第120回 感情で動く国

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第120回「感情で動く国」


安田

年金改革ですか。

久野

はい。密かに進んでます。

安田

それはどういう改革ですか。

久野

政府はいま厚生年金の加入者を、ガンガン増やしていってるんです。

安田

パートの奥さんが入ったり、とかですよね。

久野

パートの人は週30時間以上働くと社会保険加入なんです。これを「20時間を超えたら社会保険に入れちゃおう」みたいな波が来てまして。

安田

「社会保険料を払う人」を増やしたいってことですよね。

久野

そうです。これまで501人以上の会社で適用だったのが、2022年10月に101人以上になって、2024年10月からは51人以上の会社が対象になってくる。

安田

どんどん対象を広げてると。

久野

はい。なので中小企業も2024年10月からは……恐ろしいですよ。

安田

影響は大きいですか?

久野

社会保険に入らないことが中小企業の収益源でしたから。

安田

それもどうかと思いますけど。対象は主にパートさんですか?

久野

そうです。パートさんです。

安田

今後はパートとして雇う意味がなくなってくると。

久野

そうなんですよ。それが年金改革のひとつの目玉。

安田

へえ。

久野

年金に関して、いま何をやってるかっていうと、財源の確保なんです。

安田

でしょうね。

久野

なんとか適用を増やすことによって、社会保険の財源を増やそうとしてる。

安田

そりゃあ、払う人を増やしたいでしょう。

久野

そういう改革が5個ぐらいありまして。「年金大改革を2022年4月から順次やります」みたいなことが、ひそかに進んでる。

安田

社会保障費の使途っていろいろあると思うんですけど。やっぱり年金がいちばん大きいんですか?

久野

年金・医療という分野ですね。

安田

医療も大きいですよね。

久野

医療はでかいです。

安田

コロナで「おじいちゃんおばあちゃんが来なくなって、病院が儲からなくなった」とか言われてます。

久野

そこが大きな問題なんですよ。

安田

ですよね。行かなくていいんだったら「最初から行かなくていいじゃん」って思います。ひまつぶしに来る人も多いイメージ。

久野

そうですね。

安田

なぜ自己負担を3割とかにしないんですか?

久野

それはシルバーデモクラシーですよ、やっぱり。

安田

それをやったら選挙勝てないってことですか。

久野

はい。選挙に勝てない。

安田

本当にそうですかね。逆に圧勝する可能性もあると思うんですけど。

久野

それはどういう理屈で?

安田

たとえば野党が「政権を取ったら3割にする。申し訳ないけど払ってくれ。どうしても払えない、命にかかわる老人は国が面倒を見る。だけど余裕がある人は悪いけど3割出してくれ」って言えば。選挙で勝てると思いますけど。

久野

いや、逆だと思います。

安田

逆?

久野

たとえば電気代とか水道代とか。あと、それこそ医療関係ですね。そのあたりの生活コストに関しては、中国に学ぶとものすごくわかりやすい。

安田

中国ですか。

久野

はい。中国はそこをめちゃくちゃ低く抑えてきてるんです。なぜなら一党独裁体制を保つには、とにかく最低限のインフラは安くしておく必要があるから。

安田

そこがキモだと。

久野

ここが高くなると暴動が起きる可能性があるんです。だから、とにかく「生活コストが上がらないように上がらないように」っていうのが行政の考えてること。

安田

日本もそこは同じだと。

久野

はい。だから年金・医療・解雇の問題は基本的にアンタッチャブル。

安田

だけど結局、「収入を増やすか、支出を減らすか」しかないわけですよね。

久野

ないですね。

安田

どっちにしろ国民が払うわけじゃないですか。税金で。

久野

はい。

安田

社会保険料を上げるとしても、医療費の負担を増やすとしても、出どころは同じでしょう。結局は国民が払うわけで。

久野

そうですね。再分配してるわけですから。

安田

じゃあ「どっちがいいの?」って話で。「今はあまりにもバランスが悪い。だからこうします」っていうのは、国民の合意を得やすい気がするんですけど。

久野

合意しますかね。

安田

高齢者自身も「3割取りゃいいのに」って言ってる人いますよ。

久野

う〜ん・・・どうでしょう。日本人の政治に対する興味ってかなり低いんですよね。だから「郵政民営化選挙だ」っていうのが通ってしまう。

安田

それが関係してると。

久野

だって本当はそんなはずないんです。それ以外にもいろいろ決めることがあって。

安田

そりゃそうですよね。

久野

だけど年金問題とか医療問題をちょっとでも持ってくると、揚げ足取りのように「あそこはこんなことを言ってるぞ」って反対の論議を展開してくる。

安田

そこで争えばいいじゃないですか。

久野

そうなった時に「医療費を3割に上げる」という党と、「医療費は今のままです」という党の2軸になりやすい。だから、こういう論点には持っていきたくない。

安田

「あの党は老人を殺すつもりだ」みたいなことを言われて。悪者にされちゃう。

久野

そういう意見を声高にいう人だけを、いっぱい連れて来るんです。

安田

まあ、ありそうな話ですけど。国民はそんなに馬鹿ですかね。

久野

日本人って変化にめちゃくちゃ弱いんです。たとえば医療現場も1割で潤ってる人がいるわけです。「おじいちゃん毎日来てくれてありがたい」っていうお医者さんとか。

安田

いそうですね。

久野

そういう人たちが「俺たちの生活はどうなっちゃうんだ?」って声をあげる。

安田

「値上げしたら利用者が減るだろ!」ってことですか?

久野

そういうことです。

安田

確かにそういう気質はありますね。徐々に死んでいくほうがいいっていう。あとは重要なことを決めるのに、理屈じゃなく感情で決めるとか。

久野

いやぁ、感情は恐ろしいぐらい、そうですね。

安田

その時の感情だけで投票しちゃいますから。

久野

とくに日本人は騙されやすいっていうか、同調圧力がすごく強いので。マスクだって、日本ではしてないと恐ろしいことになるじゃないですか。

安田

ですよね。

久野

ビジネスマナーまで出てますから。「どの色のマスクがOKで、柄はやめましょう」とか。「二重はこういう感じです」みたいな。

安田

そんなマナーまであるんですか!

久野

ちょっと前までは、仕事中にマスクをすることが「マナー違反」だったんですけど(笑)

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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