変と不変の取説 第34回「教育は訳し方を間違えた」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第34回「教育は訳し方を間違えた」

前回、第33回は「飛躍するマイノリティー」

安田

「日本人の取説」を見て、手伝いたいって人が来たそうですね。

取説の内容を中心にした「働き方改革のセミナーをしてほしい」という依頼です。

安田

なかなかマニアな。

企画してくれてる人は「取説」の超愛読者なんです。

安田

へぇ。どんな人なんですか?

家具の会社の女性と、元自衛官だった女性と。

安田

へえ。女性のほうが響くんですかね。

どうなんですかね。

安田

私のコラムの読者はすごく男性が多くて、泉さんも男性寄りかなと思ってたんですけど。発信する内容的に。

その辺はあまり考えずに発信してます。男性向け、女性向け、まったくなく。

安田

我々みたいな面倒くさい話は、男性的な思考なのかなって。

ああ、なるほど。

安田

もうちょっと調和型な感じですよね、女性の話って。でも、やっぱ疑問を感じてるんですかね。いまの世の中とかに。

それはあるんじゃないですか。女性のほうが直感的な感度が高いので、何か察してるんですよ。

安田

なるほど。どういうところが、いちばん響くんですかね。

どこなんですかねぇ。

安田

日本のルーツみたいなとこでしょうか。あるいは「誰かが変えていかないといけないよね」っていう思い。

そっちのほうが強いのかもしれないな。変えるものを外からもってくるんじゃなくて「元々あるものを掘り起こす」っていうのが女性的なんじゃないですか。

安田

なるほど。

男の場合は「外から取ってこい」みたいな感じで奪いにいくじゃないですか。女性の場合は「あるやん、もう家に」みたいな。

安田

「今あるものを生かしながら」みたいな?

はい。

安田

たしかに“断捨離”的な本も、あんまり男は書かないですもんね。

そう。

安田

じゃあセミナーは「人の意識変えていこう」みたいなテーマですか?

そうです。それが教育プログラムかどうかは、よく分からないですけど。何かの活動になっていくんでしょうね、たぶん。

安田

私の中では、泉さんイコール「教育のあり方を根本から変えようとしてる人」っていうイメージなんですけど。でも「教育」っていう言葉自体がいまいち好きじゃないような。

そうなんですよ。「教育」「研修」「講座」「講習」「講義」って言葉は、あんまりワクワクしないんです。

安田

なるほど。だから「場活」って言ってるわけですか?

はい。

安田

でも既存の言葉を使わずに説明するって難しいですよね。

そうですね。新しい概念を伝えるのは難しいですよね。

安田

場活が教育と同じレイヤーにあるっていうことが、なかなか分からない。

分からないですね。

安田

やっぱ、多くの人にとっての教育って、机と椅子があって、先生がいて、先生のほうを見て教えてもらうイメージ。

でも、それって結構近代になってからのイメージなんですよ。

安田

教育という言葉も明治以降にできたんでしょうか。「教えて育てる」って、ちょっと上からですよね。

もともと“Education”という言葉の語源は、ラテン語で「引き出す」という意味があるんです。だから間違えてるんです、訳し方。教えるんじゃなく引き出す。

安田

なるほど。引き出して育てると。

そう。

安田

「教」のほうが違うんですね、じゃあ。

言葉を変えないといけない。「教育業界」ってなった瞬間、なんか入りたくないんですよね、その世界。

安田

ということは、泉さんがやろうとしてるのは教育改革ではなく、まったく違う何か?

そうです。「場活市場」をつくってます。

安田

場活っていうのは、その人が本来もってるものを引き出す場づくりですか?

そうです。お互いが引き出しやすい、引き出し合える場づくり。

安田

どうやったら、そういう場になるんですか?

組織とかそのメンバーとかを“変な人”に変えていくって感じです。変えるというか、目覚めてもらうというか。

安田

やっぱり若ければ若いほど、目覚めやすいですか?

基本的にはそうなんですけど、経験があんまりない人は目覚めにくかったりするときもあるんですよ。

安田

経験ですか。

痛い経験をしてるとか、「これじゃあかんな」ってわかってるとか。そういう経験をしてる人は目覚めやすいですよ。

安田

なるほど。人って何歳ぐらいで違和感を感じなくなるんですかね。

何歳ぐらいで「その世界の常識に埋没しちゃうか」ってことですか?

安田

はい。

日本で一番強烈なのは、やっぱり就職活動じゃないですか。

安田

就職活動ですか。

はい。社会に出るときにレールに乗っちゃって、完全に横並びでやってますから。

安田

あれが気持ち悪いっていう人も、たまにいますよね。

いますね。だいたい1割ぐらい。

安田

そんなにいますか?

多くの人は気持ち悪くてもそのままやっちゃうんですよ。

安田

なるほど。

でないと組織に入っていけませんから。

安田

私は人と一緒にやることはべつに否定しないんですけど。組織の中に入るっていうことにどうも違和感があって。

私もありますよ。

安田

組織の目的っていうのが、だいたい利益じゃないですか。

ですね。

安田

会社の利益を最大化するってことにまったく興味がないです。なぜみんなそこに疑問を抱かないのか、とっても不思議ですけど。

生活のためじゃないですか。

安田

たとえば小学生には生活は関係ないですよね。

ないでしょ。

安田

でもランドセル背負って入学式に行った瞬間に、やっぱ、ちょっと型にはまってるんじゃないですか。

その頃は「楽しい」とか、「みんなに会える」とか、「親が喜んでるし」みたいなワクワク感じゃないですか。

安田

ワクワク感ですか。

で、だんだん、知らず知らずのうちにはめられていく。キンコンカンコン鳴ったら座って、起立やって、みたいな感じで、だんだん集団生活の中で思考停止にしていくっていう。

安田

ということは、集団生活になじめない人のほうが、ある意味まともってことになるんじゃないですか。

まともの基準は変わりつつあります。近い将来、異端の人たちがスタンダードになる。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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