7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第28回「人材は資産から負債に変わる」
もし石塚さんが日本政府から「大企業の40代50代があぶれてくるから、中小企業になんとか放り込んでくれ」って頼まれても、無理ですか?
まあ、結論は無理ですね。
何割ぐらいだったら可能ですか?
そのままのマッチングだとほとんど無理ですね。ただ、みなさんバカではないから、何割かは適応し始めると思いますけど。
昔からすごく不思議だったことが、あるんですけど。
何ですか?
起業して成功してる人って、エリート人材が少ないじゃないですか。
ものすごく少ないですね。
中小企業出身とか、あるいは「学歴なんかぜんぜんなくて」みたいな人がほとんど。
いい学校出て、いい会社に行くようなエリートは、わざわざそれを捨てて自分で会社なんかつくりませんよ(笑)
なるほど。でも三木谷さんみたいに、エリートが会社をつくればあんな大きくなるわけじゃないですか。
たまたまですよ。
大企業に行くようなエリートが起業したら、みんな大成功するんじゃないかと思ってたんですけど。そんなことないですかね?
ないと思います。
それはやっぱり、総合力みたいなものがないからですか?
安田さんもご記憶にあると思うんですけど、2000年のITバブルの時に三木谷さん的な人っていっぱいいましたよね。
そういえば、いたような気もしますね。
ソニーとか、IBMとか、リクルートを飛び出して、IT業界で起業したエリートがいましたけど、残らなかったですよね。
たしかに「リクルート出身者は凄い」ってよく言われますけど、有名な社長ってあまりいないですよね。
リクルート出身は、雇われ社長とか雇われ役員が多いですね。
雇われて何年かで、スパッと切られたりする人も多いです。
雇われ社長で20年以上やれた有名な人なんて、セブンの鈴木敏文さんぐらいじゃないですか。
最後には結局、追い出されましたけどね。
あの内幕は知ってるので、今度飲んだ時にお話しします(笑)。
起業しても上手くいかないし、中小企業にもマッチしない。じゃあ40〜50代の大手出身者ってどうしたらいいんですか?
いちばんの問題は、大手の40~50代って生活コストがかかることなんですよ。
生活コストですか?
子どもの教育費と住宅、あと生活レベルで。いい場所に住んでますし、いい学校にも通わせている。
今まで800万くらいで生活してた人が、400万って言われたら生活ができない?
いやいや安田さん、40代50代で年収1,000万以下なんかいませんよ。大企業には。
えっ、いないですか!?
下で1,200、上で1,700~1,800ですよ。
そんなに、もらえるんですか?大企業って。
はい。
それを抱えて利益出すって、やっぱすごいですね。
だからメスを入れたいんですよ。
なるほど。
テールエンドで1,200万ですよ、40代終わりぐらいで。いちばん出世頭だと1,700~1,800、役員手前で2,000万ぐらいが常識じゃないですか、有名大企業は。
すみません。大手企業の給料は興味なかったんで、ぜんぜん知りませんでした。
仮にその中間をとって1,500としましょう。1,500のサラリーを維持する、まず絶対無理です。
そうですよね。
だから、2つの問題があって、1つは前回お話しした適応力の話。まず、とにかくどこかの中小企業で、試行錯誤と失敗の経験をしなきゃいけない。
ということは「雇いながら仕事を教える」ことになるわけですね、中小企業は。
まあ、そういうことですよね。もう1つは、生活コスト自体を下げるという問題。
どのくらいまで、下げればいいんですか?
どこまで下げればペイするかというと、たぶん700万だと思います。
700万?
はい。700万だったら、雇う中小企業は結構出てくると思います。1,000万は難しいです。
でも、700万だったら、世の、中小企業転職組からしたら、ものすごい破格の条件ですよね。それでもなかなか「うん」とは言わないんですか?
まず絶対無理ですよ。「オレをバカにしてんのか?」ってみんな言いますよ。
え!そうなんですか?
プロ野球の年俸を下げる限界って、25パーセントでしょ。
確か、下限が決まってましたよね。
仮に1,500万として25パーセントって375万ですから。下げても1,125万までしか下げられない。それを700万ってあり得ない話なんです。
でも下げないとマッチングしないんですよね?
マッチングでいうとそのへんだと思います。
1500万の給料が払えない、払う価値がないから、会社を出ることになるわけじゃないですか。
その通りです。
「オレにはその金額の価値がなかったんだ」とは思わないものなんですか?
まあ、その瞬間になるまで、本人は自覚してないでしょうね。「この企業に属して、これだけのサラリーをもらってる」というのが、彼らのプライドそのものなので。
誰かが現実を教えてあげた方が、いいんじゃないですか?
あんまり、ここをいじめると、みんな鬱になっちゃうんで。
いじめるとか言われても・・・
大企業の50代は温室でずっと育ってらっしゃるんで。心身のバランスを崩しやすい年齢でもありますから。
じゃあ、どうするんですか。他人事ながら心配になってきますよ。
だから僕は前から言ってたんですよ。バブル期入社組の再就職問題。誰も当時は耳を貸してくれませんでしたけど。
やっぱバブル組は、かなり分不相応な会社に入ってるんですか?
いや、単純に有名企業が、昭和60年代に新卒採用し過ぎたって話ですよ。
1,000人単位でしたもんね。
その時は、まさに景気がドーンと、「日経平均4万台突入か」みたいなことを、みんな本気で思ってたわけじゃないですか。
思ってましたね。「日本列島を売れば、アメリカが2つ買える」って言われましたから。
1,000人2,000人って新卒を採ったわけですよ。それが経年劣化しちゃった。
まさに「採ってしまった」という感じですね。
当時は資産だったと思うんですよ。優秀な学生1,000人という資産だった。ところが今はバランスシートでいうと負債に変わってしまった。
資産が負債に変わったと?
右と左、逆になっちゃった、ということですよ。
顕在化してなかっただけで、必ず起こる問題だったということですか?
一時期、不良債権問題って、あったじゃないですか?
ありましたね。小泉首相と竹中大臣の頃。
あれは金融の問題でしたけど、実は「ヒューマンキャピタルの不良債権問題」も、ずっと抱えてたんですよ。
単に処理してなかっただけだと?
そうです。今まさに、その処理を始めてるんですよ。1500万円に見合わない不良債権の処理を。
でも、そうなってくると、働く場所はないし、鬱になられたら国としてもまたお金がかかるわけですよね。
そうなりますね。
だったら解雇規制なんか緩めずに、大手にそのまま押し込んでおいたらいいじゃないですか。
それではもう、大企業が持たないってことですね。
まだいっぱい、お金を溜め込んでそうですけど。
いや、もうギリギリ。ラストチャンスです。
確かに。不正疑惑とか、身売りする大企業とか、出て来てますもんね。
でも結局、政治家は選挙のことを考えるから。「解雇やめろ!」っていう民意を恐れて、ハードランディングはしないような気がします。
じゃあソフトに。気がついた時には「これって解雇規制の緩和じゃないか」みたいな感じで?
どういうカタチかは分かりませんが、大手企業で大々的なリストラが起こることは間違いないです。
でも、そんな危機感を感じないんですけどね。大手企業の年配の人からは。
僕にはそれが、よく分からないんですけど。
もし逃げ切れないと思ってたら、もうちょっとその準備をしませんか?普通は。
たとえば、どんな準備ですか?
副業で稼ぐとか、休みの日に中小企業に行って修行させてもらうとか。
そんなことが出来る人なら、会社から「残ってくれ」って真っ先に言われますよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。