第70回 「庭の記憶」が育む、これからの日本に必要な感性

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第70回 「庭の記憶」が育む、これからの日本に必要な感性

安田

最近は虫どころか、木にすら触ったことがないという子どもも増えているそうで。自然との距離がどんどん離れているように感じます。


中島

確かにそうかもしれません。庭づくりのご依頼でも、「木は植えたくない」という方が一定数いらっしゃいますし。

安田

えっ、中島さんにお願いするような人でも、木を敬遠するんですか? 自然を生活に取り入れたい方ばかりだと思っていました。


中島

もちろん、施工事例などをご覧いただいて「木をうまく使ってほしい」と希望される方も多いですよ。ただ駐車場やカーポートの施工を優先すると、そういった部分で調整するしかなくて。

安田

なるほど。まさに機能性を重視しているわけですね。ちなみにそういう「仕方なく」のパターンではなく、手間がかかるからという理由で樹木を敬遠する向きもあるんでしょうか。


中島

ありますね。「葉が落ちるのが嫌だから、葉の落ちない木を植えてほしい」というご要望も多いです。

安田

ああ、なるほど。でも葉の落ちない木なんてあるんですか?


中島

常緑樹は比較的葉が落ちにくいんですが、それでも多少は落ちます。完全に落ちないものとなると、サボテンドラセナなど、日本の木ではない植物になってしまいますね。

安田

う〜む、それってもう「庭」というより「室内観葉植物の延長」じゃないですか。


中島

そうなんです。でも手間を省きたいというニーズを考えると、そういう選択をせざるを得ないというか。

安田

昔は親世代が松を植えたりして庭を手入れしたりしてましたけど、今の世代はそういうのも負担なんでしょうね。


中島

そうですねぇ。むしろ親世代が「木の管理は大変」とボヤいているのを聞いて、自分が家を作るときには気をつけよう、という気になるのかもしれません(笑)。

安田

ああ、なるほど(笑)。そっちのパターンもあり得るわけですね。でも、この対談でもよく教えて下さいますが、管理が大変じゃない木もたくさんあるんですよね?


中島

そうなんです。むしろ今は比較的手のかからない木が主流になっているくらいで。でもその情報が広がりきっていない印象がありますね。

安田

我が家でも子どもが自然に触れる機会を増やしたくて、田舎までドライブして遊ぶようにしてます。もうすぐ5歳になるんですけど、だんだん木や葉っぱに興味を持つようになってきました。


中島

へぇ、素晴らしいですね! 身近な自然に興味を持つことから始めるのが一番ですから。

安田

最初はイチョウから教えたんですが、そこからだんだん他の木にも興味を持つようになって。最近ではツバキが咲いたと教えてくれるようになりました。


中島

いいですねぇ。僕もお庭づくりを通じて、もっとたくさんの人に「自然の魅力」をお伝えできたらと思うんです。お庭のある家で育ったお子さんから、さらに次の世代へと広がっていったらいいなと。

安田

ああ、素晴らしいです。でもあらためて考えると、日本の自然ってすごく豊かで魅力的だと思うんです。実際、欧米のような日本より文化が進んだところから、日本の自然を見に飛行機で20時間もかけて来たりするわけですよ。

中島

ああ、確かに。四季によって変化する山の色や、滝を見るために来たりするわけですからね。

安田

そうそう。インバウンドというと、家電製品を買いに来るようなイメージも強いですけど、豊かな自然目当てに来る人も多いんです。それくらい素晴らしいものなのに、なぜか日本人自身はそれに気づいていない。

中島

確かに。身近すぎて当たり前になってしまってるのかもしれませんね。

安田

これって商売にも言えることで、日本人はとかく安いものや便利なものを売ろうとしがちですけど、もう少し「心が欲するビジネス」にシフトチェンジすべきだと思っていて。

中島

なるほど。安さや便利さ以外にも目を向けていくことが大事なんでしょうね。実際お庭を作っていても、コンクリートや人工芝を敷くだけなら、あっという間に終わってしまうんです。でもそれでは味気ないような気がして。

安田

昔は休みの日に庭の手入れをするのも当たり前で、今よりもっと自然との距離が近かったんですよね。日本の美しい自然も、それを守ってきた先人たちがいたからに他ならないわけで。

中島

仰るとおりだと思います。自然を楽しむためにいろいろと工夫をしてましたよね。桜の木を植えてその景色を楽しむための道を作ったり。

安田

そういう感性というか、自然との距離を取り戻すためにも、子どもたちが「実家」と言えば庭を思い出す、そんな家が増えると素敵ですよね。

中島

ええ。そんなふうに感性を育むお庭を作っていけたらいいなと思います。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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