さよなら採用ビジネス 第17回「副業と熟年離婚」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい 第16回「社長こそ副業をやってみるべき」


安田

前回は「社長も副業を」ってことでしたよね?

石塚

はい。そうでしたね。

安田

会社は生涯に渡って社員を守ることなど出来ない。だから社員は、その会社以外から収入を得るスキルを磨かなくてはならない。

石塚

はい。それは間違いないですね。

安田

で、私が言いたいのは、そうなった時に「社長は独りぼっちになる」ってことなんですよ。

石塚

独りぼっちになりますか?

安田

なります。私は社員を失った経験があるので、よく分かります。

石塚

失礼ですが安田さんの場合は、会社がなくなったわけですよね?

安田

はい。

石塚

副業を解禁したからといって、独りぼっちにはならないと思いますけど。

安田

でも間違いなく、関係性は変わりますね。

石塚

それはどのように?

安田

社員が自立していくと、社長も自立せざるを得なくなります。

石塚

それはそうでしょうね。

安田

前にも言いましたけど、社長は自分が考えている以上に社員に依存してるんですよ。

石塚

安田さんもそうだった?

安田

はい。社員のほうが自立するのは早いです。社長歴が長い人ほど自立は大変。

石塚

そういうもんですか?

安田

社員が100%会社に人生を委ねている状態というのは、社長にとってはある意味天国なんですよ。

石塚

いろんな社長を見てると、雇う苦労の方が多い気もしますけどね。

安田

確かに苦労も多いです。給料を払うための資金繰りは地獄です。

石塚

そうでしょう。それでも天国だと?

安田

はい。飲み屋さんで女の子にチヤホヤされるのと同じ。後でお金を払わないといけないんですけど、その時はやっぱり天国なんですよ。

石塚

飲み屋さんとは違うでしょ!

安田

そんなことないです。むしろ飲み屋さんより天国です。ご飯に誘えば断らないし、朝礼のつまらない話を何時間でも聞いてくれるし、結婚式でも主賓に呼ばれます。事あるごとに「尊敬してます」とか「社長について行きます」とか言ってくれます。

石塚

また偏った見方ですね(笑)

安田

まあ、今の話はちょっと極端ですけど、でも依存しているのは事実です。少なくとも仕事の場面においては、社長が指示することは絶対にやってくれます。

石塚

そりゃあ、そうですよね。給料払ってるんだから。

安田

そう、給料を払っているから。しかも100%その給料に頼っているから。

石塚

副業したらそれが変わると?

安田

絶対に変わると思います。副業の稼ぎが増えれば増えるほど、主導権は社員の側に移りますから。

石塚

副業の稼ぎが増えれば、そうなるかもしれませんね。

安田

必ずなります。まず、仕事を選ぶようになります。「この仕事はやるけど、これはちょっとお断りします」みたいに。

石塚

ほう。仕事を選ぶようになりますか?

安田

はい。朝礼とか、飲み会とか、そういう無駄な仕事は、まず最初に断られます。

石塚

確かに。私だったら絶対に断りますね。

安田

でしょ。そうやって、社長の気持ちのいい時間がどんどん削られていく。

石塚

雑用なんかも、やってもらえなくなりますね。

安田

はい。「そのくらい自分でやってください」って間違いなく言われます。で、いざやろうとしたら、コピーひとつ自分では取れない。

石塚

熟年離婚みたいですね(笑)

安田

構造は全く同じですよ。奥さんが旦那の面倒見てくれるのは、経済的に依存しているから。

石塚

自分で稼げるようになったら「誰も面倒見てくれないぞ」と。

安田

そのとおりです。だから社長も自立しないと。

石塚

そのために、まず副業せよと。

安田

はい。

石塚

社長が副業して、社員もみんな副業したら、世の中はかなり変わるでしょうね。

安田

どう変わると思いますか?

石塚

労働力が通貨みたいになるんじゃないでしょうか。

安田

通貨ですか?

石塚

はい。たとえばドルみたいな強い通貨だと、社会でどんどん流通する。みんなが欲しがりますから。

安田

なるほど。ではマイナーな通貨は・・・

石塚

残念ながら流通しませんね。新橋でクローネ使えますか?

安田

出したら怒られるでしょうね。

石塚

なんじゃこれ?ってことになりますよね。

安田

つまり、市場で流通する労働力と、流通しない労働力に分かれると。

石塚

おっしゃる通り。

安田

まあ、そうですよね。だからこそ私は副業を推奨しているわけです。マーケットに出して見たら、売れるかどうかは一目瞭然なので。

石塚

社長も「経営者として俺は優秀だ」と思うのなら、自分の経営スキルを他の会社に売ってみなさいと。

安田

はい。

石塚

そうなった時、安田さんは労働力の何%くらいが流通すると思いますか?

安田

半分くらいじゃないでしょうか。

石塚

なぜ半分だと思うんですか?

安田

流通したくない人がいるから。

石塚

流通したくない?

安田

はい。決められた時間に、決められた場所に行って、決められた通りの仕事をして、決まった報酬をもらいたいっていう人が一定数いる。

石塚

そういう人たちは流通しないと。

安田

はい。流通しないまま、そこでしか通用しない通貨になっていく。

石塚

それが半分くらいだと?

安田

はい。社長も含めて半分くらい。

石塚

では残りの半分は、社長も含めて流動的になると。

安田

なってほしいですね。

石塚

何年後にそうなると思います?安田さん予測だと。

安田

正しく予測はできないんですけど、10年以内にはそうなって欲しいです。

石塚

10年以内には1:1にしたいと。

安田

はい。そうなるために自分も微力ながら行動したいです。

石塚

僕の予測はね、同じ10年で最大3割じゃないかと思います。でも3割でも相当なインパクトだと思いますよ。

安田

確かに凄いインパクトだとは思いますが。でもやっぱり半分は超えて欲しいですね。

石塚

いずれは、そうなりますよ。ただもっと時間はかかると思います。

安田

確かに最初の1割くらいまでは時間かかると思うのですが、それを超えたら一気に半分くらいまでいかないですかね?「あっちの方が楽しそうだぞ」ってみんなが一斉に動き出す。

石塚

もちろん本人の意思もあると思うんですが、それ以上に僕はスキルがついてこないと思いますね。

安田

飛び出したくても、飛び出せないと?

石塚

はい。例えば自分は何が得意で、どういう仕事が好きなのかも、分からなくなっている人が大半です。

安田

それは私も実感しますね。ちょっと前に「定年を機に自分の好きなことをやりたい。相談に乗ってもらえませんか」って人が来たんです。

石塚

ほう。

安田

私はてっきり「好きなことを、どうやって収入に結びつけるか」の相談だと思ってたんです。

石塚

でも違った?

安田

はい。「私は何をやったらいいんでしょう?」と聞くわけです。

石塚

え? 好きなことをやりたいのでは?

安田

その好きなことが「何か分からないんです」って。

石塚

まあ、でも、そういう人が大多数だと思いますよ。

安田

なぜ、そんな事になっちゃうんですかね?

石塚

会社というのは全体最適ですから。

安田

全体最適?

石塚

はい。全体最適のもとに好き嫌いは封印され、好きでも得意でもないところをずっとやらなきゃいけない。そうこうするうちに感性も摩耗して、好きなことさえもわからなくなってしまう。

安田

「千と千尋の神隠し」みたいですね。名前を取り上げられて、気が付いた時には記憶さえなくして自分が誰か分からなくなっている。

石塚

そうなってしまうことが一番のリスクなのかもしれませんね。

次回第18回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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