第172回「日本劣等改造論(4)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― “共時性”という治療薬(後編)―

劣等を生み出した合理性の正体をあばき、劣等ウイルスの治療薬を作ってみよう。

合理性の祖はデカルト(1596-1650)。「我おもうゆえに我あり」で知られている哲学者・数学者である。デカルトの合理主義は、人類に科学と金融をもたらし、物質文明を大いに発展させた。一方、そのデカルトの対極を説いたのがパスカル(1623-1662)である。「人間は考える葦」という言葉で有名な哲学者・数学者である。中学理科で習ったパスカルの原理を発見した人でもある。

合理性の対極を説いたパスカルの哲学から、劣等ウイルスの治療の糸口を探してみよう。

二人のスタンスを3つの視点で対比させてみると、

デカルト パスカル
 人間の理性は・・ 万能である 限界がある
 世の中は・・ 全てに原因と結果がある 偶然によって左右される
 迷ったら・・ あくまでデータ重視 時には直感を信じる

この対比でわかるように、デカルトは人間万能主義、科学万能主義である。一方、パスカルは人間の限界を知り、偶然が世の中を動かし、時には直感が新しい道を生み出すといっている。

デカルトは人間を中心にした哲学であり、パスカルは人間を「葦」に喩えたことからもわかるように自然を中心にした哲学である。パスカルの哲学は、日本人の感性と近いものがないだろうか。日本人の古くからの信仰は八百万の神であり、経済も腐らず増えるお金でなく、腐る米を中心にしていた。

では思考を司る哲学から、感情を司る心理学に視点を向けてみよう。カウンセリングの祖であるユングは、心の病を治療していた時、どうしても治癒できない壁にぶち当たった。クライアントの心の病の原因となっている思考を解きほぐしながら、「そんな考え方していると自分に損だよ」と合理的に説明し、クライアントが深く納得しても病は一向に治らない。原因と結果という合理性の薬が効かないのだ。

ユングは心の治療法を東洋の世界に探した。神秘なる精神性を感じる東洋。その精神世界に答えはないのか。東洋で出会った仏教をはじめとした東洋思想の中に、合理性とは対極の偶発性という世界があることを発見する。原因があって結果が決まるといった合理性ではなく、偶発の中に以前から必然的に決められていたような結果がある。

たとえば、雑誌や本を手にする時、「自分にトクなこと書いてないかな」「楽に儲かる情報がないかな」といつもは損得勘定で読んでいるのに、たまたま時間があってふと手にした雑誌や本にズキュンと来る。今このタイミングでこれを読むことが決まっていたような、そんな運命を感じる・・。

ユングはこれを「シンクロニシティ」という言葉を使って、偶発性の理論を作った。日本語では「共時性」と言われている。「意味ある偶然の一致」といい、出来事が起こった後に意味が見つかるような、原因と結果の法則を逆張りするような理論。ちなみに、理論とは「合理性の高い論」であるので、共時性理論という言葉自体が、そもそも矛盾を抱えている。ユングがこの理論を発表するのを長らくためらっていたのも分かる。

劣等ウイルスにはこの共時性が薬となって効く。なぜなら、私の運命という「宇宙で唯一のもの」を強く感じるからである。この共時性ワールドでは比べるものが消えてしまうのだ。まさに天上天下唯我独尊!

共時性は感性だから意識して感度を上げればいい。さあ、止まって感じてみよう。このコラムを読んだこの今というタイミングを。今じゃなきゃいけなかった感じ。ベストタイミングな感じ。ピンポイントな感覚。これを知ってしまったからには・・流れが変わっていく、未来は僕らの手中にある、このマイウェイ感。

合理性は日本人には不慣れな感性。無理して身につけているので疲れないだろうか。長い歴史の中で風土として備わっている共時性を磨く方が、ラクだし、成果が出るはず。

あっ、また合理的に考えてしまった。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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