

安田

ですよね。辞めるって言われたら、もう止めようがないですし。

久野

むしろ、後ろ向きな人を残しておくほうが、会社としてはマイナスですから。

安田

そう思いますね。「3カ月後に辞めたい」って言われても「いやもう、すぐに辞めてくれ」って言いたくなります。

久野

経営者としては、テンション一気に下がりますからね。辞めるって言われた瞬間に。

安田

下がりますよね。それでも辞めさせないっていうのは、どんな会社なんでしょう?

久野

会社として引き止めるっていうより、上司でしょうね。世話になった上司に引き止められると、断りにくいじゃないですか。

安田

確かに。現場のマネージャーが一番困りますからね。

久野

それと、マインドの問題。

安田

マインドですか?

久野

はい。マインド的に「辞めます」って言えない人が、増えてきてる。

安田

電話に出られない若者が、増えてるらしいですからね。

久野

安田さんも出ませんよね(笑)

安田

はい。苦手です。ここ半年ぐらい、電話には出てません。

久野

人と会話すのが苦手って人もいますし、怖いってのがあるみたいです。

安田

怒鳴られるとか?

久野

普段から怒られてたりすると「辞めます」って言った瞬間に、何言われるか分からないじゃないですか。

安田

怒られるシーンを想像しちゃうんですかね?

久野

やっぱり怖いんだろうなと思いますね。

安田

でもそこに3万とか5万とか払うってのは、やっぱり時代ですね。

久野

そうですね。LINEの影響とかがあるんでしょうね。

安田

逆の依頼もあるんですかね?

久野

逆というと?

安田

辞めると言ってる人を「残るように説得してくれ」みたいな依頼。

久野

そういうのは、実際受けたことがあります。

安田

久野さんが受けたんですか?

久野

はい。食えない頃は、そういう仕事も受けてました(笑)

安田

で、説得したんですか?

久野

ファミレスに連れて行って「もうちょっと粘ってくれないか」みたいな話をしました。

安田

説得できました?

久野

いや、できなかったですね。むしろ、社長の悪口が始まって。

安田

社長の悪口?

久野

ここが嫌だ、あそこも嫌だって、どんどん悪口が出て来るんですよ。

安田

なんと!

久野

もう、報告しようがない状態になりましたね。

安田

でも、お金払ってまで辞めるって、よっぽどですよね。

久野

そうだと思います。かなり末期的ですね。

安田

そういう「辞めたい予備軍」みたいなのって、経営者が考えているよりたくさんいるんじゃないですか?

久野

いますね。僕らは社員さんとも話す機会が多いので、それは実感します。

安田

でも社長って「いや、うちはそんなに辞めないから」とかって言ってる人、多いですよね。

久野

ちょっと前までは多かったですけど、いまは結構、危機感持ってますよ。

安田

実際どれぐらい、いるんですかね?辞めたい予備軍って。

久野

Indeed調べでは、2人に1人ぐらい、いるみたいです。

安田

そんなにいるんですか?逆に、なんで辞めてないんですかね。

久野

辞めた後のことが不安なんだと思います。

安田

こんなに採用難で人手不足なのに?

久野

不安感はすごく大きいですね。だからギリギリまで我慢するんだと思います。

安田

我慢できるもんですかね?

久野

「辞めたい」って、一過性の感情だったりもするので。

安田

一晩たって収まることもあると。

久野

まあ、表面的には。

安田

でもゼロにはならないですよね?

久野

上司と面談したりして、その時は収まるんですけど。まあゼロにはならないですね。予備軍のままです。

安田

じゃあ、調査した時に収まっているだけかもしれませんね。本当はもっと多いとか。

久野

もしかしたら9割ぐらいいるかもしれません。

安田

雪崩を打って辞めて行ったら、崩壊しちゃいますね。

久野

実際、そういう会社もありますからね。

安田

恐ろしい。ところで、その代行ですけど。

久野

はい。

安田

本人が辞める前に連絡して来るんですよね?

久野

辞めるための連絡ですからね。

安田

じゃあ、電話がかかってきた時に、本人はまだ出社してる?

久野

いや、それはないですね。会社にはいない。

安田

休んでるってことですか?

久野

家に帰って「二度と会社に行きたくない」っていう、状態なんじゃないですかね。

安田

会話するのも嫌だと?

久野

感情的なものもあるし、話すのが苦手だというのもあるし。

安田

話すのが苦手な人って、どうやってその業者に依頼するんですか?

久野

LINEやネットで依頼するらしいです。

安田

会話嫌いが徹底してますね。

久野

はい。話すのが嫌だし、会社にも行きたくない。

安田

もう1回会社に行くぐらいだったら「お金払って何とかしてほしい」みたいな。

久野

後腐れなく「ぜんぶ終わりにしたい」っていうのもあると思います。

安田

スッキリしたいと。

久野

だらだらフェードアウトするのも不安だし、さすがに何も言わないのは悪いかなみたいな。

安田

なんとなくズルズルと来なくなる人って、いますもんね。

久野

今はだいたいメールですね。

安田

増えてるんですか?メールで辞職する人。

久野

本当に会いたくないんだろうなって、思いますね。私も経験ありますけど。

安田

久野さんも経験あるんですか?

久野

日中ずっと一緒にやってて、帰った後、夜にメールが来るんですよ。

安田

え!さっきまで一緒だったのに、そこでは言わないんですか?

久野

まったく。そんな素振りもなく。

安田

で、メールが来る?

久野

今までお世話になりましたと。ついてくのが厳しいですと。今日をもって退職します、みたいな。

安田

会社に残ってる私物とかは?

久野

すでに整理してあるんですよ。それで「鍵は引き出しの中にあります」みたいな。もう二度と来ない。

安田

退職届とかは、提出しないんですか?

久野

紙では書かないですね。

安田

じゃあ、メールで終わりってことですか?

久野

メールで終わりです。

安田

それで受理すれば法的にはOKなんですか?

久野

法的には問題ないです。紙に書く必要はありません。

安田

そうなんですか。

久野

会社によっては、就業規則で手続きが決まっている場合もありますけど。

安田

そもそも、何のために出すんですか?退職願って。

久野

企業側のリスクヘッジですね。後から「解雇だった」と訴えられたりしないように。

安田

じゃあ、本人が自発的に辞めた証拠みたいなものですか?

久野

そうです。メールでもいいので、必ず受け取っておいたほうがいいです。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

中小企業が抱える
三重苦(採れない、辞める、生産性が低い)を、
三重丸(採れる、辞めない、生産性が高い)へ。
6つのステップで支えます。

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