第181回「売上を作るのは足元にある歴史や文化からという小さなブルーオーシャン」

このコラムについて

小さなブルーオーシャン?
何だかよく分からないよ。ホントにそんなので商売が成り立つの?

と思っている方は多いのではないでしょうか。何を隠そう私もそのひとりでした。私は人一倍疑り深い人間なのです。そこで・・・私は徹底的に調べてみることにしました。小さなブルーオーシャンなんて本当にあるのか。どこに行けば見られるのか。どんな業種なら可能なのか。本当に儲かっているのか。小さなブルーオーシャン探求の中で私が見つけた答えらしきもの。それはきっとみなさんにとっても「何かのヒント」になるはずです。

「売上を作るのは足元にある歴史や文化からという小さなブルーオーシャン」


ヨーロッパなどでは、古城に宿泊できるツアーが人気ですよね。かつて王族や貴族の住んでいたと思うと、一度は泊まってみたい憧れの宿泊施設です。

では日本では?と調べてみました。これまで、お城を見ながらキャンプができる等はあるものの、お城自体に宿泊できるというのはありませんでした。おそらく「文化財だから」というのが理由だったのではないでしょうか?

ところがいま、お城を宿泊施設として利用する動きは全国に拡大し始めているというのです。そんな中、最近話題になっている「城泊」を取り上げてみました。

1泊60万円でも大人気の「城泊」

長崎県平戸市に位置する歴史的な平戸城。かつて倉庫として使われていた懐柔櫓が宿泊施設として改修され、2021年4月より1日1組限定、66万円で提供されている「平戸城 CASTLESTAY 懐柔櫓」になりました。オプションの体験を含めれば、1泊100万円ほどになるそうですが、国内外問わずコンスタントに予約が入っている状態だといいます。

確かにお城に泊まること自体、非日常的な体験であり、そこにお金を払う価値はあると思います。しかし、それだけに100万円も払うでしょうか?

なぜ、人気なのでしょうか?

歴史的、文化的体験が宿泊者を魅了する

平戸城の城泊では、海に面したぜいたくなロケーションや貸し切りで天守閣の最上階が利用できる、また内装はかつて南蛮貿易の中心地として繁栄した歴史感を感じつつ、インテリアは桃山時代の後期に盛んになった「琳派」(りんぱ)がイメージされている。

3面ガラス張りのバスルームからは海が見渡せ、食事もまた、夕食には平戸島が誇る海の幸や平戸牛をメインにした創作フレンチのフルコース、朝食は和食が提供され、もう、宿泊と食事だけでも十分な特別感ですね。

しかし、これだけではないからこそ、宿泊者を鷲掴みにしてしまうようなのです。特に日本文化を感じることのできるオプションは、海外の方のココロをグッと握ってしまうそうです。

平戸藩の藩主だった松浦鎮信(まつらしげのぶ)がおこした武家茶道の一派「鎮信流(ちんしんりゅう)」の茶道体験。松浦家の邸宅にある立派な茶室で、本格的な茶道体験が用意されているとか。松浦家の紋章が入った平戸焼きの茶碗のプレゼントも喜ばれているそう。

また、国指定重要無形民俗文化財に指定されている「平戸神楽」の鑑賞。二十四番からなる平戸神楽は、笛と太鼓を主旋律とした雅楽による舞。太刀を口にくわえて、小刀を両脇に抱えながら乱れ舞う代表的な舞「二剣」に、宿泊客は息を飲むそうです。(大人気マンガ「鬼滅の刃」のヒノカミ神楽みたいですね。)

さらには、優雅な乗馬体験では、海を眺めながら、平戸の雄大な自然を満喫できるそうで、レアな体験なのでしょう。

ちなみに前述した食事においても事前に宿泊者の出身国やアレルギー、好き嫌いのリクエストなどをヒアリングして、ときには故郷でよく使われる食材や調味料を隠し味で使うこともあるそうで、素材の良さと同時にこうした演出も喜ばれているのでしょう。

何で売上を作るのか?

あくまでも私見ですが、旅行における価値観、消費の仕方が変わってきているような気がします。

以前は、現地に行くという行為自体が特別でした。電車でお弁当とみかんを買い、景色を見ながらのんびりと向かう。この現地に到着するまでのプロセスを楽しんでいたように気がします。

しかし、交通が発達し、現地までの時間が短縮されると、プロセスではなく、滞在地での景色や食事、あるいはお土産などに楽しみを得るようになったのではないでしょうか?観光名所と呼ばれるところにはたくさんの食事処ができ、お土産屋さんが軒を連ねていました。もちろん、まだこの名残はありますが、どうでしょう?

いまや情報や流通が発達し、インターネットで現地のものを買うことができます。首都圏でもその地域の食事、例えば沖縄料理もジンギスカンも、讃岐うどん、きりたんぽ、などなど食べることもできます。お土産も物産展などで買えますし、観光名所を見るだけならVR技術でも見れますし、You Tubeでも楽しめますし…。

旅行自体なくなることはないと思いますが、食事も、観光名所も、お土産もすぐに手に入る時代であれば、旅行先でお金を使うことがなくなっていくと思われます。

では何で売上を上げるのか?今回の例ですと、歴史や文化の体験にお金を使う人がいるわけです。ということは、住んでいる地域の当たり前が、他の人にとっては魅力的なものなのかもしれません。普段食べている郷土料理や地元のお祭、地元でしか流行っていない遊び、などなど。

これは企業にも言えることなのかもしれません。自社の歴史や文化は、自社にしかないものであり、とても魅力的です。それは社長のキャラクターや社員さんの個性かもしれませんし、自社独自の文化なのかもしれません。もはや、商品やサービスは同じようなものが溢れ、商品やサービスに付加価値をつけること自体が難しい時代です。
それならば、自社の足元にあるもの自体に目を向けると、それが本当の強みとなり、販売でも採用でも活かせることになるのではないでしょうか?

ぜひ、社長や社員も含めて、自社のことをじっくりと見直す機会を作るといいのではないかと思います。今回は城泊から見た、歴史や文化を活かす小さなブルーオーシャンでした。

──────────────────────
平戸城 CASTLE STAY 懐柔櫓
〒859-512 長崎県平戸市岩の上町
URL https://www.castlestay.jp/
──────────────────────

著者の他の記事を読む

 

佐藤 洋介(さとう ようすけ)
株式会社グロウスブレイン 代表取締役

大学(日本史専攻)を卒業後、人材コンサルティング会社に16年間勤務。ソフトウェア開発会社、採用業務アウトソーシング会社、フリーランスを経て、起業。中小企業の人材採用、研修に携わる一方で、大学での講義、求職者向けイベント等での講演実績も多数。人間の本質、行動動機に興味関心が強い。
国家資格キャリアコンサルタント、エニアグラムファシリテーター、日本酒ナビゲーター。

感想・著者への質問はこちらから