7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第90回『確信犯は誰?』
第91回「プロ経営者の境目」
昔マクドナルドの社長をやってた「プロ経営者」の原田さん、ご存知ですか?
ああ、はい、アップルコンピュータの。
基本的に日本の大企業って、下から上がっていくサラリーマン社長ばかりですよね。
おっしゃる通り。
「だからダメになる」「海外みたいに経営のプロを連れてこないとダメだ」って言われてて。
僕もそう思いますね。本物の経営のプロが必要。
原田さんは、日本では数少ない「プロ経営者」だと言われてますけど。石塚さんから見たらどうなんですか?
実力があるかないかだったら、実力ある方だと思います。
それはどんな実力なんですか?
やっぱり「短期間で結果を出す力」ですね。
ゴーンさんみたいな?
まあゴーンさんは色々ありましたけど。そうです。
でも短期間で結果を出そうと思ったら、コストをバーンって削る以外に方法はないと思うんですけど。
もしくは原田さんがやったように、少し手法を変えるとか。
どんなことをやられたんですか?原田さんは。
簡単に言うと、まず直営店をFCに売って直営店の数を絞って、仕組みで回るようにした。
仕組みで回るように?
「売上は来店客数×単価だ」ってことで、本部主導の大規模なマーケティングを繰り返して、クーポンなどを“撒き餌”にしながら集客していった。
なるほど。
で、お客さんが来てくれたら、季節ごとの商品を投入して単価を上げていく。
来店客数を増やして、単価も上げていったと。
その通り。戦略がハマった時はすごかったんですよ。「クォーターパウンダー」とか覚えてます?
覚えてます。肉のパテが巨大なやつ。
多分あれがピークだったと思います。
続かなかったってことですか?
原田さんの誤算もあるんでしょうけど。外食産業ってお客が飽きるのがすごく早いんですよ。
それはすごく思います。「外食の店舗をつくって、確実に黒字にしろ」って言われたら自信ないですもん。
利益を出し続けるのはすごく難しいです。
ですよね。で、プロ経営者についてなんですけど。
はい。
本当にひとりの力だけで、会社ってそんなに劇的に変わるんですか。
どういう意味ですか?
商品開発からマーケティングからマネジメントからを、ひとりで変えていけるというのが、まず信じられない。
キーになる部分をひとりが担うってのは、あると思いますよ。
そんなすごい人が企業を転々とするんですかね。どうもしっくりこない。
局面を打開しなきゃいけない時に、外から連れてくるってのは有効な方法です。
たとえばリストラとか?
もちろん、そういう時も。
それだったら分かります。中の人ではなかなかリストラできないので。
基本的にはプロ経営者って、野球にたとえると「先発完投」じゃないんですよ。あくまでも中継ぎ。
中継ぎですか?
そうです。有事にワンポイントで中継ぎをやる感じ。
ということはゴーンさんは長すぎたと。
そう。長すぎたんですよ。
なるほど。じゃあ削って一気に利益を出すところまでは良かったと。
そうです。たとえば原田さんもクォーターパウンダーあたりで辞めてれば、もっと展開は違ったと思う。
でも正直いって「クーポンを撒いて来店客数を増やす」とか「そこに新商品を投入する」とか、普通の対応だと思うんですけど。
いやいや。売上高4,000億の日本のトップ企業を蘇らせるって、普通じゃできない。
でも来店数を増やすとか単価を上げるとか、普通に考えたらそこに行き着きませんか?
行き着いても実行できない。短期間に社内のキーパーソンの気持ちをつかむとか。チーム化して推進力をつくるとか。やるべき事をわかりやすく示すとか。
なるほど。原田さんはその能力が高いと。組織全体を動かす力ってことですね。
そうです。そこが凄い。
それは確かにすごいですね。
当時のマクドナルドのホームページなんて、すごくわかりやすかったですよ。「われわれはこうします」というものが。
なるほど。じゃあステージと役割が合ってればプロ経営者は機能するってことですね。
マクドナルドに関していえば前半は成功したと思います。でも後半は読み間違えちゃった。1勝1敗ってとこでしょうか。
プロといえども100パーセント成功するわけじゃないってことですか?
そういうことですね。後半の失敗部分が今でも負の遺産として残ってますから。
じゃあ実力が全くないのに「社長として迎えられる」なんてことはあり得ない?
いや、あり得ます。
あり得るんですか!
はい。たくさんいますよ。
それって、どういう理由で社長に迎えられるんですか?
まず肩書きですね。
肩書き?
はい。必ず1個ぐらいは実績があるんですよ。「こういうことをやりました」っていう。
でも実績があるのなら実力があるってことでしょ?
いえいえ。単なる運です。
運で業績上がりますか?
たまたま行った時期が良かったっていう。結構あるんですよ。
「誰がやってもこんなの伸びるだろう」みたいな。
おっしゃるとおり。
それでも肩書きになっちゃうんですか?
なるんですよ。恐ろしいことに。
なんと!
1つの目安として、成功本を出すようになったらプロ経営者はダメですね。
それはどういう理由で。
過去でしか食えないという自覚があるってことです。
なるほど。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。