第268回 外国人に見限られる前に

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第268回「外国人に見限られる前に」


安田

外国人技能実習制度を見直すそうです。

久野

はい。これは絶対にやった方がいいですね。

安田

技能実習と言いながら安く使える労働力としか見ていなくて。理不尽な職場に配置された場合は転職できるようになるみたいです。

久野

これまでが完全におかしかったですよ。転職はダメで、めちゃくちゃ安く雇って。

安田

だから逃げちゃう人まで出てくるわけですね。ようやく手をつけ始めたってことでしょうか。

久野

一国二制度みたいな状況だったので。日本人は優遇して外国人には最低限しか報酬を渡さないっていう。残業するのは外国人で技能実習と言いながら何も教えない。

安田

技能実習なんて実質的には行われていなかったってことですよね。

久野

全てではないですけど、ほとんどの企業がやってない。教える気もない。しかも日本は円安で魅力がなくなってきてる。どんどん韓国に流れてます。

安田

技能実習を廃止して育成就労制度というものに変えていくそうです。育成と就労、つまり外国人に日本で働いてもらう代わりに、働きやすい環境や賃金をちゃんと用意すると。

久野

普通といえば普通ですけど大きな進歩ですよ。海外では奴隷制度とまで言われていましたから。

安田

そんなひどい制度を今まで続けてきたのは、人不足で中小企業の現場が回らないからですよね。

久野

そう思います。

安田

つまりこれを切り替るとなったら、今まで成り立っていた現場が回らなくなる。条件が悪い現場だと外国人に転職されちゃう。

久野

それでいいと思います。これまでも外国人にちゃんと手厚い会社はあったんですよ。そういう会社に移動できるじゃないですか。

安田

移動できなかったことが一番の問題だったわけですね。

久野

そうなんです。選べないって恐ろしいじゃないですか。少ない情報だけで日本に来ているわけで。

安田

確かに恐ろしいですよね。これは改善というより正常化ですね。

久野

そうです。ただ正常化すると企業は二極化します。外国人がどんどん集まる会社といなくなる会社が出てきます。

安田

健全じゃないですか。外国人労働者から搾取していた会社が淘汰されていくってことですよ。

久野

健全ですね。正直、同じ日本人として恥ずかしかったです。

安田

私もそう思います。だけど国は外国人を泣かせながら、そういう会社を守ってきたわけですよね。

久野

せっかく日本に憧れてきてくれた外国人を搾取してきたわけです。絶対に恨まれていると思います。

安田

なんで今さらそこを変えようということになったんですか。

久野

もう採れなくなってきてるから。

安田

このままでは日本に来てくれる外国人が「いなくなっちゃう」ということですか。

久野

日本の技能実習は「奴隷制度だ」って海外で言われ始めて。しかも日本は昔ほど稼げない国になってきてる。

安田

無理して日本で働く意味がないと。

久野

魅力がない上に稼げない。奴隷みたいに1箇所に拘束される。劣悪な環境で労働法もない。これでは誰も来なくなってしまいますよ。

安田

なるほど。ひどいですね。

久野

だけど日本の現場はもう外国人がいないと回らないんです。

安田

仮に日本人と同じ待遇や教育体制を整えるとして、日本人と同じように一生懸命働いてくれますか。

久野

正直、外国人の方が真面目に働きますね。稼ぎたいという目的もはっきりしているのでマネージメントもしやすい。

安田

言葉のハンディキャップを考えても、やる気のある外国人を採用したほうが戦力になると。

久野

日本人のほうがすぐに辞めます。ちょっと厳しいとすぐ転職しちゃうし。マネジメントも面倒だし。

安田

日本人のほうが面倒なんですか。

久野

外国人は食事に連れて行ってもめちゃくちゃ喜んでくれるし。そりゃ経営者も嬉しいですよ。

安田

なるほど。日本人の若い子は喜ぶどころか嫌がりますもんね。残業手当が出ないなら行かないとか言われるし。

久野

経営者から見ると、外国人ってもう立派な戦力なんです。だからこそ、ちゃんとやってる会社に集まるようにしてあげることが国家全体のプラスになる。

安田

いまだに移民反対とか言ってる人が多いですけど。受け入れないと日本の現場は回らないってことですよね。

久野

はい。コンビニやスーパーも外国人がいないと回らないので。生活できなくなります。

安田

日本人より余程しっかりした外国人もいますよね。

久野

そうなんですよ。ちゃんと仕事をしてくれる外国人にはしっかり報酬も払う。それが健全だと思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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