第21回 不正を生み出してしまう環境とは

この対談について

「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。

第21回 不正を生み出してしまう環境とは

安田

今回は最近物議を醸している「ビッグモーター」の話題について、若手経営者の中辻さんの見解をお聞かせいただこうかなと。


中辻

あ~なるほど。わかりました。

安田

「業績をあげろ」と会社が社員にプレッシャーをかけるのはわかるとして、今回の件は多数の不正、そして違法行為までも含まれているわけで、完全にアウトです。


中辻

そうですね。経営者は業績を良くするためみんなを引っ張っていく立場ですけど、今回の件は、副社長のプレッシャーの強さが常軌を逸していたんだと思います。

安田

社長の責任というよりも、副社長、つまり現場責任者のほうが罪が重いのではないか、ということですか?


中辻

個人的にはそう思います。あれだけ大きな会社の社長さんだと、現場のことを事細かく見ることはできないはずです。全体の現場責任者だった副社長以下、各店舗をまとめる店長などのマネジメントに問題があったんじゃないかなと思いますね。

安田

なるほど。でも重要なのはなぜ間違ったマネジメントが横行したか、ですよね。多くの人は理由なく不正をしたいとは思わないはずで。


中辻

そうですよね。今回の件で言えば、冒頭安田さんが仰ったように、「業績を上げろ」という上からのプレッシャーが原因だと思います。「不正をしてでも目標を達成しないと」と思ってしまうくらい強いプレッシャーだったんでしょうね。

安田

そうでしょうねぇ。ただ、それだと話が堂々巡りになってしまいます。会社は社員にプレッシャーを与えるもの、社員は何としてでも業績を上げる。その理屈が成り立つ以上、どこかでまた今回のようなことが起こってしまう。


中辻

確かに、上の人間が「できるだけ利益を上げろ」「目標は絶対に達成しろ」とけしかけるのは、ある意味当然のことではあります。ただ、実際に現場で勤務している側との認識には誤差があることを忘れてはいけません。

安田

誤差というと?


中辻

先ほど「社長が現場を事細かに見ることはできない」という話をしましたが、経営陣と現場との間には必ず認識の差ができるわけです。それを無視して無理な目標を下ろすから、今回のようなことが起こる。

安田

なるほど、上はその誤差を踏まえて目標を立てるべきだと。あるいは、上層部と現場をつなぐ「架け橋」のような人がいるといいかもしれませんね。


中辻

そうですそうです。ビッグモーターでは上の人間が頻繁に店舗調査をしていたという話もあるじゃないですか。そこで偉そうに権力を振りかざすのではなく、しっかり現場の声を吸い上げてあげればよかったのにって思います。それで「いま現場はこんなに苦しいですよ」と役員や社長に進言すべきだったんじゃないかなと。

安田

本当ですね。そうできていればこんなことにはなっていなかったでしょう。


中辻

ですよね。せっかく頻繁に店舗に行っていたのに、もったいないなぁと思います。

安田

ともあれ、社長・副社長ともに「顧客満足より業績」という意識でいたら、もうお手上げというか。お客さんの不利益になろうが構わない。サービスや商品のクオリティは後回しだ。そんな風に考えている人が、現場の気持ちを慮ってくれるとは思えません。


中辻

そうなんですよね……。だから、業績はもちろん大事なんですけど、それを唯一絶対の目標持ってきてしまうのは違うんじゃないかなと。

安田

ちなみに中辻さんは、ご自身が経営を任されている中で、現場にどういった声掛けをされているんですか? 数字1番という管理、ではないですよね?(笑)。


中辻

違いますね(笑)。よく言うのが、「個々人のキャパやポテンシャルは、全員が同じ方向を向いて一致団結したときに初めて120%の力で発揮されるんだ」ということです。

安田

ほぉ。それは具体的にどういうことなんでしょう?


中辻

例えば人件費で100万円かかっていた作業を、一致団結することで50万円に抑えられたら、差分の50万円は利益になりますよね。つまり、売上をアップさせることだけが利益に直結するわけではないんですよ。

安田

確かにそうですね。社員さんがより効率良く仕事ができるようにしたり、社員満足度を上げてもっと頑張ってもらえるようにしたり、そういう面からも業績UPは可能ですもんね。


中辻

仰る通りです。結局、「どうしたら会社に利益が残るのか、どうすることが会社の利益になるのか」を、様々な方向から考えることが重要なんだと思います。

安田

でも先ほどのビッグモーターのように、「現場が一致団結して120%の力を出しても達成できない目標」を掲げられちゃうこともありますよね。やはりこの場合は、端的に目標金額の設定が間違っているということなんでしょうか。


中辻

う〜ん、難しいですねえ。経営者としては今月100万円達成できたのなら、当然来月は120万円いけるでしょ、となってしまいますからね。

安田

そうですよね。先ほどの中辻さんのお話だと、もっといろんなやり方で利益を上げる方法を探す、というのがいいのでしょうけど……。


中辻

結局、会社の体制を改革するしかないんでしょうね。現場社員と役員・リーダークラスの人たちが分断していなくて、積極的に意見を言えるような関係性を作るというか。

安田

確かにそうかもしれませんね。「数字が上がれば、それが不正によって為されたものであっても出世できる」。こんなシステムでは、まともな人は離職していきますよ。


中辻

仰る通りだと思います。でもビッグモーターも、昔はそういう会社ではなかったと信じたいですけどね。どこかで歯車が狂っちゃったのかな、と。だから頑張って復活して欲しいなとは思っています。

安田

なかなかビッグモーター想いですね(笑)。


対談している二人

中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役

Twitter

1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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