経営者のための映画講座 第67作『2001年宇宙の旅』

このコラムについて

経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週木曜日21時。夜のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。

経営者のための映画講座 第67作『2001年宇宙の旅』

『2001年宇宙の旅』の♪デイジ~デイジ~♫は警鐘か福音か。

スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』が日本で公開されたのは1968年の4月。オリンピックが終わり、大阪万博が間近に迫っていた時期だ。そう考えると、ちょうど1年遅れのTOKYO2020が終わり、2度目の大阪万博を控えた今の時期によく似ている。

アメリカの同時多発テロがまだ起きていなかった2000年あたり。「日本の景気はいつ戻ってくるんだろう」「もう無理なんじゃない」なんて会話をしている最中に誰かがふいに「おい、来年って2001年だぜ」と言うのを何回か聞いたし、自分でも言った気がする。

映画は大きく三つのパートからなる。まず、猿が動物の骨を道具として使い始め、猿から人への進化を示唆するオープニングから宇宙旅行が当たり前になった2001年の風景へといたるパート。次は宇宙旅行の間にコンピータHALが暴走し、知能を失うパート。そして、最後に乗組員であるボーマン船長がスターチャイルドへと進化していくパート。

これらのパートがほとんどセリフのないなかで進行していく。キューブリック作品は例外なく原作ファンから非難されることが多いのだが、そのほとんどが「わかりやすさ」の排除にあるからだと思う。だからこそ、原作ファンからは、あそこで理由を明確にしないと伝わらないじゃないか!ということになる。しかし、キューブリックはわかりやすさよりも、映画として「感じさせる」ことを優先する。宇宙空間は、こんな理由で不気味なのだ、と説明するよりは、ただ不気味な空間を提示するのである。

そして、この映画最大の見せ場はマザーコンピュータHALの暴走だ。人と同じように危険を察知し、人よりも迅速にそれに対応することを目的に作られたHALにとって、人は最大の憧れであり最大の敵になる。だからこそ、HALは壊れてしまう。HALが歌う調子の外れた「デイジー、デイジー」という歌は私たち人への警鐘であり、なにかを考え直すタイミングを教えてくれる福音でもある。

組織内の調子っぱずれな不協和音を警鐘ととるか福音ととるか。そこが問題だ。

著者について

植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。

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