第58回「サウジのエンタメで、いま流行っているものについて教えてください。」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「サウジのエンタメで、いま流行っているものについて教えてください。」

   回答   

流行っているというか、今まさに開催中なのはシルク・ドゥ・ソレイユです。
最新のプログラムである『FUZION』が、サウジアラビアのジェッダで公演中です。

【シルク・ドゥ・ソレイユと契約を交わす】
シルク・ドゥ・ソレイユが公演を行うのは今回が初めてではなく、2018年からサウジアラビアで既に6回上演されています。
2021年、サッカーの世界的スターであるメッシ選手にスポットを当てた『Messi 10』という演目が首都リヤドで上演された際には、人々が殺到したそうです。
サウジアラビアは他の湾岸諸国と同じく、サッカー人気が非常に高い国なので、見事にハマったのだと思います。


(↑『Messi 10』リヤド公演の広告。Al Arabiyaより)

そういった実績を踏まえてか、サウジ文化省は今年1月、シルク・ドゥ・ソレイユ・エンターテインメント・グループと契約を交わしました。
今後シルク・ドゥ・ソレイユの新作に加え、同グループが持つ『The Illusionist』『Blue Man Group World Tour』といった世界的に名高いショーの開催も行っていくという内容です。
アラビアンビジネスの記事によれば、新作の初回上演がサウジアラビアになる可能性を含む契約だそうで、その場合は熱狂的なファンが初上演を見届けに世界中からサウジに集まる、ということになるかもしれません。

【海外からモノを持ってくるだけではない】
契約にはサウジアラビアにおけるシルク・ドゥ・ソレイユのオフィス設立や、パフォーマー養成学校の開校といった内容も盛り込まれています。
国内外から専門家や学生を募り、海外のパフォーマーとの交流によって技術を磨き、国際的に通用するパフォーマーを育成することを計画しています。

2018年に、この分野を統括する組織としてトップに位置するサウジ文化省が設立され、2020年にパフォーミングアーツ分野の専門委員会が立ち上げられています。
この委員会は、パフォーミングアーツ事業の基盤づくり、専門教育の提供や関連分野の雇用創出によってパフォーミングアーツ部門を発展させることを目的としており、上記契約に沿って「2030年までに養成学校卒業生を4,500人出す」ことを数値目標として掲げています。

【コンセプトは持続性】
このように、「海外からいいものを持ってきて終わり」ではなく、自国にその分野の産業基盤を根付かせたいという国の意図が見えます。
「持続性」がコンセプトと言ってもいいでしょう。
もともとこのような分野の活動が少なかった国ですので、事業が継続すれば相当の伸び代があると思われます。

ちなみに、このシルク・ドゥ・ソレイユの公演は5月2日から6月28日まで行われる予定ですが、実は『ジェッダ・シーズン』というイベントの一部でしかありません。
では、ジェッダ・シーズンとは何なのか?
これについては次回ご紹介しますので、どうぞご期待ください。
シュクラン、マッサラーマ。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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