第121回 効率を捨てて見えてきた「人生の豊かさ」

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第121回 効率を捨てて見えてきた「人生の豊かさ」

安田

年をとると時間感覚が変わるとよく言われますけど、私の場合、年をとるごとに生き方がすごく丁寧になっている気がするんです。


藤原

わかります。私も少しずつそっちの方向に行っている自覚があるかもしれない。

安田

ああ、やっぱり。掃除なんかも、若い頃はできるだけ手間をかけずにやっていたのが、今はちゃんと片付けてから丁寧にやれるようになったりして。


藤原

「丁寧に生きること」の方が心地いいと感じるようになってきますよね。若い頃は想像もしなかった感覚ですけど。

安田

残りの寿命が短くなるわけですから、むしろ焦りそうなものなんですけどね。若い頃の方が「これに1時間もかけるのか」という焦りがあった気がします。


藤原

そうなんですよね。今の方がよっぽど時間は貴重なはずなのに、焦りがない。

安田

これは衰えなのか成長なのかと、ふと考えるんです。藤原さんはどちらだと思います?


藤原

成長でしょうね。若い頃には感じられなかったことを感じられるようになったからこその変化だと思うので。高速道路で移動するのと自転車で走るのとでは見える景色が全然違うじゃないですか。あの感じに近いかもしれません。

安田

ああ、なるほど。ゆっくり進むことで初めて見えるものがあると。確かに若い頃の自分にはその感覚がまったくなかったですね。


藤原

若い頃はゆっくり行っても感じ取れるアンテナがなかったから、早く行く方が効率的だと思い込んでいた。でも丁寧に生きることで今まで見えなかったものが見えてきて、それが豊かさにつながっているんだと思います。

安田

確かに。私自身、丁寧に掃除ができたり、自分のことが人並みにできること自体が嬉しくて。そういうことも豊かさの一つなんでしょうね。それが成長だとすると、本当の意味で大人になれたのは55歳を過ぎてからかもしれないなと。


藤原

ほう、ずいぶん具体的ですね。

安田

55歳で子どもが生まれまして。昔子どもの世話をしていた時とは感じ方が全然違うなと。昔はオムツ替えも面倒くさくてやりたくなかったし、幼稚園の送り迎えなんてしたこともなかった。でも今はその時間そのものが楽しくて。


藤原

ははぁ、面倒だと感じていた同じことが、全然違う体験になっていると。幸せの青い鳥みたいな話ですよね。最初からそこにあったものに、ようやく気づけるようになった。

安田

若い人に話したらじじくさいって言われそうですけどね(笑)。


藤原

笑。でも事実そうなんですよね。

安田

一方で、藤原さんはまだビジネスの第一線にいらっしゃるじゃないですか。丁寧さとスピードの両方を求められる立場で、そのバランスってどうされているんですか?


藤原

難しいところですよね。実際、3時間かけてその仕事を完了させるよりも1時間で8割終わらせた方がいい場面もあります。ただやっぱり、安田さんが仰るような丁寧さの価値もよくわかるし、それが人間としての成熟なんだろうなとは感じています。

安田

その両立がすごく珍しいなと思うんです。私の周りでは、丁寧な生き方になっていく人って最前線から少し離れた場所に立っている方が多い。バリバリの経営者は「そんな余裕はない」と若い頃の感覚のままだったりしますから。

藤原

ああ、確かに。私の場合は切り替えているんだと思います。昨日は休日だったんですが、ゆったり靴磨きをしてその時間をすごく楽しんだ。でも仕事の現場ではスピーディーに成果を出す必要がある。そこは意識的に切り替えていますね。

安田

なるほど。私はもしあのまま経営者の立場だったら、今のようにはなっていなかった気がします。子どもを幼稚園に送る時も、「この時間がもったいない」なんて感じてしまっていたんじゃないかと。

藤原

今の立場だからこそ丁寧さに目が向くようになったんでしょうね。忙しさから距離を取れたことで初めて見えてきたものがある。それって以前お話しした思考のスイッチにも通じる気がします。

安田

ああ、確かに。ただね、年をとったからといって丁寧になる人ばかりじゃなくて、逆にますます効率化を追求する人もいるじゃないですか。その違いはどこで生まれるんでしょう。

藤原

うーん、どうなんでしょう。仕事の忙しさだけが原因ではない気がしますよね。

安田

私が思うのは、過去の失敗をちゃんと受け入れて乗り越えた経験が関係しているんじゃないかと。藤原さんも前の事業で挫折されたと仰ってましたよね。ネガティブな部分もひっくるめて受け入れたときに、何かが変わる気がします。

藤原

そうかもしれませんね。私の場合は、社会が求めるような正解を追い求めてもそこに自分のゴールはないと気づいたことが大きかった。そこから本質に立ち返る癖がついて、効率重視の場面でも「何のために効率を求めているのか」は常に考えています。

安田

やっぱり人生の中でごまかしきれない挫折や失敗って必ずありますよね。流れの中で生きていればどこかで壁にぶつかる。それを正面から受け止めるか、見ないふりをして生きるかの違いのような気がします。

藤原

なるほど。自分にとって都合の悪いことも含めて受け止められるかどうか。丁寧に生きるか効率を追い続けるか、その境目はどうやらそのあたりにありそうですね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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