第52回「何歳まで働けばいいのか」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第52回「何歳まで働けばいいのか」

安田

65歳までの雇用が義務化して「いずれは70歳まで延びる」って、久野さん言ってたじゃないですか。

久野

すでになってきました。

安田

そうなんですよ。この対談を始めて1年も経ってないのに、早くもそういう話になってます。

久野

国の財源がどんどん減ってるので。

安田

まあそうなんでしょうけど。「70までは企業が面倒見ろ」って、もうこれは確定路線ですよね。

久野

間違いなく法制化されます。

安田

まず大企業で法制化されて、中小企業も1〜2年後には後追いする?

久野

そうです。中小企業には猶予期間をもたせてくれる。大体1~2年ですね。働き方改革は1年でしたけど。

安田

国として限界なのは分かります。平均寿命が20年近く延びちゃいましたから。

久野

年金だけでカバーするのはもう不可能なんです。

安田

そりゃあそうですよ。75歳で死んでたのが95歳になって。その20年を「国が何とかしろ」ってのは、さすがに無理があります。

久野

20年も伸びることは想定してませんからね。

安田

単純に寿命が20年伸びたのなら、20年長く働くしかないと私は思いますけど。

久野

みんなそう思ってくれればいいんですが。それ以外に方法がありませんので。

安田

ただ、それを「企業に丸投げ」するのはどうかと思います。

久野

そうですね。企業の寿命も短くなりますから。

安田

「お前らが何とかしろ」って国に丸投げされても困りますよ。

久野

社会保険料もめちゃめちゃ上げてますし。

安田

そもそも社会保険料を企業に半分払わせること自体、どうかと思います。

久野

社労士としては複雑ですけど(笑)。経営者としては同じ気持ちですね。

安田

国の政策として「70までは年金払えない」というのは、もう決定ですよね。

久野

そうですね。いったん68とかまでにして、そのあと70まで上げていく。

安田

最終的にはどこまで上がりますか?

久野

最後は75とかじゃないですか。

安田

75までいきますか。

久野

そもそも設計としては80歳弱の平均余命で考えてるので。100歳とかいわれても対応できない。

安田

支給開始を遅らせるしかない。それは理解できます。

久野

まあ全員が100歳まで生きるわけじゃないですけど。

安田

ですよね。100歳まで生きる人が増えたのは事実。でも平均寿命が100歳にはならない。

久野

ですね。

安田

つまり75歳まで年金払わないとなったら、1円も受け取らないまま死んでいく人も出てくる。

久野

出てくるでしょうね。

安田

まあでも現実問題として65歳では出せないでしょうけど。

久野

財源的に絶対無理です。

安田

今の若い人たちって、何歳まで働く覚悟したほうがいいですか?

久野

今の30代は最低でも70歳まで。

安田

ですよね。ヘタしたら75歳までは稼ぐ覚悟が必要。

久野

社会保障制度って、本来は「弱った人を助ける」のが大前提なんですよ。だから65歳でも75歳でも元気だから働こうよっていう。

安田

でも払ってるほうはそんな感覚ないですよ。

久野

ですね。みんな払った分を取り返したい。そこが問題なんです。

安田

それ自体が間違ってると?

久野

だって税金もそうじゃないですか。たくさん稼いでいる人は稼げない人のために多く払う。

安田

じゃあ稼げる人は年金なんか受け取らず、自分で働いて稼いでくれと。

久野

本来はそうでしょうね。社会保障ってお互いのサポートで成り立ってるので。

安田

体が動かないとか、病気になった人のために、社会保険はある?

久野

社会保険制度ってそういうシステムですもん。所得の再分配ですから。

安田

でも老化って病気の一種じゃないですか。よれよれになっちゃいますし。生きてるから元気とは限らない。

久野

そこを明確にしないまま一律にしてるから、おかしくなってる。

安田

なるほど。

久野

まずは「払ったものを取り返そう」という発想を捨てなきゃいけない。

安田

ひとつ素朴な疑問があるんですが。

久野

何でしょう?

安田

政府と経団連って仲いいじゃないですか。

久野

今のところ利害関係は一致してますから。

安田

なぜ経団連は雇用期間の延長に反対しないんですか?だって70歳まで雇用義務化って、世界的な競争の中では致命的ですよ。

久野

ホントそうですよね。

安田

なぜ票を失わないんでしょう。何かとセットで約束してるんじゃないですか?

久野

たとえば?

安田

解雇OKは無理としても、給料をズバッと削っていいとか。

久野

あり得ますね。

安田

年収300万でいいんだったら雑用として使うのもありです。1000万払いながら10年延長は絶対無理。

久野

ですよね。まあ政治の仕組みって本当に闇ですから。

安田

闇ですか。

久野

今みたいな「時代の転換期」って、正攻法だけでは無理なんですよ。

安田

ですよね。スマホも使えないおじさんとか、どうしろって言うのか。

久野

「やっとあと5年であの人引退だ」と思ってたら、5年伸びたとか、10年伸びたとか。経営企画もへったくれもないですもん。

安田

これから採用する会社は70歳まで雇用する覚悟が必要ですね。

久野

最低70歳でしょうね。本人が辞めるって言わない限りは。

安田

そう考えたらものすごいリスクですよね。雇用って。

久野

はい。

安田

このままいくと、雇用しない会社がどんどん増えていく気がします。

久野

雇わない経営ですね。

安田

私がやってるから言うわけじゃなく、絶対に増えていくと思う。

久野

生半可な収益性で雇用なんかしちゃ駄目なんですよ。

安田

ホントそう思いますね。雇用したいならまず収益性を上げないと。

久野

そこは私も賛成です。残業代もきちんと払わないといけなくなるし。

安田

休みだって取らせないといけない。強引な管理もできない。

久野

すぐパワハラだって言われますから。

安田

それでいて収益性は高めないといけない。

久野

ですね。

安田

もはや贅沢品なんですよ。正社員を雇用するっていうのは。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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