第214回 自己満足の商品

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

「他店と異なる自分のお店だけの商品を作りたい」
商売を始めるときに、こう考える人は多いのではないでしょうか。

私の仕事で例えるなら、今まで見たこともないような食事のメニューや、意外なレシピのカクテル。

こうした商品を考えようとすること自体は私も間違っているとは思いませんし、現在私のお店で売れているカクテルの中にオリジナルの商品が入っているのも事実。

ただ一方で、自分のお店だけの商品を作ることができれば商売が上手くいくのかと考えてみるとそうは思えず、むしろ他のお店と似たような商品こそが商売の成否を決めているようにも感じるのです。


開業時にオリジナル商品を売ってみて分かったこと。
それは、お店側からすれば「自分のお店だけの商品」という満足感があるものの、お客さん側からすれば味や体験が想像しづらい商品は注文するのが怖いということ。

実際、当時の私のお店で売れた商品を思い返してみても、注文の多かった商品というのは他のお店でも注文できる商品ばかりであり、私が考えたオリジナル商品を注文されることはほとんどありませんでした。

これは自分がお客さんの立場になってみればよく分かります。

全く聞いたこともないお店に行って、いきなりそのお店のオリジナルの商品を注文するのかと考えると私でもそんな事はしないですし、まずは自分が名前を知っている失敗のなさそうな商品を注文するでしょう。

つまり私は自分ではやらない事をお客さんに期待していた訳であり、お客さんの知っている商品の質を上げようとせず、自分のお店だけのオリジナル商品を作ることに力を注いでいたのは、ただの自己満足だったということ。

お客さんが知っている商品の質で信頼を得られた先にオリジナルの商品を頼んでみるという流れがあるならば、お客さんが知っている商品に力を注がなかった私のお店のオリジナル商品が注文されなかったのは何の不思議でもなく、そんなお客さんの視点に立っていない事に気づかず自己満足の商品ばかりを売ろうとしていたお店が繁盛しなかったのは当然だった、と今は思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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