第11回 お爺ちゃんになっても、代表権は譲らない?

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第9回 お爺ちゃんになっても、代表権は譲らない?

安田

前回の話の続きになりますけど、やっぱりオーナー社長は、自分の想いで始めた会社なんだからワクワクできるじゃないですか。でもそれと同じレベルで社員がワクワクできるのかと言われると、非常に疑問があるわけですよ。


西崎

ええ。仰りたいことはわかります。

安田

たとえば上場すると、株を多く持ってる社長や役員は、いきなり億万長者になったりするわけですよ。何百億円みたいな天文学的なお金が入ってくる。それはさぞ嬉しいと思うんですが、社員にそれほどの利益はないわけで、ちょっとしらけちゃうんじゃないかと。


西崎

そうかもしれませんね。そういう意味でも僕は上場に興味がなくて。

安田

以前も仰ってましたもんね。とはいえね、じゃあベンチャー企業が上場以外のどこでワクワク感を出すのか、っていう。というのもね、西崎さんも今はまだ若いですけど、20年も経ったらもうけっこうなお爺ちゃんなわけです(笑)。


西崎

笑。20年後だと60代ですね。お爺ちゃんといえばお爺ちゃんですけど(笑)。

安田

西崎さんだけじゃない。もし今のメンバーのままで事業を続けていたら、周りの役員や社員の平均年齢も上がっていく。そうするとね、やがて世の中の若者と価値観がズレてくるわけです。


西崎

確かに、20代が求めるワクワクと、60代が求めるワクワクは全然違いそうですもんね。

安田

そう、それはもう絶対に違う。だから冒頭の話ですが、どうやってワクワクを維持するのか、ということなんです。長く続ければ続けるほど、ワクワクの共有が難しくなっていくんじゃないかと。


西崎

なるほど。未来の話なのでまだわかりませんが、きっと僕は会社を分けていくんじゃないですかね。そもそも僕自身、トゥモローゲートの代表は長くやっても10年間だろうなと思っていて。

安田

へえ! 10年!


西崎

ええ。というのも、安田さんが仰るように10年後にはもう感覚が古くなっていると思うんです。仮に同じビジョンを語るにしても、5060代の僕が言うより、若いトップが言ったほうが多分伝わると思うし。

安田

間違いなくそうでしょうね。お爺ちゃんとしては認めたくはないですが(笑)。


西崎

笑。だから僕、実は決めていることが1つあって。いまウチには4人の役員がいるんですけど、全員同じタイミングで辞めようって。

安田

へえ~、そうなんですか! つまり西崎さんが退任する時、その4人の役員の誰かを次期社長にすることはないと。


西崎

少なくとも今の僕の感覚ではしませんね。1520歳くらい下の誰かにバトンタッチすると思います。

安田

なるほど。お爺ちゃんたちはいさぎよく前線から退くと(笑)。


西崎

ああ、いえ、むしろ出ていくお爺ちゃんたちで集まって別の会社を作ってやろうと(笑)。お爺ちゃんだからこそできるビジネスもきっとあると思うので。

安田

いいですね(笑)。それはそれでおもしろそうです。そう言えば、サイバーエージェントの藤田晋さんも同じように仰ってましたよね。ずっと一緒にやっている経営陣がいるけど、そこに経営権を譲ることはしないって。


西崎

もっと下の世代に任せていくと。

安田

そうそう。もしかしたらそうアピールすることで、独立志向の社員さんに「次の経営者は君かもしれない」と思わせているのかもしれませんね。西崎さんもそのあたりを狙っていたりするんですか?


西崎

うーん、まあゼロではないかもしれませんが、やっぱりそれ以前に自分たちの能力の問題ですよね。やっぱりずっと若くはいられないので。

安田

そうなんです。私は西崎さんより20歳くらい上ですが、やっぱりだいぶ価値観変わりましたから。


西崎

ああ、やっぱりそうですか。

安田

そういうものですよ、人生というのは(笑)。とはいえ、10年で退くという話は意外でした。西崎さんはもっとイケイケドンドンで、「7080歳までやるぞ!」みたいな方かと思っていたので(笑)。


西崎

笑。まぁ、経営自体はずっと続けていくと思うんです。早期リタイアとか全然考えていないタイプですし。

安田

でもトゥモローゲートの社長をずっと続けるわけではない、と。その割り切りがやっぱり今っぽいですよね。


西崎

あ、そうですかね。

安田

ええ。我々世代だとそれこそ「ワシは死ぬまでこの会社の社長でいるんじゃ!」みたいな人のが多いです(笑)。そういうのを聞くたびに「ああ、社員さん可哀想だなぁ」なんて思うんですけど(笑)。


西崎

笑。まぁでも、それで言ったら僕も既に「ソフト老害」なんだと思ってます。だからこそ、二、三個下くらいの役員に代表を変えたとしても、会社にとってプラスにはならんだろうなと。

安田

なるほど。でも、ちょっと寂しくないですか。トゥモローゲートを役員さんと退任して、それでお爺ちゃん会社を別に作ったとしてもですよ? それまでのような刺激やダイナミックさってやっぱりなくなっちゃうわけで。


西崎

やっぱりそうなんですかね。

安田

だって、ソフトバンクの孫さんやユニクロの柳井さんも、一度譲ったあとでまた戻ってきてるじゃないですか。もちろんそれは経営的な判断だとも思いますけど、「やっぱり刺激がほしい!」っていう感情的な理由もあると思うんですよね。


西崎

それはあるかもしれませんね。

安田

普通のお爺ちゃんならね、60歳で引退して俳句とか読んでれば充分なのかもしれないけど(笑)。それまで何百人何千人っていう社員を動かしてきた、言わば世の中を動かしてきた人にとっては、なかなか耐えられないんじゃないかなぁ。


西崎

うーん、僕も60歳になったら同じように感じるんですかね。

安田

そうですよ。西崎さんもまたトゥモローゲートの代表に戻るかもしれない。


西崎

笑。僕より優秀な子に譲れば、全然問題ないのかなとは思ってますけど。

安田

まぁ人ありきの話なので、なかなか難しいですよね。でも例えば、確かに優秀には違いないけど、西崎さんとはビジョンが全然違う、みたいな人だったらどうですか? 社員たちはその新ビジョンに納得しているとして。


西崎

うーん、いや、それはハッピーじゃないですね。やっぱり会社の方針やポリシーは引き継いでもらいたいかな。

安田

でも、価値観と同じく、ビジョンも古くなるかもしれませんよ。


西崎

そうかもしれません。納得感があれば全然いいんですけどね。

安田

なるほど。まぁ、「20代で20年先の目標を立てるべきだ」という人もいれば、「自分も徐々に成長していくんだから、あまり先の目標まで立てちゃいけない」って人もいますし。


西崎

確かに、社長が変わったのに会社は何も変わらない、というのもよくないのかもしれない。

安田

難しいところですよね。逆に5年後くらいに、西崎さん自身が今のビジョンを変えてしまうかもしれないし。


西崎

いや~、それはないと思いますね。

安田

ほう、そこはやっぱり確固とした自信があると。


西崎

私自身よりも、ビジョンの方が大事だと思っているので。

安田

なるほどなぁ。西崎さんのビジョンというより、トゥモローゲートのビジョンに西崎さんが従っているという。


西崎

そうそう、そういう感覚です。そのために仲間を集めているって感じですね。


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数18万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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