地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第19回 「ケーキ作り」に対する社員とオーナーの違いとは?
マイクロ起業を応援するための1店舗目として、東広島市にケーキ屋さんをOPENされたスギタさんですが、ちょっと気になることがありまして。
はい、なんでしょう。
オーナーさんになるのは、スギタさんのお店で12〜13年働いてらっしゃった方なんですよね。つまりケーキ作りの仕事には既に就けているわけで、わざわざ独立する必要あるのかなって。雇われた状態と独立した状態って、そんなに違うもんですか?
あぁ、それは違うと思いますね。雇われている場合は「このテイストで、この仕上げで、こういう商品を作る」というのが求められます。要は、雇われているお店の商品のコピーを作る感覚ですよね。
ああ、なるほど。「ケーキを作る」ことはしているけれど、「自分が作りたいケーキ」を作っているわけではない、ということですか。
そうですそうです。だから雇用されているか事業主かで、表現の幅は大きく変わってきますね。それにパティシエを目指す人って「売り場全体」をどうデザインしていくかということに興味があるものなんです。
ははぁ…単にケーキが作れればいい、ということじゃないと。
そうそう。ショーケースの中にどんなお菓子が並んでいたら可愛いかなとか、焼き菓子を置く棚はどんなデザインだと素敵かなとか、そういう店全体のイメージを実現するためにケーキ屋さんをやりたい、っていう人が多いと思いますね。
なるほどなるほど。ケーキ作りだけではなくて、空間作りまで含めて全部やってみたいんだと。
そうです。でもそれは雇われている状態ではほぼ不可能ですよね。複数の社員がいて、それぞれのやりたいことを全部叶えていたら、お店の世界観もバラバラになっちゃいますし。
そりゃそうですね(笑)。それで売上が下がっても、社員さんたちが責任取ってくれるわけでもないし(笑)。
そうそう(笑)。なので、基本的にはオーナー1人のコンセプトで成り立っているお店の方が、世界観もはっきりする。そうするとお客様にも選んでいただきやすいし、それが他店との差別化にも繋がるんですよ。
なるほどなぁ。ちなみにメニューのレシピもすべてオーナーが作るんですか?
ふーむ、じゃあ、雇われている状態でもある程度「自分の作りたいケーキ」は作れるじゃないですか。
うーん…そうとも言えるんですけど、最終的な仕上げはやっぱり「ハーベストタイム的な仕上げ」になるんですよ。1から10まで自分の思い通りにはできないというか。
なるほど、そりゃそうか。ハーベストタイムで売る商品なんだから、お店のコンセプトから外れたものは売れませんもんね(笑)。
そうなんですよ(笑)。例えば「抹茶のわらび餅を作りたいです!」って試作品を持ってこられても、「いや…これはハーベストタイムのショーケースには並べられないでしょ」ってなってしまうので(笑)。
笑。ちなみにメニューのレシピが決まったら、それ以降は社員がアレンジをしたりしちゃダメなわけですよね。
はい、それはもちろん。ショーケースの中に並んでいるケーキの大きさがまちまちだったり、味が微妙に違っていたりしたら絶対ダメなので、毎日全く同じレシピで作ります。そういった「再現性」は、パティシエが最も重視している点ですから。
ははぁ。でも、ということは、1度メニューとして決まったら、「ケーキ作り」というより「作業」のようになっていってしまいませんか。
まさにそうなんです。だからどうしても飽きてくる。新商品のアイディアを出す気力もだんだん減っていってしまい、最終的には「もう辞めたいです」となってしまう人も多くて。そこがジレンマでもあるんですよね。
ふーむ。スギタさん自身も修行時代はそういう想いをされてきたんですか?
僕の場合は、以前もお話したとおり、ちょっと特殊な働き方をしていたので飽きる暇がなかったといいますか…(笑)。午前中はケーキ屋さん、お昼からはカフェでランチ作り。で、ランチタイムが終われば今度はホールで接客。それが4年間(笑)。
確かにそれだけバラエティに富んだ働き方だったら、飽きる暇がなさそうです(笑)。でも普通のケーキ屋さんだったらそうはいきませんよね?
無理でしょうね。しかもすごい繁盛店だと「ロールケーキ作り」「バームクーヘン作り」というようにセクションが分かれるんですね。そうすると、朝から晩までずーっとロールケーキやバームクーヘンだけを作り続けることになるんですよ。
流れ作業のように単調なことを繰り返していくだけになってしまうわけか。そうなるともはやクリエイティブの要素はゼロになってしまいますよね。
そうなんですよ。だからこそ、仕事の中でどうやって彩りや変化を作っていくかが、すごく大事なんだろうなと思っています。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。