2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第162回「増殖する八甲田山の悲劇」
「役職定年と再雇用」がキーワードになるって、石塚さん言ってましたよね。
そうですね。大企業の隠れたリスクって一番はここじゃないかと見てます。
たとえば役職定年が法的に認めなくなるとか。そういうことですか?
いや、まったくそれは法的には問題ないんですよ。私が言ってる「リスク」というのは、役職定年者が会社にしがみつくこと。
ほう。
しがみつくことによって、現場の優秀な若手マネージャーをつぶしにかかってる。この現象が大企業を一番むしばんでる。
役職のなくなった人たちが、若手マネージャーの邪魔をしてると。
もうひどいです。マイナスをまき散らしてます。
たとえばどのように?
安田さんって年齢差は気にするほうですか?
年下の上司とか?
はい。たとえば昔上司だった人が自分の部下につくって、どうですか?
それはやりにくいでしょうねぇ。
やりにくいですよね。
はい。
ひょっとしたら、新入社員時代にいちばん教えてくれた人かもしれない。
そうですね。
「それはそれ、これはこれ」っていうふうに割り切れるかどうか。
私は割り切れないですね。「○○君」とか呼べないですよ。
そうでしょ(笑)
さすがに無理ですね。
「八甲田山」っていう映画があるんですけど。
観たことはないですけど知ってます。
あれは実話を映画にしてまして。高倉健と北大路欣也が主演で、三國連太郎さんが演じる役柄がこの話をするときにいつもダブるんです。
へえ〜。どんな話ですか?
三國連太郎は北大路欣也よりも階級でいうと上だけど、本作戦の指揮命令者じゃないんです。
なるほど。
しかし北大路欣也は思い切って意思決定をすることができない。
日本の組織にありそうな話ですね。
でしょ。それで「真冬の八甲田山を登頂して戻ってくる」というミッションで、200人近くの部隊が全滅したっていう話なんです。
恐ろしいですね。
意思決定のプロセスが実にいまの企業組織とダブってます。
確かに。
本当だったら組織の意思決定をするはずの北大路欣也が、三國連太郎の気持ちをうかがったり忖度したりして、意思決定が曲がったりするわけです。
自ら忖度しちゃうんですか?
いえ。三國連太郎も北大路欣也に横やりを入れてきたり。
大企業では今それと同じことが起こってると。
そうです。日本中で八甲田山の悲劇が起こってる。
役職が下の先輩たちが、後輩マネージャーの決定に口を出してくる。
おっしゃる通り。それも公然とじゃなくて間接的にね。
飲みの席で「こうしたほうがいいんじゃないの?」みたいな。
もっと露骨ですね。現場でやりづらい“圧”をかけたり。
先輩だからむげにはできないんでしょうね。
それをいいことに色々言ってくる。「安田部長、それ、僕は聞いてないよ」なんてね(笑)
ありそう(笑)
もう得意技ですよ。「安田部長、もう1回説明してもらえるかなあ。ちょっとよくわかんないだ」「こういうことです」「よくわかんないなあ。もう1回。ああ、そういうことねぇ、ふーん」みたいな。
大変ですね。
現場のマネージャーはこのやり取りで疲れちゃうわけです。
それって大企業だけの話ですか?
少数ですけど中小企業にも出現しますね。
ですよね。社長の知り合いを採用したケースとか。社長の前ではいい顔するけど、いなくなったらポジショニングする人とか。いますよ。
いますけど大企業ほど問題にはならない。
それはどうして?
大企業っていうのは「いじめ」と一緒で隠れちゃうから。
隠れちゃう?
中小企業はいざこざがあっても分かりやすいんですよ。「社長派」と「専務派」とか。
お家騒動みたいな。
そう。顕在化するわけです。ところが大企業っていうのは陰に隠れてしまう。上司にも状況がわからなかったりするわけです。
見てたら分かりそうなもんですけどね。自分も経験してるだろうし。
なんとなくは感じてはいるかもしれないけど、「そんなところ、おまえ、うまくやれよ」って話で終わってしまう。
なるほど。忖度も仕事のうちだと。
そうなってしまいます。
ハッキリ言うしかないですね。「先輩の言葉とはいえ、それは無理です」って。
そんなこと言えるのはかなり少数派ですね。
そういう人は出世しないんですか?
う〜ん。ヘタに刺激すると足を引っ張られちゃうから。
もっと卑劣なこともしてくるわけですか?邪魔したりとか。
邪魔したり、サボタージュしたり。いちばん困るのは情報戦でかく乱すること。
情報戦?
「安田さん、みんなこう言ってるよ」なんて(笑)
噂話を捏造するパターンですね。
そう。「“みんな”って誰なんだ?連れてこいよ」って言えればいいんですけど。
言えませんか。
「えっ!?……あっ、そっ、そうですかぁ……」みたいになっちゃう。
そうやって八甲田山の現場が増えていく。
たぶん日本中で繰り広げられてると思います。
でも遭難したら自分も死ぬわけじゃないですか。自分だって困るでしょ?
いや、困らないです。「あと数年勤めればいいや」って感じなので。
だったら大人しくしておけばいいのに。
それだと刺激がないから「俺もいるんだぞ」って、ときどき存在を証明したい。
面倒くさいなあ〜。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。