さよなら採用ビジネス 第62回「ズレの根源」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第61回『リストラされるのはどの部門?』

 第62回「ズレの根源」 


安田

石塚さん、言ってましたよね。「IQが20違うと会話がかみ合わない」って。

石塚

はい。その通りです。

安田

もうちょっと詳しく教えてほしいんですけど。患者さんとコミュニケーションするのが下手なドクターとか、関係があるんですか?

石塚

もう、それが原因ですよ。

安田

やっぱりそうですか。

石塚

IQが20〜25違うと、そもそもコミュニケーションが成り立たないんですよ。

安田

それは使ってる単語が違うとか、そういうことですか?

石塚

うーん、何に例えればいいかなあ。たとえば3,000ccの大排気量の車と660の軽自動車が「よーいドン」で全力疾走したら、差ができる一方じゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

こっちは普通に走ってるつもりでも「来ねえなあ」「いや、こっちは一生懸命走ってます」っていう、そういう差ですよ。絶対的な能力が違うから。

安田

理解力に差があるっていうことですか?

石塚

理解力にも差がある。こっちはパッパッとスピーディーに話をしたいのに、最初の1ストローク目で「そもそも言ってることがよくわからない」みたいな。

安田

早い方が遅い方に合わせればいいのでは?

石塚

それが難しいんですよ。使っている語彙も違うし、展開のスピードも違うし、合わせようにも合わせられない。

安田

大企業出身の人が中小企業で浮いちゃうのも同じ理由ですか?

石塚

そのとおりです。池上彰さんみたいな人が重宝される理由と同じ。

安田

池上さんは、なぜこんなに重宝されるんですか?

石塚

池上さんって、特別に物知りなわけではないんですよ。

安田

もっと専門的な人はたくさんいますもんね。

石塚

いくらでもいるんですよ。ただそういう人たちは、一般の人相手のコミュニケーションができない。

安田

大企業の社員も同じだと?

石塚

大企業って、本社のレベルと子会社のレベルがぜんぜん違うわけですよ。だから本社の人が子会社の製造現場に行っても、ぜんぜん指示が伝わらない。

安田

それだけ頭がいい人なわけですから、「分かりやすく指示してあげないと話通じないよね」って考えないんですかね。

石塚

IQの高い集団って独特の快感・快楽がありまして。

安田

快感?

石塚

同じフレームワークで議論できたり、スピーディーなコミュニケーションがテンポよくできるって、快感・快楽なんですよ。

安田

へえ。

石塚

大企業で「おまえ、頭いいな」っていうのは、言い換えると「ストレスのないコミュニケーションができて楽だよ」という意味なんです。

安田

なるほど。

石塚

逆に言うと、コミュニケーションがテンポよくないと「ああ!オレの言ってること分かんねえかなあ」って非常にストレスになってしまう。

安田

イライラすると。

石塚

実は頭のいい人たちって、似たようなレベルの人とコミュニケーションするのは得意なんですけど。知的レベルに隔たりがある人とコミュニケーションをするのはものすごくヘタなんですよ。

安田

遅い球だとうまくキャッチボールできないってことですね。

石塚

戦略コンサルティングファームに長くいた人が事業会社に行って失敗するのは、コミュニケーションができないからなんですよ。

安田

能力は高いのにコミュニケーションが苦手だと。

石塚

それも重要な能力なんですけどね。大企業の人が出向先でいじめられたり、のけ者にされたりするのは、コミュニケーションを埋めるだけの能力がないから。

安田

「IQが高い」イコール「頭がいい」とは限らないってことですか?

石塚

「頭がいい」の定義っていろいろあると思うんですけど。コミュニケーションに関しては安田さんの言うとおりです。頭がよくないんです。

安田

プライドが高くて「IQが低い人間に合わせてられるか」って感じですか?それともコミュニケーションできてないことに気づいてないんですか?

石塚

後者ですね。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。自分では気がついてない。

安田
へぇ。じゃあ、自分では「コミュニケーションできている」と思ってる?
石塚

思ってるんですよ。

安田

たしかにお医者さんもそんな感じですよね。

石塚

お医者さんも高IQのビジネスマンも、必ずこう思ってるんですよ。「なんでわかんないだろう?」って。

安田

じゃあ大手をリストラされた人は今後どうなるんですか?コミュニケーションできないとしたら中小企業には行けないですよね。

石塚

二極化すると思いますね。IQの幅があってもコミュニケーションができる人と、高IQ同士でグループを形成する人。

安田

コミュニケーションできる人もいると。

石塚

すごい少数派でしょうけど。低IQの人とのコミュニケーションをマスターする人は出てくるでしょうね。

安田

それ以外は高IQ同士でくっついていく?

石塚

はい。前にも話しましたけど、それってすごく気持ちいいんですよ。「あなたもどこどこ会社でしたか!」みたいな(笑)

安田

そこで固まった人たちって、新たな価値を生み出せるんですかね?

石塚

無理でしょうね。稼げないエリート集団になっていくと思います。

安田

池上彰さんを批判してる専門家みたいな。「大して知らないくせに。あんな誰でも知ってることを話して」って。

石塚

そこじゃないんですけどね、池上さんの価値は。「今でしょ」の林さんもそう。

安田

林さんも東大卒だからもちろん頭いいんでしょうけど。相手のレベルに合わせて解説してあげるのが上手ですよね。

石塚

そこに莫大なマーケットがあるんですよ。

安田

それが分かってないってことですか?

石塚

分かっててもできないと思います。これは技術だから。

安田

なるほど。逆に低IQの人だけの組織って、今後どうなるんですか?生き残っていけるんですか。

石塚

むしろ成功してる会社のほうが多いですね。

安田

それはどうして?

石塚

IQが高くない人の中には、勉強は苦手だけれど「コミュニケーションは天才的にうまい人」とか「普通の人が考えないようなことを考える人」とかがいるんですよ。

安田

学校の勉強と仕事で求められる要素って、違いますからね。

石塚

80年代までの工業社会ではIQの高い人材が必要だったんです。でも今は逆に振れちゃって「考えたことないようなことを考えろ」とか「抽象度の高いことに取り組め」とか。

安田

求められる能力が変わっちゃったと。

石塚

そういうことです。高IQの人って、そういう仕事にはすごく不向きなんですよ。

安田

答えを覚えるとか、答えに早く行き着くとかっていうのが得意分野ですよね。

石塚

そうなんですけど。そういう人材はだんだん求められなくなってます。

安田

ということはIQで判断すること自体が、もうズレてるってことですか?

石塚

かなりズレてるんですよ。にもかかわらず、新卒一括採用では学校偏差値でふるい分けてるじゃないですか。

安田

そこがズレの根源だと。

石塚

そのズレが社会全体のズレを生み出してる。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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