顧客に合わせるという自殺行為

都内でとんこつラーメンを値上げした人気店が話題になっている。業界の常識を変え「美味しいラーメン」には1,100円の価値があることを広めたい。それが店主の思い。一方でネットの評判はすこぶる悪い。そんなものは店主の自己満足だ。客の知ったことではない。もう二度と行かない。行きたいヤツは行けばいい。書き込みの9割はこういった内容である。

これは価格に限ったことではない。何曜日に休むのか。何時まで営業するのか。どのようなサービスを行うのか。その基準を客側の要望に合わせていくと店は必ず崩壊する。サービスを提供すべきスタッフがどんどん辞めていくからである。今や顧客を集めるより優秀なスタッフを採用する難易度の方が遥かに高い。顧客に合わせてサービス基準を考えることは自殺行為なのである。

たとえば日曜や祝日に店を開けること。朝早くから夜遅くまで営業すること。価格を安くして良いサービスを提供し続けること。顧客の要望に合わせるとこれが当たり前になっていく。結果、日曜や祝日、早朝や夕方に客が集中する。客の要望は強くなっていく。対応するスタッフはどんどん疲弊していく。ピーク時以外の待機時間も増える。しかし報酬は増えない。

拘束時間が長く、みんなが休む日に休めず、ピーク時は目が回るほど忙しく、その割に報酬は増えない。これで優秀なスタッフが集まるわけがない。離職率が上がり、採用コストが嵩み、未経験者が増えた現場はさらに大変になり、儲からなくなっていく。結果はもう見えている。ではどうすればいいのか。

答えは簡単である。客に合わせてサービスを考えるのではなく客がサービスに合わせればいいのである。土日や平日遅くに歯医者に行きたい。それならそういう歯医者を探せばいい。どうしてもこの歯医者に診てもらいたい。それなら相手の基準に合わせるしかない。2週間先の平日昼間しか空いておりません。だったら有休を取って行くしかない。

歯医者に行くために有休など取らせてもらえるのか。優秀な人材ならもちろん取れる。何ならペットの通院で有休を取ってもいい。なぜなら企業は優秀な人材を手放したくないから。いい仕事をして高い報酬を稼ぐ人ほど時間が自由になっていく。つまりサービスに顧客を合わせるほど顧客層は良くなっていく。顧客にサービスを合わせるから顧客層が悪くなり、忙しいだけの儲からないビジネスになるのである。

 

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