物欲がなくなってきている経営者に出会う機会が増えた。何を隠そう私もそのひとりである。ある程度稼いできた。欲しいものは大体手に入れた。やりたいこともやってきた。歳もとった。もう物欲を目的には働けない。では何のために働くのか。社員とその家族のため?お客さんのため?社会のため?
もちろん生きていくにはお金がかかる。自分と自分の家族のためにもある程度は稼がなくてはならない。だがそれだけなら今ほどしんどい事をしなくてもいいのではないか。人のストレス。お金のストレス。物価高のストレス。先行き不安のストレス。いったい自分は何のためにこんなことをしているのだろう。
もしこのような悩みを抱えているとしたら、とても正常だと思う。命に関わる危機感やメラメラ湧き上がる欲望。そういうものがあれば目先のストレスなど簡単に乗り越えていける。だが現実はそのどちらでもない。不安はあるが生きていくのに支障はないし、欲望やエネルギーも湧き上がってはこない。
実は経営者だけでなく、日本人の多くは今このような状態の中で生きているのだと思う。安くて美味しい食事も、安価でおしゃれなファッションも、そこら中に溢れている。高価なブランド品が欲しいとも思わない。特に贅沢をしたいわけでもない。ちゃんと仕事をすれば生きていくには困らない。
今はそういう時代なのである。生きていくにはお金が必要であり、働くこと自体が嫌なわけではない。だから最低限の仕事はするし、約束したことはちゃんとやる。だけどそれ以上に仕事を頑張る理由がない。そういう人を見て経営者は物足りなさを感じてしまうが、実は自分自身も同じなのである。
はっきり言おう。もうお金で人は動かない。いや、正確にいうと動いてはくれる。だがそれだけ。仕事への情熱や成長意欲を求めても、反応が薄い。もっと稼ごう。もっと成長しよう。もっとエネルギッシュに生きよう。そのセリフは自分自身に返ってくる。では自分はどうなのか?と問うてみて欲しい。
今は稼ぐことに目的が必要な時代なのだ。経営者の仕事は高い報酬を払うことだけではない。社員を成長させることだけではない。一番大切なのは「なぜこの仕事をするのか」という問いに応えること。働く人に意欲とエネルギーが湧いてくる答えを示すことである。稼げる、成長できる、では足りないのだ。
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