経営者のための映画講座 第8作目『エイリアン』

このコラムについて

経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週金曜日21時。週末前のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。

『エイリアン』が忍び込む隙間の話

『エイリアン』シリーズは、次々に続編が作られたが、もっとも完成度が高い作品となると、やはり第一作の『エイリアン』ではないだろうか。この作品はエイリアンの痕跡を発見する惑星以外は、ほぼ宇宙船の中だけで物語が完結する。つまり、狭く薄暗い船内で恐ろしい敵であるエイリアンが迫ってくるのだ。色彩的にもダークなローキーで撮影がなされ、シンプルな恐怖が色濃くスクリーンに定着されているのである。

さて、この映画を初めて見たのは高校生の時だったのだが、最初に驚いたのはこの宇宙船が民間の船だったということだ。それまでに私が見たSF映画に登場する宇宙船は、ほとんどが国家プロジェクトだった。しかし、『エイリアン』に登場する宇宙船は惑星の間を行き来する一企業の貨物船なのだ。地球へと帰る途中、船に搭載されたコンピュータが知的生命体からの信号を傍受することで、物語は大きく転換する。乗組員の一人が「会社との雇用契約の中に知的生命体からの信号については調査するように書いてある」と主張し、乗組員7名は地球への帰還を中断し、小さな惑星へと向かうのである。

宇宙貨物船が民間企業のものであり、彼らが余計な仕事を回避しようとし、そんな気持ちが契約書で抑え付けられる、といういかにもビジネスライクな展開が、高校生の私にとってとても新鮮だった。そして、嫌々任務に向かう乗組員たちをスクリーンで眺めながら、契約社員という言葉を思い浮かべたのだった。

そして、不満たらたらながら知的生物の調査に向かう、ある意味、真面目な社員たちはエイリアンを宇宙船内に取り込んでしまうという危険をおかしてしまう。危険なエイリアンはすぐに船外に捨ててしまうべきだという声は、再び「知的生命体は大切な資料であり、持ち帰ることは会社の意向だ」という一言で反故にされる。そう、そこにはちょっと恐ろしい企業秘密があるのだ。そして、そんな企業秘密を抱えたことで、宇宙船内はパニックへと陥り、映画はクライマックスへ向かうのである。

この「会社の意向」という一言がとても恐ろしい。社長個人の意見でもなく、特定の上司の指示でもなく、会社がそう考えている、という言い方。会社の上層部がそんな言い方で、ちょっと汚れた仕事を社員に課そうとするのだ。まあ、ちょっと汚れた仕事だからこそ企業秘密になっていたり、会社の意向になっていたりするのだろう。日本の時代劇でよく見る、「そちも悪よのお」という世界は、これからの世の中には通じない。

と、考えるとあの頃よりももっとドラスティックになった世の中では、エイリアン襲来の危機という恐怖に怯える機会は少ないのかもしれない。いや、ドラスティックな世の中だからこそ、エイリアンが忍び込む隙間が増えるという可能性もある。さて、経営者のみなさん。あなたの組織にとってのエイリアンとはなんだろう。

著者について

植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。

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