第95回 高級品になった「庭石」のゆくえ

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第95回 高級品になった「庭石」のゆくえ

安田

以前仰っていた「石の価格が上がっている」という話が気になっているんですけど、実際そんなに高騰してるんですか?


中島

ええ。その話をした頃よりさらに高くなってきていますね。

安田

なんでそんなに高くなってるんでしょう? そもそも地面の下は全部石なんだし、掘ればいくらでも出てくるんじゃないかとも思うんですけど(笑)。掘削技術も進歩してるし、無人で掘れる時代ですよね。


中島

それは仰るとおりなんですが、今は海外からの輸送コストがとても高くて、それが価格に大きく影響しているんです。

安田

ああ、なるほど。ということは、今使われてる石の多くは輸入品なんですね。


中島

そうです。大谷石みたいな国産の石もありますけど、こちらはそもそもの希少性もあってかなり高額なんです。だから基本的には皆さん輸入品を検討するんですが、そちらはそちらで上がってしまったと。

安田

なるほどなぁ。私のような素人からすると、「石なんてそこら中にあるのに」と思ってしまいますけど、そんなに簡単な話ではないんですね。


中島

そうなんです。一方で今は庭石のニーズ自体が大きく減ってきていて、採掘してもビジネスとして成り立ちにくくなっていて。

安田

ふ〜む。ということは、専業で石材屋さんをやってる人も減ってきているってことですか。


中島

そうですね。土木業を本業にしつつ、暇なときに石を出す、みたいな副業的な働き方が多くなってきています。

安田

なるほどなぁ。確かに庭いっぱいに大きな石を置くってスタイルはあまり見なくなりましたもんね。でも中島さんが作るような、自然石を使ったお庭の一角なんて本当に魅力的だと思いますよ。


中島

ありがとうございます。でもやっぱり人件費や輸送費の高騰は大きくて、毎年1割くらい価格が上がっていく印象ですね。お庭のコストに直接影響があるので、悩ましい部分です。

安田

あらゆるものが値上がりしてますし、売上や給料も同じペースで上がっていかないと厳しいですよね。このまま住宅のコストが上がっていったら、石が高いとか以前に、庭そのものにお金をかけられない人が増えるかもしれない。


中島

その傾向は既に始まっている気がしますね。最低限コンクリートを打って終わり、というケースも多いですし。塀を作るにしても、ブロックを並べるだけというパターンも多いです。

安田

コンクリだけの外構という感じですね。それで十分という人が多いのかもしれないけど、やっぱり少し寂しさはありますよね。


中島

そうですね。庭づくりの予算が限られる中で、素材選びも難しくなっています。しかも国産の石はそもそも種類が少なく、先ほども言いましたが希少性が高く非常に高価なんですよ。だから輸入品に頼る傾向が強まっていたんですが、その輸入品も今は高騰してしまっているという状況で。

安田

なるほど。そうなると以前お聞きしたリフォーム時に出た石を再利用するというのが、有効なのかもしれませんね。かなり安く庭が作れると仰っていましたし。

中島

確かにそうなんですが、色がバラバラだと統一感が出しづらくなってしまったりもするので、再利用は意外と難しいんですよね。

安田

は〜、そうなんですね。とはいえ、庭石の処分ってけっこう費用がかかるって仰ってたじゃないですか。今、洋服ですらリユースする時代ですし、うまく再利用できたらいいのに。


中島

仰る通り、それができたら最高なんですけどね。ただ石って、当たり前だけど重いんですよ。1メートルほどの石でも500~800キロある。再利用するにしても、運搬だけでかなりコストがかかってしまうんです。

安田

そんなに重いんですね! 単純にコストがすごくかかるから、事業としては厳しいと。でもじゃあ、再利用できない石はどうするんですか?

中島

残念ながら、「いらないもの」になってしまっているのが現状です。結果、お金を払って処分してもらう他ない。

安田

なるほど、もったいないなぁ。まとまった量が集まれば色ごとに分けることもできそうですが、それも現実的には難しそうですもんね。ちなみに処分というのはどうするんですか? 最終的には粉砕されて砂利になるんですか?

中島

そうですね。もしくはコンクリートに混ぜて廃棄されることもあります。

安田

ふ〜む、なるほど。食品の廃棄と同じで、ちょっと悲しい気持ちになりますね。このまま石の文化が失われていってしまうかもしれない。

中島

ええ。石材屋さんに行っても、次の担い手がいないという話ばかりです。採掘には重機と燃料が必要で、それだけでも何百万とかかるので、なかなか始めるハードルも高くて。売れない、使う人がいない、となると続けていくのは難しいですね。

安田

う〜ん、どうにかできないものですかね。アルミとセメントの家ばかりになってしまう未来って、すごく寂しい気がします。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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