2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第170回「17歳の自分探し」
第171回「小さくまとまることのススメ」
お笑い芸人の有吉さんが結婚しましたね。
はい。夏目三久さんと。
夏目さんは結婚を機に仕事を辞めちゃうみたいです。
専業主婦になるらしいですね。
有名人の結婚ってすれ違いが多いらしくて。そうなりたくないから仕事を辞めるっていう。
十分稼いでますからね。
それもあるんでしょうけど。コロナを機に仕事を辞めるアナウンサーさん、最近ニュースでよく見かけます。
しんどい職業ですからね。アナウンサーって。
それは分かります。でもアナウンサーってすごい倍率を通り抜けて、容姿も端麗で頭もよくて、年収だってそこらへんの男よりはるかに稼いでて。
まあね。
それをあっさり辞めてしまうってすごい決断ですよ。
アナウンサーで入社しても全員が売れるわけじゃないから。異動しちゃう人もいるし。昔ニュースを読んでた人が今はIR室にいたり経営企画にいたり。
それでも稼ぎはすごいでしょう。
普通のOLよりは稼いでます。でも高い収入を維持できる人って一握りじゃないですか。次から次へと若い人が出てくるわけですし。
固執するほどの仕事ではないと。
続けるのはしんどいと思いますよ。ほんの一握りがフリーアナウンサーになってすごく稼いでいるように見えるだけで。
今までも辞めちゃう人っていたんですか?
一定数はいましたね。新陳代謝が起こるから退社する人は毎年います。
アナウンサーって女性のあこがれの職業ですし、収入もいいわけで。それをポンと捨ててしまうっていうのが、なんか時代を感じるんですけど。
もちろん時代の変化もあると思います。
お金とかステータスより、もっと大事なものがあるんじゃないかっていう。
世の中がそういう空気になってきてますからね。
コロナを機に辞める人が出てきたのも、「お金がなくても、有名人じゃなくても、普通の小さな幸せでいいや」みたいな。
世代的に「つながり」重視なんでしょう。
つながり重視ですか。
消耗が激しい割になかなか相談できる人も少ない。脚光を浴びれば浴びるほどきついだろうし。そういうときに親身になって話を聞いてくれる人が出てくると。
辞めちゃいますか。
その人とずっと繋がっていたいっていう気持ちが、強くなるんじゃないんですか。
コロナで時間が止まっちゃった感があるじゃないですか。
ありますね。
自分を見直すいい機会になったでしょうね。
そう思います。
それで価値観が変わっちゃった人も多いのかなって。
多いと思いますよ。
ポストコロナで仕事を変えるとか、生き方を変える人が増えていく気がします。
じっさいに転職相談はものすごく多いらしいです。
やっぱりそうですか。
ええ。ものすごく忙しいって聞いてます。あと「住まいを変える」とか「家族と一緒に過ごす時間を増やす」とか。ライフスタイルを根本的に見直したい人が増えてますね。
アナウンサーって、すごく朝早い番組を担当したり、夜遅かったり、学生時代の友だちにも会えないそうです。
まあ会えないでしょうね。
収入とかステータスと引き換えに失うものがものすごく大きい。これまでの常識では収入やステータスの優先順位が高かったですけど。
そこは大きく変化しつつあります。
お金よりも普通の生活をとる人が増えてる感じですよね。
間違いなくそうだと思います。
とは言えもったいない気もします。アナウンサーを辞めちゃうなんて。
とくに今の時代は大変なんですよ。アナウンサーにも高潔性をすごく求めるじゃないですか。
高潔性ですか。
芸能人の不倫だって、昔はあんなの当たり前のようにあったけど。いまはものすごく叩かれるじゃないですか。
昔は「芸の肥やし」とか平気で言ってましたから。
そうそう。
いまはえらいことですもんね、不倫なんてしたら。
そういう時代なんですよ。お笑いで頭たたくのもだめだっていう話ですから。
つまり「生きにくくなってる」ってことですか。
価値基準が変わったんでしょうね。財産とか形のあるものより、人間の感情というものにすごく重きを置いてる。そういう価値観に世の中がシフトしちゃった。
もう成長路線には戻りませんか。
日本は行き着くところまで来たんですよ。とくに欲しい物もないし、いまは餓死するってこともないじゃないですか。
そうですね。
コンビニに行けばおいしいおにぎりやお弁当がいっぱいあるし。物に囲まれることへの渇望っていうのがない。とすると感情を優先する方に行きますよね。
そういうエネルギーのなさが「日本をだめにしたんだ」って言われてますけど。
もう「競争を勝ち抜いて成長させる」って時代は終わりです。
これからはどういう時代になるんでしょう。
これから先は「もっと幸福度の高い、精神的な豊かさ」を実現するために、いろんなテクノロジーを考える時代です。
お金や社会的ステータスは人生の目標にはならなくなってくると。
そんなに働かなくても生活できるのであれば「みんなもうちょっと遊びましょう」って話になるじゃないですか。
そんなに頑張らなくてもいいと。
ある意味、目標に達したんですよ日本は。
江戸時代に逆戻りしちゃった感じですね。
そうそう(笑)坂の上の雲をつかんだと思ったら、「俺はいったいなにをやってるんだろう?」みたいな。虚無感に襲われてるんじゃないですか。
「世界第2位の経済大国になったけど、大して得るものはなかった」みたいな。
お父さんもぜんぜん帰ってこないし。体壊すまで働いて、最後はマイホームぐらいしか残らない。「あんなのもういいよ」って子供は思いますよ。
たしかにそうですね。
「あなたもね、となりの安田さんみたいに仕事は5時で終わりにして、毎日一緒にご飯食べて、ああいうふうになりなさいよ」って、たぶん言われてますよ。
言われてますかね(笑)
もう週休3日へのシフトは始まってますから。10年以内に週休3日になりますよ。
ますます働くことへの意欲は下がっていきますね。
それでいいんです。縮小均衡で小さく幸せにまとまっていけばいい。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。