経営者のための映画講座 第37作『明日に向かって撃て!』

このコラムについて

経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週木曜日21時。夜のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。

『明日に向かって撃て!』は優しく過去を振り返る。

ジョージ・ロイ・ヒル監督が世の中に送り出した作品群は、どれも哀愁に包まれている。美しさにこだわる詐欺師や乱暴だが優しい指導者やまるでおとぎ話のような恋……。過ぎ去っていこうとする者の肩に、そっと後ろから手を置くような、そんな作品が多い。決して力任せに立ち止まらせるようなことはしない。「本当にいいのか?」と小さく呟きながら語りかけるような息遣いがある。

『明日に向かって撃て!』はアメリカン・ニュー・シネマの代表作の一つに数えられているが、『イージー・ライダー』や『俺たちに明日はない』に比べるとおとぎ話的なユーモアや温かみがある。確かに絶望と哀しみに彩られてはいるのだけれど、なにか人を信じきった強さのようなものが感じられる。

荒野の伝説的なおたずね者が保安官たちを手玉に取りながらも追い詰められていくなかで、彼らは笑顔を絶やさない。ブッチとサンダンスにロバート・レッドフォードとポール・ニューマンをキャスティングした妙があるとは言え、これだけ明るいアメリカン・ニュー・シネマも類を見ない。

自転車で二人乗りをするキャサリン・ロスとポール・ニューマンのひと時は、今も映画ファンの中にあるし、ラスト近くレッドフォードとニューマンが先の見えない時間を過ごしながら互いに微笑み合う場面の美しさはラストのストップモーションにも勝る。

古き良き時代には、それが許された理由がある。だからこそ、新しい時代にそれらは滅びていく。滅びてはいくが、そこには懐かしいだけではない何かがある。そんな時、新しい時代を牽引する人にこそ、ジョージ・ロイ・ヒル監督のような思慮を望みたい。「本当にいいのか?」と、力任せにではなく、そっと肩に手を置くような優しさを思慮を。

著者について

植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。

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