第195回「責任は誰が取るのか」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第194回「自分はどちら側?」

 第195回「責任は誰が取るのか」 


安田

神奈川にある有名なパン屋さんで、社長が失踪したそうです。

石塚

数十店舗あるパン屋の創業社長ですね。コロナで資金繰りが厳しくなって、お金が回らなくなって。最後は社長が失踪して潰れちゃった。

安田

コロナ前までは優良企業だったそうです。こういうケースが今後は増えていくんでしょうか。

石塚

このパン屋さんみたいになる企業の予備軍は多いです。雇用調整助成金が切られて、金融機関が融資を引き上げたら、もう続けられなくなる。

安田

感染者はまだ多いですけど、海外は通常経済に戻そうとしてますよね。アメリカでは「もうマスクしなくていい」みたいな。

石塚

日本はそういう切り替えが遅いから。

安田

お国柄なんでしょうか。水面下で死んでいってる会社がたくさんありそう。

石塚

じつはコロナの間に「究極の二極化」が進んでまして。たぶん安田さんも聞いていると思うんですけど。

安田

いい会社もあるってことですか。

石塚

「あんまり言えないんだけどさ。すごく儲かってて」っていう会社。あるじゃないですか。

安田

ありますね。

石塚

パン屋さんは残念ながら、人の流れのあおりを食らっちゃった。同じ外食でもマクドナルドを中心に「過去最高益」なんてところもある。コロナ後の経済は二極化しますよ。

安田

そうですね。今はまだそれが表面化はしていないだけで。

石塚

要するに助成金と緊急融資でつないでいるだけ。とりあえず苦しくても”生命維持装置”は外れていないので。でも永遠にそれを国がやり続けるわけにはいかない。

安田

無理ですよね。これは飲食に限らずあらゆる業種で出てきますか。

石塚

はい。業界を超えて二極化すると思います。

安田

それはいつ頃ですか。

石塚

要は「誰がそのボタンを押すか」ですね。

安田

誰が押すんでしょう。

石塚

誰も押したくないから日本流の先送りをしてる(笑)なるべく表面化しないように、ハードランディングさせないように。

安田

国としてはソフトランディングさせたいでしょうね。

石塚

でないと誰かの責任が問われるので。

安田

日本人はハードランディングが嫌いなんですか?

石塚

バブルのときの教訓もあるので。「整理させてもらいます」って金融機関が言った途端に「おまえら貸しはがしか!」って。さんざん叩かれたじゃないですか。

安田

社会問題になってましたね。

石塚

だから「貸しはがし」って言われないように、今回は上手く書かれてます。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。「一括返済は断れない」という形になってる。

安田

なんと。

石塚

金融機関も無担保無保証で貸すんですから。「いざとなったら、こちらの言うとおりにやらせてもらいますよ」っていう。

安田

でも国の保証が入ってますよね。コロナ融資のお金は。

石塚

おっしゃる通り。

安田

銀行の腹は痛まないでしょう。

石塚

そうなんですよ。そのへんが実に日本的だなあと思っていて。誰も傷つかないような構図になっているわけです。

安田

誰も傷つかないんですか。

石塚

表面的には。だって債務が保証協会に行って、保証協会は国のものだから国がかぶる。つまり最終的には税金だよねって話じゃないですか。

安田

銀行にとってはお得な融資案件ですよね。

石塚

そうでもないですよ。利息はそんなに取れないですから。大して儲けられない。

安田

なるほど。

石塚

いくら貸し出しても儲からないわけですよ。そもそも融資だけではもう成り立たない。

安田

じゃあ銀行はどうやって利益を出してるんですか。

石塚

今は住宅ローンをアグレッシブにやってます。年収350万の人が6,000万のローンとか。にわかには信じがたいようなサブプライムまがいのことをやってる。

安田

住宅ローンのほうが儲かるんですか。

石塚

はるかに利息が高いので。長期間にわたって取れますし。「こんなんで本当に大丈夫なんかいな」って思いますけど。

安田

最終的にコロナ融資はどうなると思いますか?

石塚

銀行は自分の腹が痛まないから「保証協会から返してもらえばいいか」ってことだと思う。

安田

保証協会は回収できますか?

石塚

無理でしょう。

安田

ですよね。つまり国がお金を配ってるのと同じじゃないですか。

石塚

同じですね。

安田

だったらパン屋の社長も失踪なんてしなくていいのに。

石塚

ずっと出し続けてくれるわけじゃないので。「そんなに何度もつなげませんよ」って。抜本的な売上が回復しないと苦しいですよ。

安田

回復の見込みがない会社はもう無理だと。

石塚

基本的には回復するまでのつなぎ融資ですから。

安田

借り入れを増やしつづけないと回らない会社は、もう無理と。

石塚

もう無理でしょうね。そういう会社は少なからずありますよ。

安田

たとえば「返済はできないけど資金は回ってる」という会社はどうですか。国が取り立てたら潰れちゃうけど、取り立てなければ潰れない。

石塚

それは、ゆっくり先送りですね。

安田

やっぱ先送りですか。

石塚

「ぼちぼち返してくれたらいいよ」と。

安田

そもそも返済の設定が長いですもんね。8年とか10年とか。

石塚

「本当に回収する気あるのか?」って貸し方ですよ。

安田

最初から「先送り前提なんじゃないのか」って気もします。

石塚

さすがにそれはないでしょうけど。ただ「責任の所在」が不明なようにはできてる。

安田

誰も責任を取らないんですか。

石塚

でないと誰もやりませんよ。

安田

最後は税金で賄われると。

石塚

もちろん。

安田

いいんですか。こんなことやってて。

石塚

ある意味これは国民の意思じゃないですか。日本人はあらゆる意味で必要以上に怖がり過ぎちゃうから。

安田

確かに。コロナもいつまで経っても終わりませんもんね。

石塚

「終わり」って言えないんですよ。言った人の責任問題になるから。

安田

自分で自分の首を絞めてるってことですね。

石塚

それも真綿で締めてるから。締めてる本人も気づかないんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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