第229回「イノベーションが起きない国」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第228回「大手家電メーカーの現状」

 第229回「イノベーションが起きない国」 


安田

ラーメンの価格が日本とニューヨークで4倍違うそうです。

石塚

ニューヨークは物価が高いですけど、それにも増して日本が安すぎるから。

安田

値上げを許容しない国民性が「いちばんの問題じゃないか」って言われてまして。どう思いますか。

石塚

この30年、日本は投資をしていないんですよ。具体的に言うと「基礎研究投資」「設備投資」「人材への投資」の3つ。これをまったくやってない。

安田

そこが最大の問題ですか。

石塚

投資をしていないから生産性が上がらない。生産性が上がらないから業績が上がらない。業績が上がらないから株が下がる。金を持っている人はみんな米国株を買いにいく。

安田

なるほど。

石塚

要するに日本は止まりっぱなしなんですよ。たまたまウクライナ問題で向き合うようになっただけ。ずっと前から問題の根っこは変わらない。

安田

企業はまた投資をするようになりますか?

石塚

「賃金を上げろ」って政府は言ってるだけじゃないですか。

安田

言ってますね。

石塚

バカじゃないかと思って。もっと政府が基礎研究投資を誘う政策をやらないと。人材投資を積極的にやれば「これだけ応援するよ」という政策とか。

安田

大企業は内部留保が増えていて、「まだまだ人件費を上げられる余力がある」と言われてますけど。

石塚

それはそのとおりです。貯め込むだけだから「おまえらバカじゃないの」って話ですよね。それを積極的に次の投資に回さないと。

安田

企業にも責任はあると。

石塚

もちろん。基礎研究投資とか、設備投資とか、DXも含めてのIT投資とか、人材への投資とか。国際的に見てぜんぜんやってないに等しい。

安田

まずは設備なり、基礎研究なりに投資して、イノベーションを起こし、生産性が上がり、それから給料が上がっていくと。こういう順番ですか?

石塚

そう。

安田

いきなり給料は上げられない。

石塚

怖いから企業は貯め込んじゃうんですよ。そもそも基礎研究投資において、いま日本が第何位かご存じですか?

安田

先進国最下位だろうという気はしていますけど。

石塚

第12位です。1位が韓国、次がアメリカ、次が台湾、その次はシンガポール。これ、なにが共通しているかというと、最先端技術を持っている国なんですよ。

安田

昔はその位置に日本がいたわけですよね。

石塚

そう。だけど怖いから貯め込むばっかりで。内向きだし、「次に向けて思い切って投資しよう」みたいなことを何もしない。

安田

中小企業にはそんなお金もないですけど。中小企業でも生産性を上げる方法はありますか。

石塚

いくらでもありますよ。独自の技術を磨くのか、それともサービスに磨きをかけるのか。やりようはいくらでもある。

安田

いま物価高じゃないですか。

石塚

はい。円安とウクライナ問題で、エネルギーも原料も全部上がりましたから。

安田

これを機に便乗値上げしちゃうのはどうですか。まず高く売り、そのぶん給料を上げる。

石塚

高く売りたいんだったらマーケットを海外に移さざるをえない。

安田

高くしたら国内では売れませんか。

石塚

売れないでしょう。マーケットを国内に限定するのであれば、調達をなるべく国内でやらないと。

安田

休日に銀座や丸の内を散歩してると、けっこう高いお店に人がいっぱい入ってますよ。行列までできてる。

石塚

それはそうでしょ。

安田

「高いものは買わない」と言う割に、売れているじゃないかと思って。どこが不景気なんだろうと思うんですけど。

石塚

日本のなかでいちばんお金持ちが集まっているのが、安田さんが散歩に行く場所だから。そこを歩けば、そう見えるかもしれないけど、ごくごく一部ですよ。

安田

ほとんどの地域では、こんなことは起きていないってことですか。

石塚

たまに高いものも買うけど、日本人はそれ以外のところをすごく詰めるじゃないですか。「なるべくお金を使わないようにしよう」って。

安田

確かに。

石塚

そもそも日本人はデフレが好きなので。

安田

つまり小さな贅沢をしたところで、トータルでの支出は増えないってことですね。

石塚

そうそう。

安田

他を抑えちゃうから。

石塚

いちばんは人口ですけどね。「アメリカの経済はいい」って言うけど、アメリカは8,000万人も人口が増えているんですよ。

安田

へえ〜。

石塚

それだけ人口が増えれば生産性も上がる。黙っていたってGDPは上がるに決まってる。

安田

なぜアメリカは人口が増えているんですか?

石塚

まず来やすいってことと、「アメリカで仕事がしたい」って人がたくさんいるから。チャンスを求めて世界中から人が集まってくる。

安田

世界中から優秀な人が来て、イノベーションを起こしてくれますよね。アメリカって。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

日本は安い労働力としてしか外国人を入れないので。だめですよね。

石塚

その安い外国人すら、これからは入ってこないですよ。

安田

アメリカと日本の教授対談が記事になってまして。結果的には「賃金を上げて労働生産性を上げるしかないよね」という結論なんですけど。

石塚

まあ労働生産性が上がれば賃金も上がると思うんですけど。どうやってそれを実現するかですよ。

安田

やっぱり石塚さんがおっしゃるように投資でしょうか。

石塚

それしかないと思います。

安田

この何十年やってこなかったことを、お金を使ったからといって出来るんですか。

石塚

勝てそうなところに集中させてやるしかない。他に方法がないし。

安田

イーロン・マスクみたいな人に買ってもらって、生産性を上げてもらうのはどうですか。日本人は言われた通りに現場でひたすら頑張る。

石塚

そっちの方が現実的かもしれません。

安田

やっぱりそうですか。

石塚

相変わらず老害が牛耳って、結局なにも変わらない。日本人ってスクラップ・アンド・ビルドがいちばん苦手じゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

自分でスクラップできないんだったら、外圧としてスクラップしてもらうしかない。

安田

松下幸之助さんは、「不景気でも人を切らず、みんなで営業を頑張って、みんなで盛り返した」という逸話があるんですけど。いまそれをやったらどうなるんですか? 

石塚

そこまで持ちこたえられないでしょうね。

安田

盛り返す前に潰れてしまう?

石塚

そう思います。

安田

松下幸之助さんが今生きていたら、やっぱり人を減らすと思いますか。

石塚

松下幸之助さんだったら、とっくに自分の事業を売って、違うことをやってるんじゃないですか。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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