2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第191回「疑わないのはなぜ?」
第192回「流動化なくしてダイナミズムなし」
Amazonの創業者って、もう辞めてるみたいですね。
もう身を引いてます。創業者が辞めてもどんどん伸びてるのがAmazonのすごいところですよ。
日本では珍しいケースですよね。
リクルートは有名ですよ。創業者が辞めてもどんどん伸びてる会社として。
ソフトバンクはどうですか。孫さんも一度辞めようとしてましたけど。
孫さんがいなくなったら終わりでしょう。
そうなんですね。
Amazonは次々と新規事業をくり出すし、撤収も早いし、創業経営者の影響をあまり受けないで、どんどん会社が進んでる。
アップルは「ジョブズがいなくなったら終わりだ」って言われていましたけど。結果的には伸び続けてますね。
でないと世界では生き残っていけないです。
どうして日本は創業者がやり続けるんでしょう。
雇用契約で縛りすぎているから、というのが僕の仮説です。
どういうことですか?それは。
労働力の流動性に乏しいので、メンバーの入れ替えができないんです。
新しい経営者が来ても組織を入れ替えられないってことですか。
入れ替えられない。外資だとジョブポストが空けばどんどん取りにくる。いい話があればどんどん出て行くし。適正な人の入れ替わりが事業の躍進を支えてるわけです。
組織の入れ替えなしに事業の躍進はないと。
ないですね。上から下まで相も変わらずのメンツが出てきて。そりゃあ革新的なことなんて生まれない。
ZOZOの前澤さんはスパッと売っちゃいましたよね。
ああいう人は稀です。
ワタミの社長も戻ってきたし。
社長のメンタリティーは大きいです。だけど一番は雇用流動性の問題。企業のダイナミズムを削いでいるのはそこだと僕は思う。
そっちですか。
ソフトバンクの新卒採用選考にその一端がよく出てます。
どんな選考基準なんですか。
筆記試験重視です。
へえ〜。
孫さんはあんな感じのイメージだけど、実は現場は非常に官僚的で。チャレンジャブルな雰囲気に乏しい。
官僚的なんですか。意外ですね。
官僚的でちょっと冷え冷えして。頭はいいかもしれないけど若手に仕事を渡さない。だから上にあがるとポジションの保持に走る。ダイナミズムがない。
Amazonはどんな組織なんですか。物流のイメージしかないんですけど。
Amazonはたしかに物流をたくさん持ってます。だけどサーバーも世界一持ってる。宇宙事業もやってれば金融事業もやってる。とにかく事業バリエーションが豊富。
人の入れ替わりも結構あるんですか。
はい。常に優秀な人が来て、ある程度出て行きもする。常に事業とともに人が入れ替わっている感じが適正です。いつも同じメンツで同じ仕事をしてたら伸びない。
問題は上の方の入れ替わりですよね。若手が入れ替わってもそんなに影響はないでしょう。
いや。最近のIT・ネット系は優秀な20代にどんどんポジションをアサインしてますから。ジョブポスティング制というか。
日本の大手もジョブ型雇用が増えてきましたね。
まだ一部ですけど。ジョブ型に切り替えている会社はいいところが出てきてます。
そうなんですね。
リクルートもそれに近いところがあって。たとえば「じげん」という会社はリクルートの新規事業創出プロジェクトから生まれて、それをMBOして、いまは東証1部。
へえ〜。
本体から人も事業もどんどんスピンオフ・スピンアウトしていく。そういうダイナミズムがあるのかないのかの差ですね。
トップが変わるかどうかより、そっちのほうが大事ですか。
僕はそう思います。
たとえトップが居座ったとしても、組織全体が流動化されていれば、社内からどんどん事業は生まれてくると。
まあそれも含めてトップの器量なのかもしれませんが。
私がリクルートにいた頃は社内からどんどん事業アイデアが出てました。
リクルートは今でもそういう社風ですね。社内からアイデアを募る制度もあって。
とはいえ20代の事業責任者はいなかった気がします。
これからは出てきますね。
へぇ~。
僕はYouTubeの効果が大きいと思っていて。
YouTubeですか。
大学時代に会社ひとつやってる人って、そんなに珍しくないから。
確かに。増えてきてますね。
実際にやってる人の動画が見れるじゃないですか。
はい。
つまり入社してすぐビジネスできるような人が、一定数出てきてるわけですよ。リクルートもそういう人材をとってます。
昔はそんな人いなかったですもんね。
いないです、いないです。みんな横一線で。
今でも学校に行って、クラブ活動して、バイトしているだけって人もいますよね。
だから差がつくんですよ。自分で商売やってるような子と。
22歳で既に相当な差がついてると。
はい。事業を任せられるような20代が着実に出てきてます。
いわゆる大手はそういう人を採用しないんですか。
いまの制度では無理でしょうね。雇用契約で囲い込むということをやめない限り、難しいと思う。
ずっと囲い込むのは無理ってことですよね。
そういうことです。DeNAという会社があるでしょ。
はい。
新卒でとった優秀な社員が辞めていくときに、昔は南場さんも全力で引き留めてた。だけれどいまは「うーん痛いんだけれど……なにやるの?」って。
ほう。
「じゃあ、後押しするから独立しなさい。そしてシナジーつくろう」って方向転換してます。
どうせ止めても辞めちゃいますもんね。
優秀な才能をひとつの会社で囲っておくことのほうが、お互いにとってマイナスが大きい時代なんです。
大企業も外の優秀な人材をもっと活用すればいいのに。
抱えてる社員が重すぎるんですよ。やっぱり有期契約にするしかない。10年後に確実に辞めなくちゃいけないとしたら、人材のダイナミズムが相当変わってくると思う。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。