第266回 最低賃金が1,500円になる日

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第266回「最低賃金が1,500円になる日」


安田

最低賃金を全国一律にしようという動きがありまして。最低賃金が同じなら地方にも人が集まるはずだと。

久野

「一律で1500円にするべきだ」と労働組合関係者が言ってますね。経営者が言っているわけではなく。

安田

経営者にしたら安い方がいいんでしょうね。

久野

はい。経営的に1500円はキツい。だけど私はやった方がいいと思います。

安田

なぜやった方がいいと思うんですか? 

久野

日本のような狭い国で最低賃金が違うことに、そもそも違和感があります。アメリカぐらい広ければ分かるんですけど。岐阜と名古屋でも最低賃金が違うんですよ。

安田

お隣同士でも違うと。

久野

たとえば多治見は名古屋のベッドタウンなんですけど、多治見の方が最低賃金は安いんです。

安田

住む場所ではあるけど働く場所ではないと。

久野

多治見では会社もどこもかしこも給料が安いんです。だからみんな名古屋に流れていく。最低賃金を一律にすれば人の流れは変わると思います。

安田

そもそもなぜ違うんでしょうね。地方の経営者に配慮してるんでしょうか。結果的に都市部にどんどん人が流れて人不足になってますけど。

久野

昔はそこに明確な理由があったと思うんですよ。都心の方がコストも高いから「最低賃金を引き上げよう」ということだったと思う。

安田

今でも生活費は高いですよ。

久野

スーパーや飲食の値段って変わらないじゃないですか。

安田

確かに。衣食に関してはあまり変わりませんね。住むところぐらいですね。

久野

だから昔の名残りだと思います。

安田

いずれは必ず全国統一になりますか。

久野

難しいところでして。たとえば工場を誘致する際に最低賃金が安い方が有利なんです。大きな企業を誘致しやすい。要は「あなたのところに労働力が集中しますよ」と。

安田

最低賃金が安いところに工場を建てると近隣から人材が集まってくると。

久野

そうです。地方では「採用しやすい」ということを売りにしてます。ただ、その逆もあって。過疎地になっている可能性も高くて現実に人がいない。

安田

人がいないと工場は稼働できませんよね。

久野

だから力のある会社は高い報酬を出して引っ張ってくるしかない。

安田

過疎地の周りから引っ張ってくるってことですか?

久野

そうです。だから工場の周りでとんでもない競争が起きる。そうならないように最低賃金を統一しておくのはありだと思います。

安田

地方企業を安定させるためには統一した方がいいと。

久野

はい。ただしそうなる過程で会社がめちゃくちゃ淘汰されます。

安田

今の最低賃金じゃないと成り立たない会社は淘汰されるってことですね。

久野

一瞬でなくなります。東京の相場に合わせようとするとかなりアップしますから。

安田

東京ではもう1200円ぐらい出さないと人が来ないです。

久野

そうですね。地方はまだ1000円以下のところが結構ある。最低ラインの報酬で160時間働くとすると1万6000円ぐらいの給与差がある。これは結構大きいです。

安田

働く人たちは100%歓迎なんでしょうか。最低賃金が上がることに。

久野

それはウェルカムじゃないですか。

安田

だけど最低賃金が上がると人を減らす会社も出てきますよ。

久野

日本全体で見ても人が足りていないので。賃金が高い会社に流れていくだけですね。

安田

だったらどんどん転職すればいいのに。最低賃金が上がるのを待つまでもなく。

久野

そこが日本の問題なんですよ。ゾンビ企業と言われるような、めちゃくちゃ給与が安い会社に人が貼りついているわけです。

安田

それを無理やり引き剥がすには最低賃金を上げるしかないと。

久野

はい。私はそういう勝負に出る時だと思います。

安田

なるほど。最低賃金は統一されるべきだと。

久野

政治は経団連にも配慮するから難しいんですけど。そうしなくちゃいけないと思います。いくら何でも狭い国土を細かく区切りすぎなので。かなり歪ですよ。

安田

名古屋と多治見なんて目と鼻の先ですもんね。

久野

東京横浜と同じぐらいです。横浜に住んでいる人がみんな東京に働きに行っているようなものです。

安田

そう言われるとすごい違和感ですね。確かに歪な気がします。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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