第196回「焦る若手社員たちの本音」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第195回「責任は誰が取るのか」

 第196回「焦る若手社員たちの本音」 


安田

労働環境がよくなってるのに辞めちゃう若者もいるみたいで。

石塚

そりゃいますよ。

安田

とくに大手は労働環境が良すぎて「このゆるさが心配だ」って辞めちゃうそうです。

石塚

それはかなり表面的な見方だと思います。

安田

石塚さんの見立てはどんな感じですか。

石塚

ゆるいから辞めるというより、「自分の市場価値を感じられないから不安になる」ということだと思う。

安田

つまり「成長を感じられない」ってことですか。

石塚

「この会社でずっと勤められるとは思わない。だから自分は市場価値を高めたい。現職はあまり市場価値が高まっていない気がする。だから転職する」という。

安田

なるほど。つまり、ゆるいことが悪いのではなく、自分のスキルが高まらないのが不安だってことですね。

石塚

その通りです。

安田

でもスキルアップしようと思えば、自分でやればいいだけのことじゃないですか。

石塚

そこがすごく「いま」だなと。

安田

どういう意味ですか。

石塚

安田さんの言うとおりなんですよ。言うとおりなんですけれど、そこを見越したうえでやっていかなくちゃいけない。

安田

どうすればいいんですか。

石塚

「市場価値がこうやって高まっている」と実感できる施策を打たなきゃいけない。そういう時代だってことでしょう。

安田

経営者も大変ですね。

石塚

大変なんですよ。

安田

たとえば「ブラック企業にいたけど、おかげでこんなに成長できました」って人もいますよね。

石塚

はい。いらっしゃいます。

安田

有名な経営者になってたり。すごく稼ぐ営業マンになってたり。「あのブラックな時代がなければ」って武勇伝になってることも多くて。

石塚

有名な訪販会社とか飛び込み会社とか。そういうところ出身でたしかに成功している人はいるんですよ。

安田

ということは、見方を変えればブラック企業にも良さはあるってことですか。

石塚

まあね。「ブラック企業」というキーワードが先行してますけど、要するに仕事の「量」の話をしていると思うんですよ。

安田

仕事量が多いってことですか。

石塚

「たくさんの仕事量を積んだから、成長して成功しています」って話だと思う。

安田

厳しさに関してはどうですか。「売れるまで帰ってくるな!」みたいな上司とか。

石塚

厳しさに関していうと人それぞれだと思う。仕事の量は絶対に必要だけど。

安田

なるほど。

石塚

だって安田さんみたいな人に厳しく細かく言ったら、すぐ「プイッ」って横向いちゃうじゃないですか。

安田

すぐ辞めちゃいますね(笑)

石塚

ですよね。「僕、『ああしろこうしろ』って言われるの嫌なんです」とか、すぐ思っちゃうじゃないですか。

安田

おっしゃる通りです(笑)

石塚

そういう人もいれば、「合理的な目標をガンガン指示して、むしろちょっと詰めてくれるぐらいのほうが成長を感じる」というタイプもいる。

安田

たしかに。

石塚

だから、厳しさに関してはタイプ分けしないと。のびのびやらせるほうがいい人もいれば、たくさん褒めるとその気になる人もいるし、そこは個人差がかなり激しい。

安田

だけど仕事量に関しては、若いときはやらせたほうがいいってことですか。

石塚

一部の天才を除いて。というか天才ほど仕事しているじゃないですか。

安田

まあ「努力する天才」と言うのが正しいですよね。

石塚

そうそう。努力する天才。本人はべつにそれを「努力」と思ってないから、タチが悪いんです。

安田

だから天才なんでしょうね。努力が苦にならないっていう。

石塚

「俺にとっちゃ、べつに遊びみたいなもんだ」とか言って。そういうのを凡人が真に受けちゃだめ。

安田

なるほど。

石塚

これは音楽の世界でも、野球とかスポーツの世界でも同じ。練習量をある程度やらないと上達しない。仕事も一緒。

安田

メジャーリーガーだって練習してますからね。

石塚

もちろんやってますよ。

安田

でも今の時代って、量をやらせられないじゃないですか。残業規制も厳しいし。

石塚

おっしゃる通り。

安田

本人がやりたいと思っても仕事を家に持って帰れない。

石塚

そういう時代なんです。

安田

だったら会社で「成長を実感させる」って難しくないですか?成長には仕事量が必要なんですよね。

石塚

昔のように「時間拘束=量」っていう発想は古いってことでしょうね。

安田

なるほど。

石塚

「本当に成果につながるための時間をどれだけ増やせるか」ってことになってくる。

安田

どうすりゃいいんでしょう。

石塚

たとえば移動時間をなるべく減らすとか。無駄な打ち合わせをやめるとか。もっと8時間を密度濃くできるはずですよ。

安田

大企業はまだまだ無駄な時間が多そうですよね。

石塚

本当に成果につながるための時間を増やす。それがイコール労働時間を増やすっていう発想はもう古い気がする。

安田

ということは「ゆるい」んじゃなく、「スキルに直結しない無駄な仕事」ばかりやらせるから辞めちゃうってことですか。

石塚

そうですよ。

安田

なるほど。

石塚

安田さんだって、本当に頭を使って打ち合わせをやったら2〜3本でもうヘトヘトでしょ。

安田

3本やったらヘトヘトになりますね。

石塚

そういうものだと思いますよ。真剣にやってたら12時間とか14時間とか無理です。

安田

出来たとしても若いときの数年間ですね。

石塚

その通り。

安田

無駄な会議とか、資料づくりとか、どうでもいいような仕事をやめて、スキルアップにつながることを若者にやらせないと辞めちゃうよ、ってことですね。

石塚

そう思います。時間内にあらゆることを詰めなきゃいけないから、これまでよりむしろ厳しいと思う。

安田

スキルアップにつながるのであれば厳しいほうがいいってことですか。

石塚

1年目は多摩川でのんびりトレーニングなんていう会社、もうだいぶ減りましたよ。若者もそんなの求めてないし。

安田

そんなことしてたら「40代50代で危ない」ってことを、若者もわかってると。

石塚

40代どころか「30までにこうなりたい」という焦りは、かなり強い。真っ当になってきたってことですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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