「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第16回 「大国のノスタルジー」
前回第15回は「緩やかな洗脳、快適な植民地」
トランプさんが大統領になって、いま「アメリカファースト」って盛んに言わてますよね?
はい。トランプさんは完全にそういう方針ですね。
イギリスの時代が終わって、アメリカに覇権が移って、世界のリーダーみたいな役割を担ってきましたけど。
今は相対的に力も弱くなり、「アメリカはもう自分のことだけ考える」みたいになってます。
今後はどうなると思いますか?やっぱ世界の警察では、なくなっていくんですか?
アメリカ国民がトランプを選んでるわけですから、「他の国のことなんて構ってられないよ」っていうのがたぶん国民の総意なんでしょうね。
じゃあ「他国のことはもう知らん」と。
アメリカ人って元々、他の国に興味がない国民ですから。
え!そうなんですか?
そうですよ。他国のことをほとんど知らないというか。アメリカがすべてだと思っているので。
たしかに。野球もアメリカでの頂上決戦を「ワールドシリーズ」と言ってますもんね。
自分の国に、世界中の民族とそのエリートたちが集まって来ますから。
ということは、アメリカ人にとっての「世界」っていうのは、アメリカ?
そう思います。
でも民主主義とか、資本主義とかを、世界に広げようとしてるんじゃないんですか?
もう、だいぶ広がったんで、いいんじゃないですか。
共産主義の大国は、まだ残ってますけど。
今はもう、共産主義と戦ってるわけじゃないんですよ。そういう意味ではもう、敵がいない。
中国とかロシアって、もうアメリカの敵じゃないんですか?
もう違うでしょうね。
でも経済戦争とか言われてますけど。
経済的には戦ってますね。だからそれに勝たなくちゃいけない。
じゃあ、敵国というより、商売敵って感じですか?
少なくともトランプさんは、そういう感覚でしょうね。
じゃあ中国はもう、共産国ではない?
あれは「一党独裁社会主義自由経済国家」みたいな感じじゃないですか。
じゃあ、共産党が支配している「資本主義国」ってことですか?
資本主義と言えるかどうかは、分かりませんけど。
じゃあ何ですか?
でも市場があって、株もあるので、やっぱ資本主義になるんでしょうね。
ロシアはどうですか?民主主義ですか?一応、選挙で大統領を決めてますけど。
市場は解放されてますけど、民主主義とは言えないですね。
どうしてですか?
反体制行為が許されないからです。
共産党はもうないんですよね?
まだ党はあります。政権与党ではありませんが。
今はどこが与党なんですか?
統一ロシアという政党ですが、実質はプーチンの政党みたいなものでしょうね。
でも、それ以外の党もあるわけですよね?
ありますけど、だいたい弾圧されますね。反体制派のいちばん求心的な人はクレムリンの前で殺されました。
何と!じゃあ、中国が「一党独裁」だとしたら、ロシアは「1人独裁」って感じですか?
プーチンを中心に国をつくってる感じですね。
圧倒的な1人独裁なんですか?
今のところ、そうですね。
今後どうなんですかね。中国・ロシア・アメリカで、第三次世界大戦のようなことは起こるんですか?
大国同士が戦争したらぜんぶ滅びますよ。
本気でやったら終わりますよね?
基本的に戦争って、みんな本気でやるので。
じゃあ、戦争はしない?
代理戦争はしますね。「アフガニスタンで代理的に戦争しましょう」みたいな。
迷惑な話ですね。
武器を使わないといけませんので。
使わないといけない?
武器を消費しないと、経済が回らないので。アメリカは武器商人じゃないですか。
ということは、すべての紛争がなくなることを、アメリカは望んでないってことですか?
国民は望んでると思いますよ。でも武器商人は望んでないですよね。だから、そういう緊張感はずっと持っていてほしいわけですよ。
緊張感を持っていてほしい?
「どこかで戦争が起きるんじゃないか」「いつか誰かが攻めて来るんじゃないか」って思うから、みんなどんどん武器を買うわけじゃないですか。
じゃあ、わざと緊張感をつくり出してるんですか?
なくしたくはないでしょうね。緊張感があったほうが、武器が売れますから。
確かに、それがなくなったら、日本も買いませんもんね。
そうです。買わないですよ。
米軍に駐留してもらう必要も、なくなりますよね。
そうです。莫大な資金ですから。
アメリカの武器商人って、そんなに力があるんですか?
ライフル協会とかもそうじゃないですか。軍事産業もめちゃくちゃ儲かってますから、すごい影響力を持ってるんですよ。
なるほど。
それに軍需産業がなくなると、アメリカの経済も冷えるわけですよ。だから、常に「新しい戦車できましたよ。戦闘機もできましたよ。買いませんか」って。
それは基本的に、友好国にしか売らないんですか?
基本そうですね。
でも、友好国とか言っても、本当は信じてないかもしれませんね。
100%信じるってことは、あり得ないでしょうね。
じゃあ、型落ちの武器とか買わされてるかもしれませんね。ワシントンでボタン押したら一斉に武器が使えなくなるとか。
そういうソフトを、入れてるかもしれないですね(笑)
アメリカから買った武器でアメリカと戦争しても、絶対に勝てないでしょうね。
まあアメリカと戦争することは、あり得ないでしょうけど。
どうして言い切れるんですか?
もう既に、占領状態みたいなもんじゃないですか。
確かに。普通に住民が暮らしてるところに、原爆落とされてますからね。
安倍さんもトランプさんから、だいぶ買わされましたからね。
トランプさんは、今後アメリカをどうしたいんですかね?
アメリカが本来持っていた強さを取り戻したいんでしょう。
そういう意味でいくと、ロシアのプーチンさんも同じですね。
ロシアもそうですね。ソ連時代の「アメリカと世界を二分していた」頃の強さを取り戻したい。
習近平さんもそうですよね。一帯一路構想とか。中華の世界覇権みたいなのを狙ってる気がします。
狙ってるでしょうね。
大国っていうのは、みんな「昔の強かった時代」に憧れてるんですか?
「あの頃の自分たち」の威厳とか、プライドとか、誇りとか。ノスタルジーですね。
それが大国の野望ですか?
そうだと思いますね。
じゃあ、それ以外の国って、どうなるんですか?日本を含め。
みんな属国みたいな感じになるでしょうね。
いずれかの大国の属国になるってことですか?
「三国志」の時代と一緒ですよ。「ここに所属してます」みたいな。
じゃあ、日本はやっぱアメリカ側ですよね。
そりゃそうでしょうね。いまのところ選択権がないですから。
でも位置的には、かなり不利ですね。
大国同士がぶつかる最前線にいますからね。
ロシアとは千島で繋がってますし。
そうですね。
中国もすぐ目の前ですし。
距離的にはいちばんやばいところですよ。
じゃあ日本で、代理戦争が起こる可能性もあるんですか?
あるとしたら、武器じゃなくてコンピュータレベルの、代理戦争ですね。
コンピュータ?
サイバー戦争。そのほうが簡単だし、人も死なない。
それはどういう戦争なんですか?
コンピュータ制御を狂わせて、金融も株式市場もぜんぶ止めて、経済を麻痺させる。
でも、そんなことになったら、輸送もできないし、薬も運べないし、結果的には人が死にますよね。
相手国の人は死にます。でも自国の人間は死なない。
ゲームじゃないんですから。
いや、彼らにとっては、ゲームなんですよ。
…次回へ続く…