第325回 引き際の美学

 このコラムについて 

「担当者は売り上げや組織の変革より、社内での自分の評価を最も気にしている」「夜の世界では、配慮と遠慮の絶妙なバランスが必要」「本音でぶつかる義理と人情の営業スタイルだけでは絶対に通用しない」
設立5年にして大手企業向け研修を多数手がけるたかまり株式会社。中小企業出身者をはじめフリーランスのネットワークで構成される同社は、いかにして大手のフトコロに飛び込み、ココロをつかんでいったのか。代表の高松秀樹が、大手企業とつきあう作法を具体的なエピソードを通して伝授します。

本日のお作法/引き際の美学

 

大手企業の「新規事業」は、“始め方”よりも“終わり方”に、その会社の作法が色濃く出るものだと感じます。

先日のアジア出張で搭乗した「AirJapan」のバンコク便。到着前、乗務員の方が涙まじりに語った“感謝のアナウンス”は、単なるサービスを超えた“現場の矜持”のようなものが伝わりました。

あの瞬間、これは単なる“事業の終了”ではなく、一つの“挑戦の節目”なんだなと。

AirJapanは、「フルサービスとLCCの中間」という“難しいポジション”に挑んだ事業でした。結果として“約100万人の利用”を集めた事実は、仮説そのものは間違っていなかったことを示しています。それでも、大手では時に「正しいこと」でも“やめる決断”を下します。今回もまた、外部環境と資源制約を踏まえた、極めて合理的な再配分の判断だったのでしょう。

ここで興味深いのは、「撤退の仕方」です。現場は最後まで顧客に向き合い、経営は得られた知見を次に活かすことを明言する。この一連の流れには、大企業特有の“きれいに畳む力”が表れています。

社内でもよくある話です。「ここまでやったのだから続けたい」という現場と、「全体最適で見直す」という経営。その間にあるのは、“感情と合理のせめぎ合い”です。

AirJapanのケースは教えてくれます。“新規事業の価値”は、成功か失敗かではなく、「何を残し、どう次につなげたか」で決まるのだと。

アスリートの世界にも、「まだやれるのに、、」と思わせる引退があります。引退シーズンに30本を超えるホームランを放った王さん。W杯決勝で劇的なラストを迎えたジダンさん。ピッチに寝転び、空を見上げ続けた中田ヒデさん。メジャーで活躍しながら古巣に戻り、日本一で幕を引いた黒田さん。

いずれも共通しているのは、「限界」ではなく「納得」で区切っていること。だからこそ、周囲には“まだできたのに”という余韻が残ります。

「やめる」という意思決定にも、その“会社らしさ”がにじみ出るものなのですね。

 

 

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高松 秀樹(たかまつ ひでき)

たかまり株式会社 代表取締役
株式会社BFI 取締役委託副社長

1973年生まれ。川崎育ち。
1997年より、小さな会社にて中小・ベンチャー企業様の採用・育成支援事業に従事。
2002年よりスポーツバー、スイーツショップを営むも5年で終える。。
2007年以降、大手の作法を嗜み、業界・規模を問わず人材育成、組織開発、教育研修事業に携わり、多くの企業や団体、研修講師のサポートに勤しむ。

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