第36回「アラブにもおしゃれなカフェはあるのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「アラブにもおしゃれなカフェはあるのですか?」

   回答   

はい、あります。
カフェは、アラブで私が意外だなと感じたものの一つです。
とはいえ、アラブはお茶を飲みながらおしゃべりを楽しむ文化が根付いている地域ですから、カフェがあること自体は意外でもなんでもありません。
私が意外に感じたのはその「おしゃれさ」です。
「今風である」と言い換えてもいいかもしれません。
サウジアラビアで入ったカフェは、意外なほど今風で、おしゃれだったのです。
「意外」という言葉は少し失礼に感じられるかもしれませんが、そう感じたのは「事前情報」と「実状」が異なっていたからです。

どのように意外だったのか、私が感じたポイントを挙げてみます。

【開放的な店内。軽快なBGM】

サウジアラビアは、「閉鎖的」と形容されることの多い国ですが、私の行ったカフェは、「今私がいるのは本当にサウジアラビアなのだろうか?」と思えるほど開放的な空間でした。
カフェの天井は高く、壁一面がガラス張り。
本棚にはビジネスやアートの本が並んでおり、広く風通しのよい空間で、ゆっくりと読書ができます。
カウンターの奥には大型の焙煎機があり、煎りたてのコーヒー豆特有の香ばしさが漂ってきます。


(↑壁の3面がガラス張りで開放感あふれる店内の様子。絨毯とアメリカン・コミックを合わせたアート作品などもある)

また、店内には軽快なBGMがかかっていました。
イスラム教の厳格な考え方では、音楽は好ましいものではないと私は聞いていました。ですから、戒律の運用がもっとも厳格であるサウジアラビアに、BGMの流れるカフェがあるということ自体、私にとっては意外でした。

【街のアーティストが作品を展示しに来る】

イスラム教では偶像崇拝が禁じられています。
そのため、サウジでは化粧品や洋服の広告に写っているモデルの顔が塗り潰されたり、切り取られたりするケースもあります。
したがって、人物を描いた絵画などの展示には注意が必要なのですが、私が訪れたもう一つのカフェには人物画を含めた様々なアート作品が飾られていました。


スタッフ曰く、「街のアーティストが自分の作品を持ってくる」とのこと。このカフェはクリエイター達のコミュニティにもなっているようです。

(↑ボブ・マーリーの絵。レゲエのBGMも流れていた)

【男女の空間が分けられていない】

サウジアラビアのレストランや施設では伝統的に、男性グループ向けの「シングル専用」スペースとそれ以外の「ファミリー専用」スペースという具合に、空間が隔離されてきました。
未婚の男女が接触することのないようにという配慮からです。

しかし、私はカフェでサウジアラビア人女性と対面で一対一のミーティングをしました。
店内の空間が男女別に分かれていないのです。
家族でない男女がパブリックな空間で話すのは問題があるのでは?
そう思って「本当に私とミーティングして大丈夫なのか」と事前確認したところ、「問題ないので心配しないでください」とのこと。
初回はミーティングが終わるまで不安を抱えたままでしたが、何事もなく無事に終わりました。
我々の隣のソファ席でも一組の男女が楽しそうに談笑していました。もちろん二人が夫婦である可能性もありますが、カップルのような雰囲気を感じたので「聞いていたのと随分違うな」と思ったことを憶えています。


以上、私が感じた「意外」なポイントでした。
「なんだ、普通じゃん」という感想を持たれた方もいると思います。
その通りです。
日本の常識に照らせば普通なのです。
しかし、イスラム教やサウジアラビアについてある程度の予備知識を持っていると、これが「意外」に映ります。
未知の国に行く場合、事前情報を仕入れるのは自分の身を守るためにも大切なことですが、それは有益な知識になると同時に、固定観念や偏見のタネとなることもあるでしょう。

日本で見聞きするアラブに関するニュースは大半が政治的なもので、内容も厳格さのイメージを増幅させるようなものが多いため、メディアでイスラム教やアラブに関連した情報に多く触れている人ほど、現地に行った際に大きなギャップを感じるかもしれません。

もし「アラブ圏に行ってみたいけれど最低限持っておくべき情報は何なのかが知りたい」という方がいらっしゃれば、私の体験をもとにお話しできることはお伝えしますので、ぜひお問い合わせください。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

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