第3回「日本国は、日本株式会社になる」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第3回「日本国は、日本株式会社になる」

安田

2割から3割ぐらいは「潰れてもいいんじゃないか」というようなことでしたよね。

久野

はい。

安田

でも新聞やニュースでは、そういう取り上げられ方はしません。

久野

まあ、政治家だって、そういう言い方はしませんから。

安田

「中小企業の生産性も上がり、社員も早く帰れて、みんなハッピー」みたいなことを言ってるじゃないですか。

久野

そう言うしか、ないですよね。

安田

「でも本音はそうじゃない」ってのが、久野さんの見解ですよね?

久野

そうです。間違いないです。

安田

なぜ、そこまで断言できるんですか?裏から情報が入ってるとか。それとも社労士さんの間では「そんなの当たり前」という感じなんですか?

久野

なぜって言われても。経済産業省とか厚生労働省とかの「公開されてる議事録」見たら、そう書いてあるんですよ。

安田

え!「潰れてしまえ」って書いてあるんですか?

久野

そうは書いてません。

安田

ですよね。

久野

でも、読めば読むほど、そう書かれてるんですよ。

安田

たとえば、どんなことが書いてあるんですか?

久野

たとえば助成金の話でいうと、3年ぐらい前までは社員10人の企業も対象だったんですけど、今は30人ぐらいが最低ラインの助成金ばかり。

安田

30人以下はもういいよ、と。

久野

他にも、デジタルガバメント構想というのがありまして、その会議の議事録を見ると「社労士事務所に対して、何かしらのフォローが必要である」と明確に書かれてます。

安田

フォローしなければ「社労士事務所は潰れる」ってことですか。

久野

そういうことです。

安田

なるほど。

久野

ついこの前も、弁理士資格に関する、新しい見解が出ました。

安田

弁理士?

久野

弁理士って特許申請とか商標登録申請をする仕事なんですけど、「商標登録手続きの一部をITが支援する」っていうソフトが出たんですよ。

安田

ほう。

久野

それで、これは弁理士法違反ではないか、という話になって。

安田

違反なんですか?

久野

要は「弁理士じゃない人が、特許申請とか商標登録申請のお手伝いをしてはいけない」っていうのが弁理士法なので。

安田

なるほど。アプリを作っている会社は「弁理士の資格」をもってないだろうと。

久野

そうです。それで疑義になったんですが「本人がアプリに手伝ってもらって申請するんだからいいんじゃないか」ってことで許されちゃった。

安田

そういうのは、よくあることなんですか?

久野

たぶん昔だったら、通らなかったと思います。

安田

ということは、中小企業に限らず「生産性の低い士業事務所も、潰れてくれていい」ってことですか?

久野

そういうことです。

安田

「資格さえ取れば」ってのは、もう通用しないと?

久野

これ、政府の資料なんですけど。

安田

何ですか!この長いタイトルは?

久野

「中小企業および小規模事業者の長時間労働是正、生産性向上と人材確保のワーキンググループ」の資料。

安田

タイトルを読むだけで大変ですね(笑)。

久野

この中に、社労士対応のことが書いてあるんですよ。

安田

私だったらタイトル見ただけで、中身を見るのやめますね。何て書いてあるんですか?

久野

要は「デジタルガバメントで、政府のクラウドみたいなのを作ると、社労士の仕事はなくなるよ」みたいなことです。

安田

なるほど。なくなるのは、もう決定だと。

久野

決定だけど「いきなりは、まずいだろう」みたいな。「どう緩やかに、仕事をなくしていくか」みたいな。そんな議論になってます。

安田

怖いですね。久野さん社労士なのに、よく平気ですね?

久野

もう、しょうがないんですよ。それに合わせて手を打つしかない。

安田

これまでは、そうじゃなかったですよね。資格もってるだけで食えたし、潰れそうな中小企業でも助成金で助けてくれた。

久野

これまでは、そうでしたね。

安田

なんで、いきなり「手のひら返し」になっちゃったんですか?

久野

今までは厚労省が結構大きな予算をもっていたのが、今は経産省が強くなって来たんです。

安田

経産省が強くなると、どう変わるんですか?

久野

今までは「どう国民を幸せにしていくか」だったのが、経産省主導で「国際社会の中でどう戦っていくか」に舵が切られたわけです。

安田

戦わないと生き残っていけないと?

久野

もう切羽詰まってるんですよ。財政も借金まみれで、人口もどんどん減って行くし、やらなくちゃ仕方ない。

安田

たしかに人口は減ってます。でも、たとえば、ひとりっ子が両親の財産を引き継いでいけば、個人はどんどん豊かになって行きませんか?

久野

国全体のGDPは下がって行きます。

安田

全体のGDPは減りますけど、1人あたりは減らないんじゃないですか?

久野

国っていうのは、中国見てるとよく分かるんですけど、「国民1人ひとりの幸せより、国家として強くなれるかどうか」なんですよ。

安田

日本も同じだと?

久野

「株式会社日本が、世界の中でどうあるか」っていうのが根本だと思います。

安田

いやいや、国と会社は違いますよ。

久野

何が違うと思いますか?

安田

富の再配分をして「弱い人もいるけど、みんなで助け合って生きていこうね」っていうのが国でしょう。

久野

助け合って、みんなが貧乏でもいい?

安田

いや、だから一人ひとりは、結構、豊かなんですよ。

久野

たぶん「グローバル化した」のが、大きいと思います。

安田

グローバル化?

久野

はい。「グローバルの中で国民が上位層にいるかどうか」を気にせざるをえなくなってきたんですよ。

安田

グローバルの上位層にいるかどうか?

久野

ローカルな集落の中だけで見たら豊かかもしれないけど、世界単位で見ると「まったくもって貧乏」だって話です。

安田

でも日本人の人件費って、世界的に見てもまだまだ高いですよ。

久野

たしかに人件費はまだ高いんですけど、物価の水準とか見てると間違いなく下がって行きます。

安田

「安く生活できるから、そんなに稼がなくてもいい」っていう若者がすごく増えてるそうです。それじゃダメなんですか?

久野

「ダメだ」と考えてるんですよ。日本のトップは。

安田

「絶対に勝って、先進国でまた1番になる」みたいな?

久野

一番とは言わないまでも、トップ層ではいたい。

安田

若者や国民が望んでなくても?

久野

安田さんの言ってることも分かるんですけど、それって指標としては非常に分かりにくいじゃないですか。

安田

そうですか。「一人ひとりの幸せを追求しよう」ってことが?

久野

はい。分かりにくい。日本の官僚って意識が高いので。

安田

意識が高いと「幸せ追求」はダメなんですか?

久野

明確に「世界で何番」っていうほうが、分かりやすいじゃないですか。

安田

なるほど。偏差値競争で勝ってきた人が、官僚になってますからね。

久野

そうです。そういう人たちが官僚のトップになって行くんで。

安田

「幸せかどうか」より「国際競争で勝つか負けるか」のほうが彼らは大事ってことですか?

久野

今のままの日本だと、国際社会からお金も集まってこないですから。

安田

お金が集まってこない?

久野

はい。「株式会社日本」が、どうやって国際社会からお金を集めて、大きな事業をやってお金を回すか。

安田

ということは、日本は「国家日本から株式会社日本になって、不採算部門はいらん」という方向になるってことですか?

久野

実際そうなってますね。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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